インジェクターハーネス|燃料噴射の信号を確実安定に伝送

インジェクターハーネス

インジェクターハーネスは、エンジン制御用ECUと各気筒のインジェクタ(燃料噴射弁)を電気的に接続する配線束である。エンジン上部の高温・振動・油分・水分といった厳しい環境でも、所定の電流を安定供給し、コイル駆動のオン・オフに伴う電磁ノイズから周辺回路を保護する役割を担う。コネクタ、導体、被覆、チューブ、クリップ等から構成され、適切な配索と固定により信頼性を確保する。

機能と役割

インジェクターハーネスの主機能は、ECUの駆動信号と車両電源をロス少なくインジェクタに伝送することである。多くのガソリンPFIではローサイド駆動が用いられ、短時間のパルス電流が精密に制御される。信号の立上り・立下りは噴射量再現性に直結するため、抵抗上昇や接触不良のない結線が不可欠である。

構成要素

  • 導体:銅または錫めっき銅。線断面はおおむね0.3~0.5sqが目安である。
  • 絶縁:耐熱・耐油の架橋ポリエチレン等。表面はヒートエイジングに強い。
  • コネクタ:ロック機構と二重シールを備え、IP67級の防水性能を持たせる。
  • 保護材:コルゲートチューブ、ガラス繊維スリーブ、テープで耐摩耗を確保する。
  • 固定具:クリップやブラケットでシリンダヘッド周りに確実に固定する。

結線方式と配索

インジェクターハーネスは各気筒へ枝分かれする分岐構造をとる。枝長は等長化が望ましく、曲げ半径、摺動部の回避、エッジ部の当たりを抑える。エキゾースト側熱源から距離を取り、遮熱スリーブやクリップで確実に保持する。サービス性を考慮し、インマニ脱着やカムカバー点検時に干渉しないルーティングとする。

電気特性と駆動波形

ソレノイド式インジェクタは起動時の突入電流後、保持電流に移るピーク&ホールド駆動が用いられる。インジェクターハーネスは電圧降下とインダクタンスの影響を最小化し、ECU側フライバック処理のエネルギを安全に閉じ込める必要がある。直噴(GDI)ではコイル容量が大きく、より厳密な配線損失管理が求められる。

EMI/ノイズ対策

ツイスト、必要に応じたシールド、フェライトの導入で放射・伝導ノイズを抑える。グランドの取り回しはスター系統とし、点火回路(イグニッションコイルスパークプラグハイテンションコードプラグコードや旧来のディストリビューター)との干渉を避ける。

代表的故障と診断

  • 断線・接触不良:アイドル不安定、加速不良、ミスファイア。ハーネス揺すり(wiggle)で再現確認する。
  • 短絡:ヒューズ溶断やDTC「P020x」群の記録。抵抗測定と導通試験で切り分ける。
  • 高抵抗化:端子酸化や半断線により噴射遅れ。オシロスコープで波形観察を行う。
  • 防水不良:端子腐食やグリーン化。コネクタシール損傷や誤組付の有無を点検する。

設計・材料選定

インジェクターハーネスは125~150℃級の耐熱、燃料ミストやエンジンオイルへの耐薬品性、飛来石や振動への耐久を満たす。端子は錫めっきが一般的で、微小電流域や高湿環境では金めっき採用も検討する。シール材はフッ素ゴム等を用い、長期の圧縮永久ひずみを評価する。

取付と整備上の注意

  • コネクタの二段ロックを確実に掛け、ラッチ破損品は再使用しない。
  • 配索変更は熱源・可動部から距離を取り、既定のクリップ位置へ固定する。
  • 洗浄時は高圧水の直噴を避け、コネクタ内部への浸水を防止する。
  • 端子挿入力・引抜力は規定値を順守し、カシメは専用工具で行う。

システム別バリエーション

ポート噴射(PFI)は比較的細径・軽量のハーネスで足りるが、直噴(GDI)では電流容量やノイズ対策の余裕度を増す。ディーゼルのピエゾ式は駆動電圧や波形が異なり、インジェクターハーネスの絶縁・シールド仕様も専用設計となる。

関連規格と試験

自動車用導体の基本はISO 6722-1、電装品の環境耐性はISO 16750群、ワイヤハーネス一般要求はJASOやJISの個別規格に準拠する。耐熱、耐薬品、屈曲、振動、塩水噴霧、引張、端子挿抜、IP等級など、多面的な評価で信頼性を担保する。

周辺部品との関係

インジェクターハーネスは燃料噴射系の中心配線であり、点火系(スパークプラグイグニッションコイル)と電磁的に干渉しやすい。配索や固定の設計段階から両者の距離・交差角・シールド設計を整合させることで、誤噴射や失火のリスクを低減できる。

品質保証と量産管理

量産では端子カシメ高さ・圧痕、引張試験値、耐電圧、導通、外観の全数検査や抜取検査を行う。トレーサビリティのため製造ロットや日付コードを表示し、設計変更時はECU側ソフトの駆動パラメータ(電流値・保持時間)との適合性を再確認する。

熱・機械ストレスのマネジメント

エンジン振動は導体ワイヤの繰返し曲げ疲労を促す。ストレスリリーフの余長を設け、エッジ部・角部には保護スリーブを追加する。遮熱板付近やラジエータ配管(例:クーラーホース)と干渉しないよう、クリアランスと動的変位を見込む。

サービス交換の勘所

交換時は同一極数・キー形状・防水等級のハーネスを用い、部位ごとのアースポイントやクリップ順序を整備書どおりに復元する。接点復活剤は樹脂やシール材を侵さないものを選定し、組付後はアイドル~高回転までの学習リセット・燃調確認を実施する。