アブソリュートエンコーダ
アブソリュートエンコーダは、電源投入直後から各軸の機械角度や直線位置の絶対値をコード化して出力する位置センサである。光学式や磁気式の検出機構と、固有のコードパターン(グレイコードや自然二進など)により、各目盛ごとに一意のデータが割り当てられるため、原点復帰なしに即座に座標を確定できる。ロボット、工作機械、半導体製造装置、医療機器、エレベータなど、停止中の位置保持や再立上げの迅速化、フェイルセーフが求められる用途で広く用いられる。
原理と構造
アブソリュートエンコーダは、ロータやスケール上の多ビット符号化パターンを光学・磁気・容量式などで読み取り、機械的角度に対応したディジタル値へ変換する。光学式は透過/反射のマークをフォトディテクタで読み、磁気式はN/S極の並びをMR/ホール素子で検出する。多トラック構成で上位ビットから下位ビットまでの組合せを得るため、停止位置がわずかにずれても一意なコードにマッピングでき、リファレンスパルスを不要とする点が特徴である。
出力方式(並列・シリアル)
古典的には各ビットを直接出す並列出力が用いられたが、配線点数の多さやノイズ感受性の観点から、現在はシリアルプロトコルが主流である。代表例として「SSI」「BiSS-C」「EnDat」「HIPERFACE DSL」「EtherCAT(CoE)」「PROFINET」などがある。リアルタイム制御では周期同期、ジッタ、レイテンシ、ケーブル長、CRC/CRC16などの誤り検出方式を比較し、サーボ制御系の帯域(ループ周波数)に見合う更新率を確保することが重要である。
単回転/多回転とゼロ点管理
アブソリュートエンコーダには、1回転内の角度のみを返す単回転型と、回転数を追跡して長ストロークの絶対位置を返す多回転型がある。多回転はギヤ機構+カウンタや、Wiegand効果などのエナジーハーベストを用いて無電源で回転数を進める方式が知られる。ゼロ点(機械原点)の定義は機械系の治具位置と一致させ、調整値は不揮発メモリに保持する。フィールド交換時の設定引継ぎや誤書込み防止の手順設計も要点である。
インクリメンタルとの違いと誤差要因
- 違い:インクリメンタルはA/B/Zパルスを積算して相対角を得るのに対し、アブソリュートエンコーダは各位置で一意なコードを出力するため、立上げ直後から位置が確定する。
- 誤差要因:コードパターンの製造誤差、センサオフセット、位相ずれ、軸の偏心、温度ドリフト、ベアリングがた、ケーブル伝送遅延やグラウンドループなど。光学式は汚れや結露に、磁気式は外乱磁場やエアギャップ変動に注意する。
- 指標:分解能(bit/回転またはμm)、精度(±arcsec/±μm)、繰返し精度、直線性、温度範囲、耐振動、応答帯域を仕様で確認する。
通信規格と電気的インターフェース
産業用途では長距離伝送やノイズ耐性が要求されるため、差動伝送(RS-422/485相当)や専用PHYが使われる。ケーブルはツイストペアの特性インピーダンス、終端抵抗、シールド接地(片側/両側)を設計し、EMC規格への適合を図る。電源は一般に24V系または5V系で、過電圧・逆接・サージ対策、IEC 61000-4系の耐性試験を想定した保護素子配置が望ましい。
安全機能と関連規格
アブソリュートエンコーダは機械安全で安全関連部品として扱われる場合があり、冗長トラックや二重化センサ、クロスチェック、CRC監視、データフレームのタイムアウト監視などで診断カバレッジを高める。ドライブ統合ではIEC 61800-5-2に基づくSIL/PL要求を満たす「安全速度監視」「安全位置監視」などの機能と合わせて評価する。筐体の防塵防水はIEC 60529のIP等級で選定する。
機械インターフェースと設置
- 形式:実軸(シャフト)型、中空軸(スルーボア)型、フランジ・クランプ方式など。取付はバックラッシュと偏心を最小化し、許容ミスアライメント内に収める。
- 環境:温度、粉塵、油ミスト、洗浄水、放射ノイズ、振動・衝撃に対する耐性とシール・ベアリング寿命を確認する。
- 配線:スター/デイジーチェーンのトポロジ、コネクタの極性鍵、フェライトコアやアイソレータの挿入位置を定め、保全性を確保する。
選定指標と実装上の注意
サーボの位置決め精度はエンコーダ分解能だけでなく、機械剛性、バックラッシ、熱伸び、フィードバック遅延の総合で決まる。高分解能化は量子化ノイズやノイズ感度を増すため、制御帯域・ノイズ対策・ケーブル配策を同時に最適化する。システム起因の誤差とセンサ単体誤差を切り分けるため、ゲイン/位相の周波数応答、繰返し精度、温度サイクル試験、長期ドリフト試験を実施し、校正テーブルや補間で残差を抑える。
データ整合と時間同期
多軸制御では時間軸の整合が重要である。同期型フィールドバスではマスタ配下で等間隔サンプリングを行い、タイムスタンプ付き読出しで制御周期に合わせる。位相遅れは予測補償やオブザーバで補う。記録系ではトレーサビリティのため、エンコーダID、ファームウェアバージョン、校正日、ゼロ点定義をメタデータとして保持する。
保全と信頼性
予防保全では信号振幅、S/N、CRCエラー率、温度ログ、消費電流を監視し、閾値超過で早期交換を検討する。光学式は窓の汚れ、磁気式は鉄粉付着を点検項目に含める。可動ケーブルは曲げ半径とストローク回数に対する定格を守り、コネクタの挿抜寿命も考慮する。ファーム更新は整合性確認とロールバック手順を準備し、停止時間を最小化する。
磁気式と光学式の補足
光学式は高分解能・高直線性が得やすい一方で環境汚れに弱い。磁気式は堅牢・小型・耐環境に優れ、スルーボア構造と相性が良い。要求分解能、雰囲気、コスト、サイズの制約を総合し、必要十分な仕様で選ぶことが、アブソリュートエンコーダを活かす要諦である。