オンボードチャージャ|AC/DC整流・PFC・絶縁方式

オンボードチャージャ

定義と役割

オンボードチャージャは電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)に搭載される車載AC-DC電源であり、商用電源のACを高電圧バッテリ向けのDCに変換する装置である。車外の充電設備(EVSE)が給電の制御・保護を担い、車内のオンボードチャージャが電力変換と電池充電プロファイルの追従を担う構成である。レベル1/2のAC充電に必須であり、双方向化によりV2HやV2Gの電力フローを実現する中核でもある。

構成要素と動作原理

主なブロックは、ACインレットと保護素子、EMIフィルタ、PFC(力率改善)段、絶縁型DC-DC段、出力フィルタ、BMS・車両制御ECUとの通信部である。ACはEMIフィルタでノイズを抑制後、PFCで高力率・低高調波のDCリンクへ昇整流され、LLCなどの高周波絶縁コンバータで電池電圧へ適応させる。温度・電圧・電流は多点計測され、BMSの充電要求(定電流/定電圧、セルバランス、温度制約)に追従する。

代表仕様と性能指標

家庭・商業施設の単相200 V級では3.3 kW〜7.2 kW、三相400 V級では11 kW〜22 kWが一般的である。重要なKPIは以下である。

  • 効率:94〜96%級(定格点)。部分負荷効率も重視される。
  • 力率:PF≧0.99(PFC段)。THDは低減設計が望ましい。
  • 出力:最大電圧200〜1000 Vクラス、最大電流数十A。
  • 密度:高周波化とSiC/GaNでkW/Lの向上を図る。
  • 冷却:強制空冷または液冷。熱抵抗の低減が要点。

電力変換トポロジ

PFC段はインターリーブブーストやトーテムポールPFCが主流である。トーテムポールはSiCGaNの高速特性を活かし、低損失・高周波化・部品点数削減に寄与する。絶縁DC-DC段はLLC共振や位相シフトフルブリッジが多く、ZVS/ZCSのソフトスイッチングでスイッチング損失とEMIを抑える。二次側は同期整流により導通損失を低減する。

双方向化とV2X

双方向オンボードチャージャはAC⇄DCの両方向動作を可能にし、V2HやV2Gなどのグリッド連携を支える。双方向PFCと双方向絶縁DC-DCを組み合わせ、系統へ力率・無効電力・高調波のルールに沿うよう制御する。ISO 15118系の通信(Plug&Chargeや電力取引メッセージ)とBMS連携により、需要応答や停電時給電のユースケースにも対応できる設計が求められる。

熱設計と信頼性

損失配分(導通、スイッチング、鉄損・銅損、整流、ゲート駆動、補機)を定量化し、ヒートシンク・ベースプレート・TIM・ヒートパイプや液冷プレートで熱経路を最短化する。SiC MOSFETのRds(on)温度係数、磁性体のコアロス、スナバとゲート抵抗によるdv/dt・di/dt最適化が発熱とEMIの両立に効く。高湿・塩害・振動対策としてポッティングやコーティング、ガルバニック腐食対策、デレーティング曲線の明示が有効である。

EMCと安全・保護

EMCは伝導・放射ノイズ、車載瞬低・サージ、静電気などへの耐性を設計初期から考慮する。コモン/ノーマル両モードのEMIフィルタ、シールド、最適レイアウト、スプレッドスペクトラムが有効である。安全面では強化絶縁・クリアランス/沿面距離、二重障壁、絶縁監視(IRモニタ)、過電圧/過電流/過温度、グランドフォルト検出、HVIL(高電圧インタロック)を実装する。系統側の漏電保護や接地はEVSE側が担うため、協調要件を満たすことが重要である。

通信とインタフェース

車外とはPWMパイロットやPLC(HomePlug Green PHY)を介してEVSEとやり取りし、ISO 15118やSAE J1772の要件に適合させる。車内とはCANやLIN等でBMS/VCUと接続し、充電許可、最大電力、セル温度制約、故障診断(DTC)を交換する。温度・電流センサは冗長化され、フェイルセーフ遷移や絶縁故障時の安全停止が定義される。

設計の勘所

高周波化は磁性体・ケーブル・基板のAC損を増やすため、巻線形状やLitz線、分布容量の抑制が要点である。レイアウトは帰還ループと高dv/dtノードを最短・最小面積に収め、シャントの寄生、ゲートループのリンギングを抑える。部品選定は熱・電気・機械の三位一体で、コンデンサのリップル定格、リレー/コンタクタの直流遮断能力、コネクタの定格温度上昇を満たす必要がある。

用語・関連領域

EVSE(充電設備)は給電の制御と保護を担い、オンボードチャージャは車内で電力変換を担う。DC急速充電は車外の大電力コンバータ(オフボード)を用いる一方、AC充電はオンボードチャージャが主役である。双方向化は家庭や系統とのエネルギーマネジメントに資するが、系統保護・通信・課金の統合設計が不可欠である。