カムスプロケット|バルブタイミングを高精度同期駆動

カムスプロケット

カムスプロケットは内燃機関のバルブ開閉を司るカムシャフトに取り付けられる歯車状の駆動輪である。クランク側のスプロケットとベルトまたはチェーンで連結し、通常はクランク回転の1/2で回転して吸排気弁のタイミングを与える。DOHCやSOHCを問わず用いられ、材質はSCM系合金鋼や中炭素鋼が多い。歯部は浸炭や高周波焼入れで高硬度化し、ハブやボスは靭性を確保する。設計では歯数比、ラップ角、締結方式、位相精度、NVH、量産公差の整合が要点となる。

役割と作動原理

カムスプロケットはクランクの角速度を1:2の比でカムへ伝達し、各シリンダの吸排気イベントを所定クランク角で発生させる。トルク伝達はベルトまたはチェーンを介し、歯飛びやスリップを抑えるため適正張力とガイド系が必要である。回転位相誤差はバルブタイミングの遅進角に直結し、燃費・出力・排ガスに影響する。

構造と種類

構造は固定式と可変式に大別される。固定式は単体のスプロケットで、キー・スプライン・クランプでカムに結合する。可変式はオイル圧や電動アクチュエータで位相を進遅させるフェイザと一体化し、アイドリング安定と高回転出力の両立に寄与する。ベルト駆動型はプーリ形状、チェーン駆動型はローラ用歯形を持つ。

歯形と伝達媒体

カムスプロケットのチェーン用歯形はローラ径・ピッチ・歯底R・歯先面取りで規定され、ISO 606等の規格寸法に整合する。サイレントチェーンでは倒れ歯リンクに適合した歯形が必要で、噛合効率と騒音のバランスが設計指標となる。プーリ型ではベルト歯形(HTD等)に合わせたプロファイルと逃げ加工を施す。

材料・熱処理・表面処理

歯部はSCM415などの浸炭焼入れで表面硬さHRC58–62、心部靭性を確保し、面圧・曲げ疲労に耐える。高周波焼入れや窒化で変形を抑える選択もある。腐食・初期摩耗対策に黒染めやリン酸塩皮膜、摺動面にはDLCを採用する例もある。油路に当たる面の仕上げ粗さと脱磁管理も信頼性に効く。

設計要点

  • 歯数比とラップ角:噛合歯数を確保し歯先応力集中を緩和する。
  • 締結:テーパ・スプライン・クランプボルトの選択。再現性ある位相基準を確立。
  • 位相マーク:組立・整備での一致確認を容易にする刻印や溝。
  • 剛性とバランス:薄肉化と慣性低減を図りつつ偏重心を補正。
  • 潤滑・ガイド:チェーン案内、テンショナ、オイル噴射の整合設計。

製造プロセス

  1. 素材成形:熱間鍛造・精密鍛造で繊維流れを歯元へ誘導。
  2. 機械加工:CNC旋削・フライスでボア、フランジ、キー溝を加工。
  3. 歯形加工:スロッティングやホブ加工で歯形形成、バリ最小化。
  4. 熱処理:浸炭焼入れ・高周波焼入れ後、歪み矯正。
  5. 仕上げ:基準面研削、面振れ・同心度を規格内に調整。
  6. 表面処理:防錆皮膜、必要に応じDLC等。

品質・検査

歯形ゲージ・ピッチ測定、歯先/歯底R、面振れ、同心度、硬さ、浸炭深さを全数または抜取で確認する。組立体ではトルク伝達試験、耐久(チェーン伸び連成)、NVH、熱衝撃を評価する。位相誤差(°CA)は量産統計で管理し、工程能力で保証する。

故障モードと対策

代表的な不具合は歯面摩耗、歯先チッピング、歯元疲労、面振れ増大、ボス部のガロッピングである。対策は歯面硬度・残留圧縮応力の付与、ラップ角確保、潤滑改善、テンショナ設定、ボス剛性向上が基本となる。チェーン伸びに伴う位相遅れはテンショナ・ガイドの見直しで抑制する。

締結と再現性

カムスプロケットの締結は摩擦クランプ、キー/スプライン、ハブ一体などがある。サービス性と位相再現性の観点で、マーク合わせと指定締付トルクの遵守が不可欠である。締結には高強度ボルトが用いられ、座面条件や潤滑状態を規定してばらつきを低減する。

NVHと効率

チェーン伝達は高温でもスリップに強いが、リンク衝撃やバックラッシュ由来のノイズが課題となる。歯底R最適化、リンクプロファイル適合、ガイド材質、オイル粘度設計で騒音・摩耗を抑える。ベルトは静粛だが熱・油劣化に配慮する。いずれも噛合効率と耐久のバランスが重要である。

関連機構との違い

歯車の直結減速と異なり、カムスプロケットは柔軟媒体を介するため衝撃緩和と位相ダンピング効果がある一方、温度や摩耗での位相変動を設計で吸収する必要がある。可変機構一体型ではオイル通路の清浄度やシール摩擦が応答性に影響する。

タイミングマークと位相測定

組立時はタイミングマークを基準にクランクとカムの位相を設定する。量産監査ではエンコーダやアングルセンサでクランク角度に対する弁イベントを測定し、指定許容差に収める。サービスではマークの視認性・耐食性・刻印深さが整備品質を左右する。

保守と交換の勘所

異音、始動性低下、出力低下、オイル中の鉄粉増加は劣化兆候である。テンショナとガイドを含む系で点検し、必要に応じ同時交換を行う。再使用禁止部品や新品チェーンとの位相ずれ再発防止に注意し、規定トルク・角度法を守る。

適用拡大と将来

ハイブリッド化でも可変位相機構と一体のカムスプロケットは高効率燃焼の要である。軽量化のための高強度鋼・粉末冶金・中空化、低摩耗コーティング、チェーン/ベルトの低騒音化技術が並行して進む。設計・製造・品質の三位一体で総合性能を最適化することが重要である。