ウィールスピードセンサー
ウィールスピードセンサーは各車輪の回転速度を検出し、ブレーキ制御や車両安定化制御に用いる車載センサーである。検出したパルス信号をABS、ESC、TCS、ACC、ADASなどのECUへ送信し、ロック防止、駆動力配分、ヨーレート抑制、停止保持、発進支援、クルーズ制御の車速推定など、多目的に活用される。一般に「ホイールスピードセンサー」とも呼ばれ、非接触でトーンホイール(エンコーダ)や磁気リングの歯通過を読み取る方式が主流である。自動車の信頼性要求に合わせて防水・耐熱・耐振・EMC対策が施され、冗長設計や故障診断機能を備える。
検出原理と方式
ウィールスピードセンサーの方式は大別してインダクティブ方式とホール効果方式(およびMR方式)である。インダクティブはコイルと磁石によりトーンホイール歯の通過で起電力を得る受動素子で、車速に比例した交流波形が得られる。ホール効果方式は半導体ホール素子で磁束変化を検出し、低速域でも安定した矩形デジタル出力を提供する。MR(磁気抵抗)素子は微小磁界の変化に対して高感度で、ベアリング一体型磁気エンコーダと組み合わせた高分解能検出に適する。
信号波形の特徴
インダクティブ式は周波数と振幅が速度に依存する連続波であるのに対し、ホール/MR式は一定振幅の矩形パルスであり、ECU側の閾値設定や低速追従性に優れる。歯数Nのトーンホイールを用いると、車輪角速度に対して周波数f=N×回転数/60で計算できる。
構造と実装
構成はセンサー素子、永久磁石(該当方式)、フロントエンドIC、モールド樹脂・ハウジング、シール、ハーネス・コネクタ、取付ブラケットからなる。車輪側には歯車状のトーンホイールまたは多極磁気リングを設け、センサー先端とのギャップを数十~数百μm~1mm程度に管理する。取付には耐振を考慮してボルトとねじロックを用い、腐食・電食対策のめっきやシール剤を併用する。
クリアランス管理
ギャップが大きすぎると感度低下や波形欠落を招き、小さすぎると接触損傷や金属粉吸着による異常検出を生む。設計ではアクスル偏心、熱膨張、ベアリングガタを見込んだ最小~最大許容ギャップを定義する。
出力信号とECU処理
ECUはパルスの周期から瞬時車輪速を算出し、左右差や前後差、時間微分(加速度)を用いてスリップ率を推定する。ABSではスリップ率を目標範囲に維持するよう油圧をソレノイドバルブで制御し、ESC/TCSでは舵角やヨーレート、加速度センサーと統合して駆動・制動配分を行う。アイドルストップ復帰や自動駐車、停止保持でも低速信号の確実性が重要となる。
診断フレームワーク
ECUは信号欠落、電源短絡、ショートtoGND/バッテリー、相反する車輪速不一致、低周波ノイズ混入などを常時監視する。OBD-IIのDTCでは「ホイールスピードセンサー回路断/短」「信号レンジ/性能」「相関エラー」などのコード群で記録される。
故障事象と点検要領
- 鉄粉付着・泥水浸入・氷結による波形乱れ
- 配線断線・接触不良・コネクタ腐食
- トーンホイールの歯欠け・偏心・取付逆
- ギャップ不良や取付位置ずれ
実務ではスキャンツールでDTCとストリームを参照し、オシロスコープでパルスの周波数・デューティ・ジッタを観測する。低速での波形の立上がり、左右輪の同期、加減速での比例関係を確認すれば、センサー起因と機械起因の切り分けが容易である。
環境耐性とEMC
車輪周辺は水・塩・砂・石はね・温度サイクル・油脂が厳しい。IP規格相当の防水、防塵シールを行い、樹脂は耐衝撃・耐候グレードを用いる。配線はツイストペアやシールドで誘導雑音を抑制し、ECU側はフィルタとスレッショルドで寄生波形を棄却する。ISO 11452等に準拠した放射・伝導イミュニティ評価が行われる。
規格・安全・機能安全
ウィールスピードセンサーは制動・安定化に直結するため機能安全が重要である。ISO 26262に基づき、故障モード影響解析(FMEA/FMEDA)によりASIL割付を行い、診断カバレッジや安全メカニズム(信号妥当性チェック、電源監視、ROM/RAMテスト、ウォッチドッグ)を設計段階から組み込む。ソフトウェア側では可観測性を高めるためのセンサーフュージョンと投票ロジックを使用する。
ベアリング一体型と統合化
近年はホイールベアリングに磁気エンコーダリングを統合した一体型が普及している。組付け性と耐久性に優れ、工場でギャップと同心度を規定できるため、現場バラツキが抑制される。さらにセンサーICと信号処理を片側封止したモジュール化により、低速域のS/N向上とノイズ耐性を実現する。
車両制御との連携拡張
タイヤ空転検知を起点とする摩擦係数推定や路面μ推定、停止保持の滑走監視、電動パーキングブレーキとの協調制御など、信号の二次利用が進む。電動化車両では回生制動のブレンディングにも活用される。
設計・製造上の注意
- トーンホイール歯形精度:ピッチばらつきは車速リップルに直結する
- 磁気回路設計:漏れ磁束抑制と感度余裕の両立
- 熱設計:素子特性の温度依存を見込んだ補償テーブル
- 耐久試験:塩水噴霧、温度衝撃、耐振、泥水、石はね、ケーブル屈曲
量産では自動光学検査と電気的エンドオブライン試験を組み合わせ、閾値・デューティ・ジッタ・消費電流などを判定する。組立工程の静電気対策と清浄度管理は微小磁性粉の付着防止に有効である。
用語と呼称
国内外で「ホイールスピードセンサー」「Wheel Speed Sensor」「WSS」とも表記される。関連用語にはトーンホイール(エンコーダ)、ハブベアリング一体磁気リング、ホールIC、MR素子、インダクティブピックアップがある。いずれも本質は車輪角速度の高信頼検出にあり、車両制御の基盤情報を供給する点で同一である。