カメラウォッシャ
カメラウォッシャは、車両のフロント・リア・サイドなどに搭載されたカメラのレンズ面から泥、水滴、霜、塩分、虫などの付着物を除去し、視認性と画像認識性能を安定させる洗浄機構である。ADASや自動運転においてカメラは物体検出、レーン認識、標識読取りの基幹センサーであり、レンズ汚れは検出精度低下や誤認識を招くため、オンデマンドで確実に洗浄できることが安全・品質の要件となる。
目的と役割
カメラウォッシャの目的は、①カメラの光学透過率の回復、②画像処理アルゴリズムの安定、③センサー冗長系における可用性確保である。従来のワイパーやウォッシャがフロントガラスの視界を担うのに対し、車外に分散配置された複数カメラのレンズ個別洗浄を担い、悪天候・未舗装路・融雪剤散布環境でも検出性能を設計値に保つ。
基本構成
典型構成は、ウォッシャタンク、ポンプ、配管、電磁弁、ノズル、ハーネス、制御ユニット、ブラケットから成る。ノズルはファン噴霧型やジェット型が用いられ、レンズ中心に対し短時間で均一な被覆率を得るよう指向性が設計される。ブラケットは走行振動や熱変形に耐え、位置ズレを抑えるために高剛性であることが望ましい。固定部の締結にはボルトが多用され、耐食性や緩み対策が重要である。
作動原理
制御はECUからのコマンドでポンプが起動し、電磁弁の開閉と同期してレンズへ洗浄液を噴射する。車速、外気温、ワイパー作動、レインセンサー、カメラの汚れ推定(輝度ヒストグラムやエッジ量変化)と連携し、CAN経由で洗浄要求を受け自動または手動で作動する。噴射は数百ms〜数秒の短パルスで行い、液滴残りを抑えるための追い風条件やノズル角度がチューニングされる。
洗浄液と環境適合
洗浄液は一般的なウォッシャ液をベースに、低温流動性、乾き跡(ウォータースポット)抑制、ポリカーボネート対応性が求められる。寒冷地では不凍配合とライン保温、凍結時のポンプ保護が必要である。塩害環境では噴射後の残液による腐食を招かぬよう、ドレン設計や材料選定を行う。
ノズル設計
ノズルはレンズ面の曲率やカバーガラスの撥水処理有無に応じ、衝突角と液膜の広がりを最適化する。過大な噴射圧はミスト化による再付着やカバーガラスの微傷を誘発するため、流量・圧力・粒径の三要素をバランスさせる。耐泥性が求められるSUV/商用車では、初期にジェットで固着物を剥離し、その後ファンで面を洗う二段制御が有効である。
制御ロジック
- 自動作動:カメラ自己診断の汚れ指標が閾値超過、またはレインセンサー高出力時にトリガ
- ドライバ要求:スイッチ入力で即時噴射、HMIに完了通知
- 連動抑制:ハイビーム対向時や歩行者近接時の噴霧拡散を抑える
- 節水制御:短パルス多段噴射で消費液量を抑制
性能評価
評価は「洗浄到達率」「清浄化時間」「残滴面積率」「画像復帰時間」「再汚染耐性」で行う。風洞での車速別噴霧挙動、環境槽での低温・凍結解除、泥水付着再現、塩水噴霧、振動・耐久試験により、実走と同等のストレスを与える。画像品質はMTFやコントラストSNRの回復度、物体検出のmAP回復率で定量化する。
信頼性と故障モード
代表的な故障は、ノズル目詰まり、配管リーク、逆止弁不良、ポンプ焼付き、配線断、位置ズレによる外れ噴射である。対策として、フィルタの目開き最適化、耐寒材の採用、逆止弁の応答管理、サービス交換性の確保、自己診断DTCの設定が挙げられる。メンテナンスでは定期的な液補充とノズル清掃が推奨される。
取り付けとレイアウト
ノズルはレンズ中心からの距離と入射角が重要であり、バンパー開口やエンブレム背面などの設置制約と歩行者保護要件を同時に満たす必要がある。取付部は熱変位と公差累積を考慮し、組立誤差でも噴射コーンが視野内に収まるよう公差設計を行う。締結部の耐振性向上にはボルトの座面設計や防緩緩衝材が有効である。
光学面との協調
レンズやカバーガラスに撥水・親水コーティングを施す場合、濡れ性に依存して液膜挙動が変化するため、噴射角と粒径を変更する。照明一体型カメラでは、イルミネータの吐出流がフレアやゴーストを誘発しないよう、洗浄後の残滴位置を画角外へ排出する形状設計が必要である。
システムインテグレーション
カメラウォッシャは、ボディECU、ワイパーECU、カメラECUと連携し、CAN/LINで状態監視される。走行中の連続噴霧は前方車両や歩行者への飛散を招くため、車速・ステア角・ウィンドの開閉状態などを条件に含める。診断ではポンプ電流、弁応答時間、液量推定をログ化し、サービスに活かす。
規格・防水・耐久
電装部はIP等級相当の防水・防塵性能が必要で、カメラユニットの防浸性と併せて水侵入を防ぐ。耐候性、耐薬品性、耐石跳ねが要求される領域ではハウジング材の選択が重要である。品質は工程内でのリークテスト、機能試験、トレーサビリティ管理により担保する。
噴射パターンの最適化
レンズ面の有効視野を最短時間で覆うには、ファン角、衝突位置、距離を設計空間とし、CFDやスプレー可視化で感度分析を行う。噴射音や振動の快適性にも配慮し、流体騒音のピークを避ける駆動波形を選定する。
寒冷地対策
配管の断熱、ヒータ内蔵、逆流防止でライン凍結を防ぐ。駐車中の着氷には、解氷パルスや温度しきいの自動運転を備える。凍結溶解の繰返しに対するクラックやシール劣化の耐久評価が欠かせない。
サービス性とコスト
ノズルへのアクセス性、工具点数削減、誤組付け防止形状、共通プラットフォーム化が量産・保守コストを下げる。消費液量の低減はタンク容量や車両質量にも寄与し、燃費・電費面の副次的効果がある。
人間工学とHMI
ドライバはステアリングまたはディスプレイ操作で対象カメラを選択でき、作動中はインジケータで通知する。頻繁な自動作動は違和感を生むため、トリガ閾値とクールダウン時間を設け、ユーザビリティを損なわないよう調整する。
将来拡張
機械式噴射に加え、微小ワイパー、圧縮空気ブロー、超音波振動、疎水コーティングの組合せで低消費・低飛散の洗浄を目指す動きがある。学習型の汚れ推定により、使用環境に応じた最小噴射でカメラ可用性を最大化するのがトレンドである。