はんだ合金
はんだ合金は、金属材料どうしを比較的低温で接合するための合金であり、母材を溶かさずに濡れと拡散を利用して電気的・機械的に一体化させる材料である。プリント配線板の実装(SMT/TH)、電線端子、金属ケース封止など広い用途を持ち、代表的な系としてSn-Pb系、鉛フリーのSn-Ag-Cu(通称SAC)系、Sn-Bi系、Sn-Zn系などが知られる。接合には合金自体だけでなく、酸化膜を除去して濡れ性を高めるフラックス、実装条件を制御するリフロープロファイル、パッド表面処理(OSP、HASL、ENIG、ENEPIGなど)が総合的に関与する材料技術である。
組成と代表的な系
Sn-Pb系は伝統的にはんだの主流で、Sn63-Pb37は共晶組成で183°Cと低い融点を示す。一方、環境規制(RoHS等)を背景に鉛フリーが普及し、SAC305(Sn-3.0Ag-0.5Cu)は実装現場で汎用的に用いられる(液相線はおおむね217–220°C)。Ag低減系(SAC105など)はドロップ衝撃に強いとされ、小型モバイルで選択されることがある。低温実装ではSn-Bi系が用いられ、代表例のBi58-Sn42は約138°Cで共晶となり熱履歴を抑えたい基板に適する。Sn-Zn系はCuとの反応が穏やかで、特定用途で採用される。
融点と相図の基礎
はんだの溶け方は相図で理解できる。共晶合金は狭い温度範囲で固相から液相へ一段で転移し、濡れが安定する。非共晶組成では固相線と液相線の間にペースト状の温度域があり、この間の熱履歴がブリッジやボイドの発生に影響する。Sn基はんだではβ-Snの結晶方位が組織に残りやすく、凝固速度や冷却勾配の設計が微細組織を左右する。
濡れ性とフラックス
濡れ性は接触角で評価され、角度が小さいほど良好である。酸化皮膜や汚染は濡れを阻害するため、フラックスが不可欠である。ロジン系(R、RMA)、活性化ロジン(RA)、水溶性、有機酸系、No-cleanなどがあり、活性度と残渣許容のバランスで選定する。フラックス量、塗布方法(ディスペンス、プリプレート)、プリヒートでの溶剤抜けは、はんだボールやスパッタの抑制に直結する。
金属間化合物(IMC)と界面
接合強度や信頼性はIMCの形成に強く依存する。CuパッドではCu6Sn5(スカロップ状)やCu3Snが成長し、Ni下地(ENIG/ENEPIG)ではNi3Sn4が主となる。IMCは薄く均一であることが望ましく、厚すぎると脆化や剥離の起点となる。長期高温保持や通電に伴いIMCは成長するため、使用温度・寿命を見込んでパッド仕上げやはんだ組成を選ぶことが重要である。
機械特性と信頼性
- クリープ・熱疲労:β-Snは強い異方性を持ち、温度サイクルで粒界やIMC界面に応力が集中しやすい。Ag含有によりAg3Snが析出し、疲労特性に影響する。
- 衝撃:落下衝撃ではAg量が多いと粗大なAg3Snにより脆化する場合があり、低Ag系が有利な設計もある。
- 電気・熱:はんだは導電・伝熱媒体でもある。ボイドや未濡れは抵抗増大やホットスポットの原因となる。
実装プロセスの要点
リフローではプリヒート(例:120–160°C域で溶剤を抜く)、ソーク(酸化還元を安定化)、ピーク(TL=液相線温度以上の時間を30–90s程度確保)、クール(過度な急冷を避けつつ微細化)を設計する。ウェーブはんだではフラックス塗布量、プリヒート温度、はんだ槽の酸化(ドロス)管理、窒素雰囲気が歩留まりを左右する。手はんだではコテ先温度、こて当て時間、フィレット形成を基準に合わせる。
典型的な不良と対策
- ブリッジ:過多供給、ギャップ過小、粘度不足が原因。ペースト粒度やメタルマスク開口、リフロープロファイルの最適化で抑制する。
- 未濡れ・はじき:表面汚染、酸化、フラックス活性不足。前処理強化や雰囲気改善で対策する。
- ボイド:溶剤トラップ、IMC粗大化。ソーク延長や真空リフローで低減できる。
- トゥームストーン:対向パッドの熱不均衡、ペースト量差。パッド設計と加熱均一化が有効。
- Head-in-pillow:BGAボールとペーストの未融合。酸化管理、プロファイル調整、窒素化で改善する。
- ウィスカ:Snメッキ応力や拡散で髭状成長。下地Ni層や低応力メッキで抑制する。
選定指針(用途・温度・コスト)
- 汎用SMT:SAC305を起点に、温度サイクル・衝撃要求でAg量を微調整する。
- 低温実装:Bi系(Bi58-Sn42など)で部品熱ダメージを抑制。ただし脆性に留意し、応力集中しにくい設計を併用する。
- 高放熱:ボイドを抑え、厚みと濡れを両立。真空リフローや窒素雰囲気を検討する。
- 手直し・補修:フラックス種類を用途に合わせ、残渣の洗浄要否(No-cleanか否か)を事前に決める。
安全衛生と環境規制
Pbを含むはんだは健康・環境負荷が高く、取り扱い・廃棄に管理が必要である。フラックスヒュームは吸入を避け、局所排気と保護具を併用する。鉛フリーであっても金属粉や有機酸に対する安全配慮は不可欠である。
保管と取り扱い
はんだペーストは低温保管し、使用前に密閉状態で室温復帰させて結露を避ける。ロット・期限管理、撹拌条件の統一、開封後のポットライフ遵守が印刷性・濡れ性の再現性を高める。ワイヤはんだや棒はんだも乾燥・防塵・防酸化環境で保管し、ドロス混入を避けて運用する。