オイルフィルター
オイルフィルターは、潤滑油や作動油中の摩耗粉・スス・酸化生成物などの微粒子を捕集し、摺動部の摩耗抑制と油劣化の遅延を目的とする濾過要素である。エンジン潤滑系では一般に全量を通過させるフルフロー方式を採用し、油圧機器では目標清浄度に応じた段階濾過(サクション・プレッシャ・リターン)の配置を行う。適切な捕集粒径と圧力損失、バイパス設定、媒体材質を総合的に整合させることが信頼性の鍵である。
役割と基本原理
オイルフィルターは、濾材(セルロース、合成繊維、マイクログラス等)により粒子を表面・深層で捕捉する。粒径分布に対する選択性は媒体の繊維径・密度・樹脂含浸条件で決まり、濾過精度は「公称」ではなく「絶対」あるいはβ値(βx=上流粒子数/下流粒子数)で表すのが望ましい。十分な濾過効率を確保しつつ、ポンプ吸込み不足や供給圧低下を招かないよう、圧力損失(ΔP)を許容範囲に収める設計が必要である。
構造とタイプ
- スピンオン型:金属缶に要素とバルブ類を内蔵しねじ込みで着脱する。量産車で広く用いられ、サービス性に優れる。
- カートリッジ型:要素のみを交換し、ハウジングは共用する。産業機械や近年の自動車で採用が増える。
- フルフロー:全流量を通す主濾過。安全性重視で目詰まり時はバイパス開放。
- バイパス(補助)濾過:流量の一部を微細濾過して清浄度を底上げする長期維持向け構成。
バルブと付属機構
アンチドレーンバックバルブは停止時の油抜けを防ぎ、再始動直後の空運転を抑制する。バイパスバルブは濾材の目詰まりや低温高粘度時のΔP上昇で所定圧に達すると開き、潤滑途絶を回避する。逆止弁やリリーフ通路の健全性はコールドスタート耐性と直結するため重要である。
性能指標
代表値として、エンジン用途では10〜25μm級の絶対精度、油圧系では3〜10μm級の目標が一般的である。β値はβ10≥75等の規定で評価され、ΔPは流量・油温(粘度)・媒体面積に依存する。バイパス作動圧は自動車用でおおむね100〜200kPa程度が目安で、過小は未濾過通過増、過大はエレメント崩壊やシール損傷のリスクを高める。
- 濾過効率:βx、絶対/公称、粒径分布のいずれで管理するかを明確化。
- 圧力損失:流量曲線と油温レンジで評価。低温始動を含む。
- ダスト保持量:目詰まり到達前に許容できる捕集総量。
- 耐久性:流動疲労、パルス圧、耐崩壊強度、耐熱・耐薬品性。
材質・媒体設計
セルロースはコストと吸水性に優れるが、微粒子域は合成繊維やガラス繊維が有利である。ナノファイバー層の多層化により初期効率を高めつつ、背圧上昇を抑える設計が用いられる。エンドキャップやセンターチューブは耐食・耐熱材質を選定し、接着樹脂は高温酸化油に対する適合を確認する。
選定のポイント
- 目標清浄度:機械許容量(転がり・滑り軸受、摺動面、制御弁)に整合。
- 油性状:粘度指数、低温粘度、添加剤との適合(シリコン・ニトリルシール選択)。
- 流量レンジ:最大回転時や作動ピークでのΔPを許容値内に。
- バイパス設定:潤滑途絶を避けつつ未濾過通過を最小化。
- 取り付け:スペース、着脱クリアランス、ねじ規格や締付管理(取付部のボルトや座面形状)。
保守と交換
エンジンではメーカー指示の距離・時間いずれか早い方で交換する。短距離走行・粉塵環境・高負荷運転は短縮が望ましい。油圧系は差圧監視や定期分析により状態基準保全を行う。交換時はシールに薄く油を塗布し、締付は規定トルクを守る。始動直後は漏れ点検と圧力安定を確認する。
故障モードと対策
過差圧によるエレメント崩壊、チャネリング(内部短絡)、接着剥離、Oリングの熱硬化・圧縮永久歪、缶体の座屈などが代表例である。根因は低温高粘度時の急加速、規格外媒体、過大締付、異物混入などが多い。対策は適正な粘度等級選定、ウォームアップ、差圧監視、清浄組立の徹底である。
規格と試験
自動車用スピンオンの性能は ISO 4548 シリーズで多面的に規定され、油圧用は ISO 16889(マルチパステスト、β値評価)、ISO 2941(耐崩壊)、ISO 3724(流動疲労)、ISO 2943(流体適合性)等で検証する。これらに準拠したデータシート(効率、ダスト保持量、ΔP-流量特性、バイパス作動圧)を確認し、実機条件に合わせて安全側に選定することが重要である。
設計・実装上の留意点
取り付け姿勢は空気だまりや抜けを考慮し、プレフィル(事前充填)の可否を判断する。熱遮蔽やメンテナンス動線を確保し、外来振動やカップレンチの掛かりを想定した外形設計とする。二次側清浄度が厳格な系では、リターン側に微細濾過を追加してバルブ・サーボ系の摩耗を抑える。
用語メモ
- β値(βx):粒径x以上の粒子に対する上流/下流比。効率η=1−1/βx。
- 絶対/公称:絶対は規定粒径での通過を実質許さない基準、公称は統計的基準。
- ΔP:媒体・ハウジング・バルブを含む総圧力損失。低温・高流量ほど増大。
- アンチドレーンバック:停止後の油抜けを抑える逆止機構。