カルマル同盟
カルマル同盟は、1397年に北欧の都市カルマルで成立したデンマーク・ノルウェー・スウェーデンの同君連合である。発案者はデンマーク女王マルグレーテで、名目上の即位者はポメラニア公出身のエーリクであった。各王国は法や身分制などの内政制度を保持しつつ、対外政策と王位継承を一体化してバルト海世界での安全保障と通商上の利益を確保しようとした。背景には、バルト海交易の利害、ハンザ同盟の経済的優勢、ドイツ騎士団の勢力、ならびに北欧諸王権の内紛があった。同盟は理想と現実の乖離に常に悩まされ、スウェーデン貴族の抵抗や王権の財政基盤の脆弱さから継続的な動揺に晒された。最終的には1523年のグスタフ・ヴァーサ即位によりスウェーデンが離脱し、連合は事実上崩壊したが、デンマークとノルウェーの同君関係は近世まで続いた。
成立の背景:バルト海世界と北欧の勢力均衡
14世紀後半の北欧は、黒死病後の人口変動、農村経済の再編、そしてバルト海交易の拡大という長期的変化のなかにあった。カルマル同盟構想の根本には、海上交易の関税・積替港の掌握、船舶保護、海賊対策など経済安全保障の課題があり、同盟は諸王国の資源を統合してハンザ都市に対抗することを目指した。また、王位継承を統合することで、王朝間抗争を抑え、域内の軍事動員を効率化する意図もあった。
組織と統治:同君連合という枠組み
カルマル同盟は単一国家ではなく、同一君主が三王冠を継承・統治する「同君連合」であった。王は連合全体の対外政策と王位継承を主導するが、各王国は固有法・議会(スウェーデンのリクスダーグ、デンマークのリグスロード等)・地方慣行を保持した。王権の収入源は主として王領地収益と関税であり、とくに海峡通行にかかる徴税は軍備維持の生命線であった。ただし、徴税や兵站の配分はしばしば王国間の不均衡を生み、反発の火種となった。
対外関係:ハンザ同盟・ドイツ騎士団・バルト海交易
バルト海は穀物・木材・毛皮・鉄の流通路であり、ハンザ同盟は中継と信用供与を通じて北欧経済に深く浸透していた。カルマル同盟は海上権益の回復と商人保護を掲げ、外交圧力や軍事示威により運賃・関税の主導権を取り戻そうとしたが、都市連合であるハンザの分散的な交渉力に苦慮した。また、東方ではドイツ騎士団国家がプロイセン沿岸に勢力を張り、港湾アクセスと関税利権をめぐる摩擦が断続的に続いた。
内部対立:スウェーデン貴族と王権の緊張
同盟内部で最大の対立は、スウェーデン貴族・鉱山都市・地方有力者とデンマーク主導の王権とのあいだに生じた。鉱山業の利得配分、城砦の管轄、外貨収支などをめぐって緊張が高まり、1430年代のエンゲルブレクト反乱に象徴される抵抗運動が広がった。スチューレ家の台頭は、摂政体制のもとでスウェーデンの自立志向を強め、連合の統合施策を骨抜きにした。王権側は統一的徴税と軍制改革を進めようとしたが、各身分の同意を取り付けられず効果は限定的であった。
崩壊の過程:ストックホルム血浴とグスタフ・ヴァーサ
デンマーク王クリスチャン2世は、反対派の制圧と中央集権化を試み、1520年にストックホルムで反対貴族を処刑した(いわゆる「ストックホルム血浴」)。この強権は逆に反発を増幅させ、グスタフ・ヴァーサの蜂起と1523年の即位へとつながった。スウェーデン離脱によりカルマル同盟は機能停止に陥り、以後はデンマーク=ノルウェーの枠組みが中心となって北欧政治が展開することになった。バルト海の覇権はやがて17世紀のスウェーデン大国時代に再編され、同盟の遺産は均衡の取り方という形で残った。
制度と財政:連合を支える仕組み
同盟の安定には、王権の財政基盤・軍事動員・法的合意の三点が不可欠であった。財政では関税と王領地収益が柱で、戦時は臨時課税が加わる。軍事では傭兵の調達や艦隊整備が重く、港湾・城砦の維持費が慢性的に財政を圧迫した。法的には王位継承の規約や各王国の特権再確認が交渉材料となり、政治は「合意の積み重ね」に依存したが、それが同時に決定の遅延と権限分散を招いた。
年表(主要項目)
- 1397年:カルマルでの戴冠。エーリクが三王冠の王となり、カルマル同盟が始動。
- 1430年代:エンゲルブレクト反乱。スウェーデンで反デンマークの潮流が強まる。
- 1470年代:スチューレ政権期、スウェーデン自立の制度化が進展。
- 1520年:ストックホルム血浴。クリスチャン2世の強権が反発を招く。
- 1523年:グスタフ・ヴァーサ即位。スウェーデン離脱により連合は事実上解体。
人物と用語
- マルグレーテ:同盟構想の推進者。権力統合と身分協調の両立を志向した。
- エーリク(ポメラニア公):1397年に即位した連合王。対外政策と徴税強化を進めた。
- スチューレ家:スウェーデン摂政家門。連合内の自立志向を体現。
- ストックホルム血浴:1520年の集団処刑事件。崩壊の転機となる。
- 同君連合:単一国家ではなく、君主を共有する政治形態。
意義と影響:北欧史の長期的文脈
カルマル同盟は、統合と多元性の緊張を抱えた「広域ガバナンス」の早期事例である。経済安全保障の共同化、通商路の管理、法と特権の相互承認は、のちの北欧協調や地域秩序の雛形を提供した。他方、財政・軍事・制度の非対称性は、同盟持続の限界を示した。連合の経験は、主権と地域協力の両立という課題を後世に提起し、バルト海世界の均衡形成に長期的な影を落としたのである。