イタリア共産党
イタリア共産党は、1921年に結成されたイタリアの代表的な左翼政党であり、20世紀欧州政治における最大級の共産党として知られる。ファシズムへの抵抗、第二次世界大戦後の民主化、労働運動の組織化に深く関与しつつ、冷戦期には独自の議会主義的路線を発展させた点に特徴がある。党名はPartito Comunista Italianoで、一般にPCIと略される。
成立と思想的背景
イタリア共産党は1921年、リヴォルノでの社会党大会の分裂を経て結成された。第一次世界大戦後の社会不安と工場占拠などの運動が高揚するなか、革命を志向する潮流が結集し、コミンテルンの影響下で組織化が進んだ。創設期にはアマデオ・ボルディガらが前面に立ち、のちにグラムシの理論が党の思想的資産として重みを増す。国家と市民社会の関係、文化・知識人の位置づけをめぐる議論は、後年の路線形成にも連続する要素となった。
ファシズム期の弾圧と地下活動
ムッソリーニ率いるファシズム体制の成立は、党にとって決定的な転機である。1920年代後半以降、党活動は厳しく禁止され、指導者・活動家は逮捕や亡命を余儀なくされた。とりわけグラムシの投獄は象徴的出来事であり、獄中での思索は後世に大きな影響を残した。党は地下組織や亡命拠点を通じて連絡網を維持し、反体制勢力の連帯や情報伝達を担うことで、のちのレジスタンスへ接続していく基盤を形成した。
戦後の合法化と大衆政党化
第二次世界大戦末期、反ファシズムの連合のもとで党は合法化へ向かい、レジスタンス勢力の一角として政治的正統性を獲得した。戦後初期にはパルミーロ・トリアッティの指導下で「サレルノ転換」と呼ばれる現実路線が採られ、民主共和国の制度設計や憲法制定の過程に関与する。労働組合、協同組合、文化団体、党機関紙などを通じた社会的基盤の拡大は、大衆政党としての性格を強めた。一方、冷戦の深まりとともに反共政策が強化され、政権からの排除が固定化していく。
冷戦下の路線形成
イタリア共産党は、冷戦体制のなかでソ連型モデルを無条件に移植するのではなく、議会制度と市民的自由を前提とした「イタリアの道」を追求する方向へ傾斜した。スターリン批判や1956年の国際的危機は党内外に衝撃を与え、社会の変化に応じた理論・組織の再調整が進む。1960年代以降の学生運動や新しい社会運動の登場は、階級政治だけでは捉えきれない争点を可視化し、党は労働者中心の組織から、より広い社会層を含む政治主体へ自己像を更新する課題に直面した。
ユーロコミュニズムと歴史的妥協
1970年代、エンリコ・ベルリンゲルの指導期に、ユーロコミュニズムと呼ばれる潮流が前景化する。これは複数政党制と議会制民主主義を肯定し、対外的にも独立性を強調する立場であり、国内ではキリスト教民主勢力との協調を模索する「歴史的妥協」へ展開した。政治暴力やテロが社会を揺さぶった時期に、制度の安定と改革の両立を掲げる姿勢は一定の支持を集めたが、同時に急進的変革を期待する層との緊張も生んだ。国際的にはソ連から距離を取る姿勢が注目され、共産党の多様化を示す事例ともなった。
地方統治と社会的基盤
イタリア共産党の影響力は国政だけでなく、地方自治の領域で顕著であった。エミリア=ロマーニャやトスカーナなどの自治体では、行政運営を通じて福祉、教育、公共サービスの整備を進め、協同組合や市民団体との結びつきも強めた。こうした「統治の実績」は、党が単なる反体制勢力ではなく、制度内で公共性を担う主体として認識される要因となった。社会運動との関係も含め、都市政策や文化政策の現場で積み上げられた経験は、戦後イタリア政治の一つのモデルとして語られてきた。
危機と解党
1980年代末から1990年代初頭にかけて、ベルリンの壁崩壊と東欧体制の変動は、党の自己定義に直接の影響を与えた。共産主義をめぐる国際環境が大きく変化するなかで、党は綱領・名称・組織の再編を迫られ、1991年に解党へ至る。後継として左派民主党へ移行する流れが形成される一方、党の伝統を維持しようとする勢力も別組織として再結集した。さらに政治腐敗の摘発が拡大した時期と重なり、戦後政党体制全体が再編される局面で、党の転換は象徴的出来事となった。
歴史的評価と影響
イタリア共産党は、反ファシズムと民主化の過程における役割、労働者の組織化、地方統治の経験などを通じて、戦後イタリアの政治文化を形づくった存在である。思想面ではグラムシ的視角が社会科学・文化研究に広く波及し、政党の枠を超えた影響を与えた。他方、国際共産主義運動との距離の取り方、冷戦期の政治戦略、社会運動との緊張関係などは評価が分岐する論点であり、党の歴史はイタリア現代史の複合的な鏡として位置づけられている。本文で扱った論点は、イタリアの政党史、共産主義思想、マルクス主義、そして戦後欧州の政治変動を理解するうえでも重要な参照点となる。