カルテル|複数の企業が競争を制限し価格を調整する

カルテル

カルテル(独: Kartell、英: cartel)とは、同じ産業部門に属する複数の独立した企業が、過度な競争を避けて高い利益を確保することを目的とし、価格、生産量、販売地域などについて協定を結ぶ独占形態の一つである。企業連合とも呼ばれる。カルテルを結ぶことで、参加企業は市場における競争を制限し、独占的な地位を形成しようとする。この形態は、企業が法的な独立性を保ったまま協定を結ぶ点において、企業同士が合併して一つの企業体となるトラスト(企業合同)や、持株会社などを通じて複数の企業を支配下に置くコンツェルン(企業連携)とは区別される。通常、カルテルは消費者の利益を損ない、経済の健全な発展を阻害するため、多くの国で法律により原則として禁止されている。

カルテルの歴史と形成の背景

カルテルという経済形態が顕著に見られるようになったのは、19世紀後半のヨーロッパ、特にドイツにおいてである。産業革命を経て資本主義が高度に発達する過程で、大量生産体制が確立されると、企業間の競争は激しさを増していった。激しい価格競争は企業の存立を危うくする恐れがあったため、各企業は互いの利益を守るために協定を結ぶようになった。とくにドイツでは、鉄鋼や石炭などの重化学工業分野において強力なカルテルが形成され、国家の産業政策と結びついて経済の大きな推進力となった。一方、アメリカではカルテルよりもトラストの形態が発展したが、いずれの国においても独占資本の形成は社会的な問題となり、やがて独占を規制するための法制化が進められることとなった。

日本史におけるカルテルと財閥の展開

日本におけるカルテルの歴史は、明治時代から大正時代にかけての近代産業の発展とともに本格化した。日清戦争や日露戦争を経て、紡績業や製糸業、石炭業などで生産調整を目的としたカルテルが結ばれるようになった。また、日本独特の経済体制として、三井、三菱、住友などを代表とする財閥が形成された。これらの財閥は、金融機関を中核として多岐にわたる産業を支配するコンツェルンとしての性質を持っていたが、同時に各産業部門においてカルテルを主導し、市場の独占と価格の統制を行った。昭和恐慌期などの不況時には、政府の主導のもとに重要産業統制法が制定され、国家の承認のもとで強制的なカルテルが推進されるなど、戦前の日本経済においてカルテルは極めて重要な役割を果たしていた。

戦後のGHQ政策と独占禁止法の制定

第二次世界大戦後、日本を占領したGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は、日本の軍国主義の経済的基盤であった財閥の解体と、経済の民主化を強力に推進した。その一環として1947年に制定されたのが独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)である。この法律の制定により、不当な取引制限としてカルテルは原則として禁止され、企業間の公正で自由な競争を促進するための法的な枠組みが整えられた。また、この法律を運用し、監視・摘発を行うための独立行政委員会として公正取引委員会が設置された。これにより、戦前の政府主導によるカルテル容認の政策は大きく転換し、日本の市場経済は新たな競争の時代へと移行することとなった。

適用除外カルテルとその変遷

独占禁止法によって原則禁止とされたカルテルであるが、日本の高度経済成長期には特定の条件下で例外的に認められる「適用除外カルテル」が存在した。代表的なものとして、深刻な不況時に企業倒産を防ぐための不況カルテルや、技術向上やコスト削減を目的とした合理化カルテルなどが挙げられる。これらは通商産業省(現在の経済産業省)の主導による産業保護政策の一環として活用されたが、1990年代以降の規制緩和や国際的な競争政策の調和の潮流の中で批判が高まり、1997年の独占禁止法改正によってこれらの適用除外制度は原則として全廃されるに至った。

カルテルの主な種類

カルテルはその協定の対象となる内容によって、いくつかの種類に分類される。参加企業がどのような方法で競争を回避し、利益を確保しようとしているかによって、市場に与える影響も異なる。主なカルテルの種類は以下の通りである。

  • 価格カルテル:参加企業が製品やサービスの販売価格の最低限度を協定し、価格競争を排除する形態。
  • 数量カルテル:各企業の生産量や販売量の最高限度を定め、市場への供給量を絞ることで価格の維持・引き上げを図る形態。
  • 販路カルテル:販売地域や販売先となる顧客を企業間で分割し、それぞれのテリトリー内での独占を認める形態。
  • 入札談合:公共工事などの競争入札において、参加業者が事前に話し合い、落札者や落札価格を決定する行為。これもカルテルの一種とみなされる。

独占形態の比較

カルテルは資本主義経済における独占形態の一つであるが、その結合の強さや形態によって、トラストやコンツェルンといった他の独占形態とは明確に区別される。各形態の特徴と違いは以下の表に示す通りである。

形態 別称 特徴と法的独立性
カルテル 企業連合 同一産業の企業が、価格や生産量に関して協定を結ぶ。各企業の法的独立性は維持される。
トラスト 企業合同 同一産業の複数の企業が合併し、一つの巨大な企業となる。参加企業の独立性は完全に失われる。
コンツェルン 企業連携 持株会社などを頂点とし、金融、産業、商業など異業種の複数の企業を株式所有によって支配・統括する。

現代社会におけるカルテルの課題

現代のグローバル化した経済において、カルテルの摘発と防止は各国の競争当局にとって極めて重要な課題となっている。カルテルが結ばれると、市場の価格メカニズムが機能しなくなり、消費者は不当に高い価格で商品やサービスを購入させられる不利益を被る。さらに、企業間の競争がなくなることで、技術革新や経営の効率化へのインセンティブが失われ、経済全体の活力が低下する。近年では、複数の国にまたがって事業を展開する多国籍企業による国際カルテルが摘発される事例も増加しており、各国の競争当局間の国際的な連携や、違反企業に対する巨額の課徴金制度、さらには違反を自主申告した企業の処分を減免するリーニエンシー(課徴金減免)制度の導入など、カルテルを根絶するための法整備と監視体制の強化が継続して進められている。

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