さしがね
日本の大工道具の代表であるさしがねは、薄い鋼板を直角に曲げたL字状の定規で、材の直角出し、墨付け、勾配の作図、寸法の転写など多用途に用いる。別名「曲尺」で、長い辺を長手、短い辺を妻手と呼ぶ。薄くしなやかで、角や隅に密着しやすいのが特徴である。表裏に異なる目盛を備え、表はmm、裏は尺貫法や実用換算目盛を組み合わせた製品が多い。
名称と由来
さしがねは「差し金」とも書き、工作物に当てて差し当てる直角定規の意に由来する。日本独自の曲尺文化が発達し、江戸期の大工が墨付けや木組みに活用して洗練された。現代では測定工具としての呼称「曲尺」と併用される。
構造と寸法
- 形状:長手と妻手からなるL形。外角・内角とも直角である。
- 代表寸法:長手300mm・妻手150mm(1尺・5寸相当)が一般的。用途により200mm級から600mm級まである。
- 板厚:およそ0.8〜1.2mm。薄さにより角への密着性と罫書きのしやすさが得られる。
目盛と機能
表面はmmの整数・1/2・1/10目盛、裏面は尺貫法(尺・寸)や実用換算を施したものがある。屋根や階段の設計に便利な勾配目、円周や円面積の概算に使う丸目(πの近似)を備えたさしがねもある。艶消し仕上げは反射を抑え視認性を高める。
裏目の代表例
- 勾配目:10に対する立ち上がりを示し、水平距離から起りを素早く割り出せる。
- 丸目:直径から円周・面積を素算するための係数目盛。
- 角目・平方目:直角三角形や面積計算の補助に用いる。
用途
- 直角の検査:基準面に妻手を当て、長手で直角を確認する。
- 墨付け・罫書き:木材・薄板に沿わせて線を引く。刃物でのケガキにも適する。
- 寸法の転写:部材間の寸法を移し替えるテンプレートとして使う。
- 勾配・斜線作図:勾配目を用い、屋根勾配や桁の仕口角度を迅速に描く。
使い方の要点
直角確認は、基準面に妻手を密着させ、長手先端に隙間が出ないかを観察する。墨付けは、角部へさしがねを押し当て、鉛筆やケガキ針を長手に沿わせて安定したストロークで引く。寸法移しは、長手を定規、妻手を当て基準として連続寸法を刻む。
直角確認(リバーサル法)
- まっすぐな基準辺にさしがねの妻手を当て、長手で線を引く。
- さしがねを裏返して同じ辺に当て、同位置から再び線を引く。
- 2本の線の開きがゼロなら直角度は良好。開き量の半分がおおよその誤差となる。
材質と表面処理
一般には焼入ればね鋼やステンレス鋼を用いる。ばね鋼は剛性と耐久性に優れ、ステンレスは錆びにくい。表面は黒染めやサテンクロムなどの処理があり、目盛の耐摩耗性と視認性を確保する。エッジは研削で仕上げ、定規面の真直度を確保する。
精度と許容差
さしがねの直角度・真直度・目盛精度は製品等級で管理される。大工用は実用許容差を満たせばよく、機械罫書き用はより高精度が求められる。目盛は原尺に対する累積誤差が抑えられ、視認誤差を減らすための等間隔・細線設計が採用される。
関連工具との違い
直角定規(スコヤ)は厚みと剛性が高く、機械加工物の検査に適する。コンビネーションスコヤは角度・深さ・芯出しの多機能だが、薄く回し当てが利くさしがねは狭所の墨付けや長辺の線引きに優れる。Tスケールや直定規とは用途が重なるが、L形ゆえの直角基準が決定的な違いである。
選定のポイント
- 目盛:mmのみか、mm+尺貫法、勾配目・丸目の有無。
- サイズ:現場材のスケールに合う長手・妻手長さ。
- 仕上げ:反射防止、耐摩耗性、目盛のエッチング深さ。
- 材質:剛性・耐食性・質量バランス。携行性も考慮する。
保守・管理
使用後は切粉・木粉を拭い、乾拭き後に防錆油を薄く塗布する。落下やねじれは直角度を損なうため避ける。収納はケースや工具巻を用い、他工具との干渉でエッジが傷まないようにする。定期的にリバーサル法で直角を点検し、異常があれば買い替えや校正を行う。
安全上の注意
さしがねのエッジは鋭利であり、素手での高速な罫書きや作業中の引っ掛かりに注意する。丸鋸・トリマなどの電動工具に近づける際は吸い込まれを防ぐため、電源停止・固定を徹底する。目盛の誤読は加工不良に直結するため、作業前の基準確認を習慣化する。