アイソレーション
アイソレーションとは、電気・機械・化学などの系において、ある領域や信号を他と電気的・物理的・情報的に分離し、干渉や危険の伝搬を防ぐための設計概念である。電気工学では主として「ガルバニック分離(galvanic isolation)」を指し、グラウンド間の直流経路を断つことでループ電流やコモンモードノイズの低減、感電防止、機器間サージの遮断を実現する。産業機器、医療機器、電力変換、車載、計測制御(FA/PA)まで適用範囲は広く、信頼性と安全の双方に直結する基本要素である。
目的と効果
アイソレーションの第一の目的は安全確保である。高電位系と人が触れる低電位系(SELV/PELV)を分離し、故障時にも危険電流が流れないようにする。第二に信号品質の安定化であり、異なる接地電位間のオフセットやコモンモード擾乱を遮断することで、微小信号や高速データのS/Nを確保する。第三にシステムの分割統治で、故障の局在化、EMI抑制、メンテナンス性の向上、規格適合の容易化といった波及効果をもたらす。
方式の分類
電気的なアイソレーションは、主に「磁気結合」「光学結合」「容量結合」「無線結合」に大別される。いずれも直流導通を断ちつつ、所要の情報や電力だけを間接的に伝える。
磁気結合(トランス方式)
トランスは鉄心または空心の磁気回路を介してエネルギーを伝達する。電力供給(絶縁型DC/DC)や計測(CT、ホール素子併用)に適し、数kV級の絶縁耐力や広い動作温度に対応しやすい。課題は低周波成分の伝達性と体積・コストで、漏れインダクタンスやコア損も設計上の焦点となる。
光学結合(フォトカプラ/デジタルアイソレータ)
LEDと受光素子で信号を伝えるフォトカプラは広く普及し、サーボドライブのゲート駆動やインターフェースの絶縁に使われる。近年はCMOSプロセスを用いたデジタルアイソレーション(磁気/容量式伝送IC)が主流化し、数十Mbps~百Mbps級のデータ伝送、低ジッタ、長期信頼性を両立する。LED劣化やCTRばらつきの課題を回避できる点が利点である。
容量結合(キャパシタ式)
微小容量を介して高周波でのみ信号を通過させる方式で、直流遮断と高速性に優れる。ESD/サージ耐量を確保するための内部構造や多重障壁、ならびにコモンモード過渡耐性(CMTI)の設計が鍵となる。
無線・機械的分離(特殊用途)
非接触電力伝送やIR/無線通信は機器間の完全非導通を実現する。さらに、回転機械ではトルク伝達のための絶縁カップリング、流体系では隔膜やダイアフラムシールによりプロセス側の媒体と計装側を分離するなど、物理的アイソレーションも重要である。
設計パラメータ
- 絶縁耐圧:定格AC/DC(例:2.5kVrms/1分)やインパルス(Basic/Double)に対する耐力。
- 沿面距離・クリアランス:汚染度、過電圧カテゴリ、動作高度を踏まえたmm設計。
- CMTI:コモンモード過渡耐性(例:>50kV/μs)で、パワエレのdV/dt環境に必須。
- 伝送特性:データレート、伝搬遅延、スキュー、ジッタ、アイダイアグラム。
- 絶縁監視:故障検出、フェイルセーフ、偏光劣化や経年劣化の監視機構。
- EMC:放射・伝導エミッションとイミュニティ、共振・寄生成分の管理。
回路実装の要点
一次側・二次側のグラウンドを明確に分割し、リターン電流の経路を可視化する。コモンモードチョーク、Yコンデンサの配置は漏洩電流とEMIのトレードオフを意識する。高速デジタルアイソレーションでは、差動配線長の整合、基準面の連続性、不要なスタブ排除が効果的である。高dv/dt環境ではスナバやゲート抵抗の最適化、シールドフレームやスロットで電界結合を抑える。
アプリケーション例
- インバータ/コンバータ:ゲートドライバの一次二次分離、シャント電流検出の絶縁伝送。
- 計測・データ収集:絶縁型A/D、アイソレーテッドUART/I2C/SPIでノイズ源と測定器を分離。
- 医療機器:患者漏れ電流の規定に適合する多重アイソレーション構成。
- 産業ネットワーク:長距離・異電位間の通信におけるグラウンドループ回避。
- 車載/充電:高電圧系とECU/人間系の絶縁、安全遮断とフォールトコンテインメント。
規格・評価・信頼性
適用規格は用途で異なり、情報機器、安全要求、医療、産業制御で参照条項が変わる。設計ではBasic/Double/ reinforcedの絶縁クラス、耐トラッキング材(CTI)、汚染度や過電圧カテゴリ、インパルス耐力(例:1.2/50μs)を総合的に検証する。量産段階ではヒップテスト、部分放電(PD)評価、温湿度バイアス、サイクル試験で長期信頼性を担保する。
よくある不具合と対策
- グラウンドの再結合:シールドやY容量の入れ方で交流的に短絡し、効果が損なわれる。→目的周波数でのインピーダンス設計を行う。
- サージ侵入:フィルタ未最適で一次側雷サージが二次系へ結合。→多段保護+等電位化。
- CMTI不足:パワエレの立上りで誤動作。→高CMTI素子とレイアウト最適化、デッドタイム設計。
- 経年劣化:フォトカプラの光学劣化や樹脂の樹枝状放電。→余裕設計と監視回路、定期交換。
電力アイソレーションと信号アイソレーション
電力はトランスや絶縁型DC/DCで供給し、信号はデジタルアイソレーションで伝送するのが一般的である。両者の絶縁構造を整合させ、フォールトツリーで単一障害時の安全性を検証する。電力側のスイッチングノイズが信号側へ回り込むため、周波数計画とグランド参照点の分離が実務上の勘所となる。
システムアーキテクチャ上の位置づけ
アイソレーションは単独部品ではなく、EMC、熱設計、機械筐体、保護接地(PE)との一体最適で成立する。制御‐電力‐通信の各ドメイン境界に「意図的な断絶」を設けて故障の波及を止め、必要な情報だけを厳選して渡すことが堅牢なシステムの基本原理である。