イギリス|議会政治と海洋覇権を築いた島国

イギリス

イギリスは正式名称を「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」といい、ヨーロッパ北西の島嶼国家である。構成はイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの四つで、首都はロンドンである。1707年の連合法によりイングランドとスコットランドが統合され、1801年にアイルランドを合わせて連合王国が成立、1922年にアイルランドの大部分が独立して現在の形となった。英語を中核とする多言語社会で、議会制・君主制・コモン・ローの組み合わせを特徴とする近代国家である。

地理と構成

国土の中心は大ブリテン島で、北にスコットランド、中央から南にイングランド、西にウェールズが位置する。アイルランド島北東部に北アイルランドがあり、アイルランド共和国と国境を接する。周囲は北海・イギリス海峡・大西洋・アイリッシュ海に囲まれ、温暖湿潤な海洋性気候が卓越する。テムズ流域は政治・経済の中枢で、マンチェスター、バーミンガム、グラスゴー、エディンバラ、カーディフ、ベルファストなどが主要都市である。

国名・呼称

一般的呼称としてイギリス、英語略称は「UK」、歴史・地理文脈では「Britain」「Great Britain」が使われる。しばしばイングランドと同義に誤用されるが、イングランドは構成国の一つにすぎない。外交儀礼や条約文では長名を用い、スポーツなどでは連合王国全体または構成国別のチーム編成が見られる。

歴史

古代ブリトン人の社会にローマの属州支配が及び、後にアングロ・サクソン時代を経た。8〜11世紀にはヴァイキング勢力が沿岸部に影響を与え、1066年のノルマン征服でノルマン朝が成立する。以後の王権強化と議会の発達は、領主層の統制と法整備を促した。近世にはスチュアート王朝を経て立憲主義が確立し、海軍力を背景に世界的影響力を獲得した。

連合の形成

1603年に同君連合が始まり、1707年の連合法によりグレートブリテン王国が成立した。1801年にはアイルランド王国を併合して連合王国となり、19世紀を通じて帝国が拡大した。1922年にアイルランド自由国が成立し、北東部のみが連合王国内に残って現在の構成となった。

帝国と産業革命

18世紀後半に産業革命が胎動し、綿工業・鉄鋼・蒸気機関を核に製造業と国際貿易が拡大する。19世紀には海運・金融・保険を掌握し、世界経済の「工場」と呼ばれた。帝国は20世紀に二度の世界大戦と脱植民地化を経験し、独立した諸地域との連合体であるコモンウェルスを構成した。

政治制度

イギリスは立憲君主制と議院内閣制を採る。不文憲法を法令・判例・慣行の積層で運用し、コモン・ローが司法の基盤である。議会は下院(庶民院)と上院(貴族院)の二院制で、下院多数党の党首が首相となる。スコットランド・ウェールズ・北アイルランドには権限委譲政府が置かれ、1998年のベルファスト合意により北アイルランドの統治枠組みが整備された。

  • 国家元首:国王(象徴的役割)
  • 行政府:首相と内閣が行政を主導
  • 立法府:下院優越の二院制
  • 司法:最高裁を頂点とする独立司法・コモン・ロー

経済

通貨はポンド(GBP)。ロンドン金融街は国際資本・保険・法務の結節点で、製造業では航空宇宙・自動車・医薬・精密機械が強みである。北海油ガスや洋上風力などエネルギー分野の転換も進む。大学・研究機関は基礎科学とイノベーションを牽引し、クリエイティブ産業や観光も重要な柱である。

社会・文化

英語は世界的共通語として広がり、多文化社会の中で文化創造が活発である。文学はシェイクスピアやディケンズの伝統を持ち、音楽・演劇・映画にも影響力が大きい。スポーツはサッカー・ラグビー・クリケットが盛んで、BBCを中心に公共放送の蓄積も厚い。NHSは国営の医療制度として国民生活を下支えする。

対外関係

イギリスは国連安保理常任理事国であり、NATO・G7・G20・OECDなどに加盟する。1973年にECに加盟し、2016年の国民投票を経て2020年にEUを離脱した。対米関係とヨーロッパ諸国との協調を並行させ、インド太平洋への関与や開発協力でも主導的役割を担う。

地域と都市

ロンドンは金融・文化・政治の中心で、世界都市として国際的ネットワークを形成する。スコットランドのエディンバラは文化祭で知られ、ウェールズのカーディフは行政の拠点、北アイルランドのベルファストは造船やサービス産業の拠点となる。広域自治体と地方区分が公共サービスの担い手である。

法と宗教

コモン・ローは判例の蓄積を重視し、成文法と併せて柔軟に制度を更新する。宗教は多様で、イングランドでは英国国教会が国教の地位を有し、スコットランドでは長老派の伝統が強い。移民の増加によりイスラム教・ヒンドゥー教・シク教などの信仰共同体も定着している。

歴史的連関

ブリテン島社会の形成には北方からの移住・侵入の波があり、いわゆる第2次民族大移動期の動態、ノルマン人の進出、ノルマン朝の起点となるノルマンディの諸勢力(ノルマンディノルマンディ公国)が深く関わった。これらが王権・封建制・土地支配・法制度の発展に長期的影響を及ぼしたのである。