エネルギー分散型X線分析(EDS)|SEM連携で微小領域の元素を定量

エネルギー分散型X線分析(EDS)

エネルギー分散型X線分析(EDS)は、電子線照射で試料から放出される特性X線のエネルギーを分光して元素種と組成を同定・定量する手法である。一般に走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)に装着され、迅速な点分析、ライン分析、マッピングが可能である。装置は半導体検出器、パルス処理回路、多チャンネル解析器(MCA)、データ解析ソフトから構成され、試料前処理と幾何学条件の最適化が精度を左右する。

原理と発生機構

電子線が試料原子の内殻電子を励起・放出すると、上位準位からの遷移で特性X線(Kα、Lαなど)が放出される。エネルギー分散型X線分析(EDS)はこの光子エネルギーを検出してピーク位置(元素同定)とピーク面積(濃度指標)を得る。バックグラウンドとなる制動輻射を適切に補正し、ピーク重なりを分離することが正確な解析に不可欠である。

検出器とエネルギー分解能

検出器は従来のSi(Li)からSDD(Silicon Drift Detector)が主流である。SDDは高計数率と低ノイズにより、Mn Kαでおよそ125–140 eVの分解能を達成し、短時間測定とマッピングに有利である。ウィンドウ材(Beや薄膜ポリマー)やウィンドウレス構成は低エネルギーX線の透過に関与し、B、C、N、Oといった軽元素検出限界に影響する。検出立体角、入射角、試料-検出器距離など幾何学条件の最適化は感度向上に直結する。

装置構成と動作

  • 検出部:SDD/Si(Li)、薄窓またはウィンドウレス、ペルチェまたは液体窒素冷却
  • 前置増幅器・パルス整形器:信号の増幅と成形、デッドタイム管理
  • MCA・解析ソフト:スペクトル取得、ピーク同定、バックグラウンド・脱畳み処理
  • 電子顕微鏡側:SEM/TEMの加速電圧、プローブ電流、WD、試料傾斜などの条件制御

SEM付属のEDSは表層から数百nm~数µmの情報を、TEM付属のEDSは薄片試料に対して高い局所分析能をもつ。装置全体は高い真空環境下で安定動作するよう設計される。

測定条件の最適化

  • 加速電圧:励起効率と発生体積のバランスを取り、5–20 kVを目安に元素と試料に応じて選定する。
  • プローブ電流・取り込み時間:統計精度を左右する。デッドタイムは20–40%程度に維持する。
  • 試料幾何:WD、取り出し角、傾斜は感度とピーク形状に影響する。
  • 帯電対策:絶縁体はカーボンやAu-Pdの導電コートでチャージアップを抑える。

スペクトルの安定取得には汚染低減、ドリフト補正、ビームダメージ抑制が重要である。

定性・定量解析

定性はピーク位置の同定と重なりの判別(例:Ti KβとV Kα、Fe KβとCo Kα)から始める。定量は標準比較法またはスタンダードレス法を用い、ZAFやφ(ρz)補正で原子番号効果、吸収、蛍光を補正する。検出下限は元素とマトリクスに依存するが、一般に0.1–1 wt%程度である。軽元素は吸収が大きく、ウィンドウ設計と低加速電圧、薄片化の工夫が有効である。

マッピングとライン分析

  1. 元素マップ:各エネルギー窓のカウントを画素ごとに積算し、空間分布を可視化する。
  2. ラインプロファイル:界面や拡散領域の濃度勾配を解析する。
  3. スペクトラムイメージング:全画素でフルスペクトルを取得し、後処理で任意のピーク抽出や主成分分析を行う。

スキャン速度、ドウェルタイム、ビーム電流の整合がS/Nと空間分解能を規定する。

誤差要因と対策

表面粗さや段差は取り出し角と吸収を変化させ、定量誤差を生む。試料汚染は低エネルギー側のバックグラウンド増大を招く。幾何学の変動、ドリフト、ピーク重なり、ウィンドウ吸収などを監視し、標準試料で装置感度を点検することが望ましい。

WDSとの比較

WDSは結晶分光で約10 eV級の高分解能と優れた検出限界を有する一方、走査は遅く装置構成も複雑である。エネルギー分散型X線分析(EDS)は同時多元素の高速測定に長け、スクリーニングやマップ収集に適する。両者は相補的であり、EDSで候補を絞りWDSで分解・精密定量する運用が一般的である。

試料前処理と安全

断面作製や鏡面研磨は脱積分効果や表面起因の誤差を抑え、導電コートは帯電を軽減する。含水・揮発性試料は低真空SEMやクライオ法を検討する。装置は遮蔽されており運用上のX線被ばくは極めて小さいが、インターロックや規定手順に従うことが求められる。

関連技術:電子光学とプロセス

EDSは電子光学系と密接に関わる。試料作製やパターニングでは電子ビームリソグラフィが用いられ、半導体デバイスの局所組成評価で威力を発揮する。製造現場では装置の稼働率やスループット(半導体)と両立する迅速な分析が重視される。

軽元素分析の要点

軽元素は発生X線が低エネルギーで吸収を受けやすい。ウィンドウレス検出器、薄片化、低加速電圧、短WD、クリーンな観察室が有効である。また、マトリクスの結晶方位や密度は発生体積と吸収に影響し、補正精度に反映する。

応用例と材料評価

エネルギー分散型X線分析(EDS)は金属介在物の同定、界面拡散の可視化、薄膜断面のプロファイル、配線材やフレキシブル基板の元素偏析評価などに広く用いられる。光学機能材料では薄膜太陽電池の組成ゆらぎ解析、表面改質では紫外線処理後の化学状態変化の兆候追跡などが例示できる。