エンドミル
エンドミルはフライス加工に用いる多刃回転工具であり、外周と底面の切れ刃で溝、側面、ポケット、段差、曲面など多様な形状を高精度に加工できる工具である。旋盤の単刃切削に対し、エンドミルは多刃で送り当たりの切りくずを小さく保ち、切削抵抗と表面粗さのバランスを最適化できる。工作機械は立形・横形マシニングセンタやCNCフライス盤が一般的で、工具保持はコレットチャック、スリムチャック、熱収縮、サイドロックなどを用いる。座ぐりや面取り、長穴加工、さらにはボルト孔の座面整形まで対応範囲が広い点が特長である。
構造と種類
エンドミルの基本構造はシャンク、ネック、外周切れ刃、端面切れ刃、チップポケット、すくい・逃げ面からなる。刃形はスクエア、ボール、コーナR、ラフィング、テーパー、Tスロット、キーシート、ドブテイルなどがあり、用途に応じて選定する。フルート数は2〜6枚が一般的で、2枚は切りくず排出性に優れアルミ向け、3〜4枚は汎用、5〜6枚は高能率側面加工や硬材の微小切りくず化に有利である。ヘリックス角は30°前後が汎用、40°超は仕上げ面向上とビビリ低減に効く。センターカット可否はポケットのヘリカルランプやプランジ能否に直結するため重要である。
材質とコーティング
材質はHSS、Co含有HSS、超硬合金(WC-Co)が主流で、耐摩耗・剛性に優れる超硬が量産・高能率用途の標準である。被削材と温度域に合わせてTiN、TiCN、TiAlN/AlTiN、AlCrN、DLC、CrN等のコーティングを使い分ける。アルミには低摩擦なDLCや未コート鏡面が溶着防止に有効、鋼やSUSには高温酸化に強いTiAlN/AlCrNが適する。難削材(SUS304、Inconel等)では耐熱・耐チッピング性の高い微粒超硬と強靭なコーティングの組合せが有効である。
切削条件の決定
回転数nは切削速度Vcから求め、Vc=π×D×n/1000(D:mm, Vc:m/min)を用いる。送り速度vfはvf=fz×z×n(fz:送り/刃, z:刃数)で設定する。切り込みは軸方向ap、半径方向aeで表し、荒取りはapを大きくaeは0.1〜0.4D、仕上げはap小さくae微小として面品位を狙う。aeが小さいときはラジアルチップシニング(実効切削厚さ低下)を考慮してfzを増すと安定する。溝加工は切りくず排出が制約となるため、ヘリカルランプで段階的に下げ、必要に応じエアブローやMQLで排出を補助する。
工具補正と切削方向
工具半径補正は仕上げ寸法の担保に不可欠で、荒取り後にオフセットを残し等高線仕上げで精度を出す。切削方向はクライム(同方向)を基本とし、切削力の安定化と仕上げ向上を狙う。コンベンショナルはバリ抑制や一部の条件で有利だが、工具・機械剛性が十分な場合はクライムが再現性に優れる。
加工戦略とツールパス
高能率化にはアダプティブクリアリングやトロコイド加工が有効で、ae小・ap大の一定工具負荷を保ち熱集中と欠損を回避する。ポケットではヘリカルランプ→等高線粗取り→等高線/等ピッチ仕上げの順が定石で、ボールによる等高線仕上げは勾配部の面粗さを揃えやすい。エッジは面取りエンドミルで微小RまたはC面を付し、後工程のバリ除去を減らす。
振動・剛性とびびり抑制
ビビリは寸法精度と工具寿命を著しく損なう。オーバーハングはL/Dをできるだけ小さくし、ホルダは熱収縮やハイプレスションコレットで振れ精度を高める。可変ピッチ・可変ヘリックスエンドミルは自励振動のピークを分散し効果が大きい。安定ローブ理論ではスピンドル周波数と構造固有振動数の関係で「安定帯」が存在するため、実機チャートやテストカットで条件を合わせるとよい。
冷却・潤滑・切りくず排出
鋼の高能率側面加工ではドライ+エアブローやMQLが熱衝撃を避け有効、アルミではミストや豊富なクーラントで溶着を抑える。溝深い加工はクーラント到達性が課題で、チップポケット形状とスパイラル排出性に優れたエンドミルを選ぶ。高圧クーラント対応ホルダは切りくず分断と表面向上に寄与する。
摩耗様式と対策
代表的な摩耗はフランク摩耗、クレーター摩耗、コーナ微欠け、溶着(BUE)である。フランク摩耗はfz過小や工具摩耗末期で発生し、BUEはアルミ・軟鋼で低速や潤滑不足時に顕著である。対策は材質・コートの適合、fzの適正化、切削速度の見直し、潤滑条件の強化、コーナR付与などである。摩耗限界は寸法偏差や面粗さ、バリ増加、主軸負荷上昇などの兆候で判断する。
取り付け精度と品質管理
振れ精度は工具先端でTIR≤0.01〜0.02 mmを目標とし、チャックとシャンクの清浄、適正締結、動バランスを徹底する。プリセッタで突出し量を管理し、段取り毎に試し削りで補正値を更新する。加工結果はRa、輪郭度、直角度、ピッチ精度などで確認し、統計管理(Cp/Cpk)でばらつきを監視する。
選定の要点
汎用鋼の側面粗取りは4〜5枚刃超硬+TiAlN、ae小ap大のHPC戦略が定石である。アルミは2〜3枚刃鏡面・DLC、深溝や薄板は刃先鋭利で逃げ大きめ、SUSは微粒超硬+AlCrNと高剛性ホルダの組合せが安定する。微細形状は小径ボールエンドミルで回転数を上げ、送りは実効切削厚を意識して設定する。段取り・保持・工具の三位一体で系剛性を高めることが、高精度・高能率加工への最短経路である。