インジェクター|燃料を高圧で微粒化し最適噴射

インジェクター

インジェクターは、内燃機関の吸気ポートや燃焼室へ燃料を高圧で微粒化して噴射する装置である。従来のキャブレターに比べて燃料量の制御精度が高く、応答性や排出ガス、燃費の面で優れる。ガソリンではポート噴射(PFI)と直噴(GDI)、ディーゼルではコモンレール直噴が主流であり、いずれもECUの制御信号によりインジェクターの開閉時間(パルス幅)を調整して理想的な空燃比と霧化状態を実現する。

基本構造と作動原理

インジェクターは、電磁石(ソレノイド)またはピエゾ素子、ニードル(弁針)、シート、ノズル、多孔オリフィス、フィルタ、電気コネクタで構成される。ECUからの電流でアーマチュアが引かれニードルが持ち上がると、燃料がノズルから噴出する。噴射量は流量係数と差圧、および開弁時間で決まり、概ねm=ρ×Q×Δtで表せる。流量は通常cc/min(例:250 cc/min@300 kPa)などで規定される。

燃圧と噴射方式の違い

ガソリンPFIは約0.3〜0.5 MPaの差圧で吸気ポートに噴く。GDIは5〜35 MPaの高圧で燃焼室内へ直接噴射し、希薄燃焼や層状充填に適する。ディーゼルのコモンレールインジェクターは50〜200 MPa(近年はそれ以上)に達し、微細な粒径と正確なタイミングで着火遅れと燃焼騒音を制御する。高圧化は霧化促進と混合均一化に寄与する一方、部品強度と耐摩耗性が課題となる。

電磁式とピエゾ式

電磁式インジェクターはコストと信頼性に優れ、ガソリンエンジンに広く普及する。ピエゾ式は圧電素子の微小変位をレバーで拡大し高速作動を実現、プリ噴射・メイン・アフターなど多段噴射制御に有利でディーゼルで多用される。応答性向上は燃焼騒音低減、PM/NOxの同時低減、アイドル安定に寄与する。

噴霧特性(粒径・角度・パターン)

噴霧粒径(SMD)、噴霧角、貫徹力、ペネトレーションは混合気形成を左右する。多孔ノズルは対向噴流を作り乱流を強め、ピントル型は均一な円錐噴霧を得やすい。GDIではピストンキャビティ形状やスワール/タンブルと整合させ、壁濡れ・スス生成を抑える。最適なパターン設計は始動性、トルク応答、排出ガスの鍵となる。

ECU制御とキャリブレーション

ECUは回転数・負荷・温度・空燃比学習・ノック・O₂センサー等を基にインジェクターのパルス幅とタイミングを決定する。バッテリ電圧補正で開弁遅れを補うほか、デッドタイム特性をマップ化する。PFIでは吸気バルブ背面濡れを考慮し位相噴射を行う。GDI/ディーゼルでは燃焼行程内での多段噴射を用い、燃焼温度とエミッションの最適点を探る。

流量定義とチューニングの要点

インジェクター流量は基準差圧でのcc/minまたはlb/hで示される。差圧が上がると理論上流量は√ΔPに比例するが、実機では飽和や噴霧劣化に注意する。大容量化はポンプ能力、レギュレータ設定、噴霧粒径の悪化、アイドル時の分解能低下を招きやすい。ドライバ回路との整合(ハイインピーダンス/ローインピーダンス)やデューティ上限、燃料温度の影響も重要である。

材料・耐久・汚損

インジェクターはステンレスや耐食合金、精密樹脂で構成され、内部フィルタで異物侵入を抑える。長期使用で堆積物(ガム、バーニッシュ)、硫黄・金属添加剤由来のデポジットがノズル孔を塞ぎ、流量低下やパターン崩れを生む。燃料品質、フィルタ管理、定期的な洗浄剤使用が有効で、高圧系では洗浄時の安全確保が必須となる。

故障症状と診断

  • ミスファイア、アイドル不調、始動困難(詰まり・リーク)
  • 燃費悪化、HC/CO上昇(滴下・噴霧粗大化)
  • 燃圧低下・残圧保持不良(逆流)
  • ノッキング・ノイズ(位相ずれ・過多噴射)

点検の要領

  1. スキャンツールで短期/長期燃調、ミスファイアカウントを確認
  2. インジェクター駆動波形(電流プロファイル)で開弁イベントを確認
  3. バランステストで各気筒の流量差を測定
  4. リークテストと残圧保持、噴霧パターンの目視評価(治具使用)

高圧直噴特有の留意点

GDIインジェクターは燃焼室内で熱負荷とスス曝露を受け、孔詰まりやコーキングが発生しやすい。噴射時期の最適化で壁濡れと粒子排出(PN)を抑え、燃圧・多段制御でトレードオフを調整する。ノズル周りの冷却、逆流防止、シール材の耐熱・耐圧設計が寿命に直結する。

排出ガス・燃費への影響

均質混合の形成はTHC/CO低減、触媒活性の迅速化に寄与する。層状燃焼は部分負荷燃費を改善するがPN増加に注意が要る。ディーゼルではプリ噴射で熱発生率を緩和し、NOxとPMの最適点を探る。精密制御されたインジェクターはEGR、過給、可変バルブと協調して総合的な熱効率を高める。

規格・試験と安全

インジェクターの評価では流量直線性、繰返し性、応答遅れ、ドリブル、戻り漏れ、耐圧・耐久が試験項目となる。高圧系の取り扱いでは残圧抜きと防火対策が不可欠で、清浄環境での分解・交換が望ましい。設計・整備いずれにおいても、適正な燃圧管理と電気的ドライバ条件の遵守が信頼性を左右する。