ころがり軸受用ロックナット(8切欠き形ロックナット)|軸受の位置決めと緩み防止

ころがり軸受用ロックナット(8切欠き形ロックナット)

ころがり軸受用ロックナット(8切欠き形ロックナット)は、軸受や精密部品を軸方向に確実に固定し、所定の位置決めや予圧の保持を行うための締結部品である。外周の溝やかに目にフックレンチを掛けて回す構造が一般的で、座金・止め金具・止めねじなどのロッキング機構と組み合わせることで、運転中のゆるみを防止する。代表的には、溝付きの円環形状に内ねじを備えた「KM形」と、これに対応するつめ折り曲げ式の「MB形ロックワッシャ」を組み合わせる方式が広く用いられている。

役割と基本原理

ころがり軸受用ロックナットの主たる役割は、軸受内輪やスペーサを軸肩に押し付け、所定の軸方向位置とクランプ力を与えることである。ねじの進み角と摩擦によりトルクが軸方向力に変換され、座面の反力で保持される。ロッキング機構は、この保持状態に二次拘束を与え、振動・熱伸び・起動停止の繰り返しでも初期のクランプ力が低下しにくい構造となる。

代表的な種類

ころがり軸受用ロックナットには、用途や必要精度に応じていくつかの型式がある。量産機械の一般用途から工作機械主軸の高精度用途まで幅広い。

  • 溝付きロックナット+ロックワッシャ(KM+MB):外周溝にフックレンチ、座金のつめをナット溝に折り込んで機械的に二次固定する方式。扱いやすく、汎用性が高い。
  • セットスクリュー一体型(KMT/KMTA等):外周に等配した止めねじで軸に押圧してロックする。繰り返し調整が容易で、予圧微調整に適する。
  • スリット+クランプボルト型:ナットをスリットで割り、ボルトの締付けで径方向に締め込むセルフロック式。高い耐ゆるみ性を持つ。
  • 精密ロックナット:座面研削仕上げ・真円度/直角度が高く、主軸やボールねじ支持で低振れを要求する用途に用いる。

材料・熱処理・表面処理

材質は中炭素鋼や合金鋼が多く、座面の耐摩耗・かじり防止のために焼入れ焼戻しや高周波焼入れが施される場合がある。表面は黒染めやリン酸塩皮膜、亜鉛系防錆処理などが用いられる。座面粗さは軸受座との密着性に影響するため、精密型では研削面(例:Ra 0.8 μm以下など)を指定する。

取付け手順

汎用KM+MB方式の基本的な手順を示す。精密型やセットスクリュー式では、メーカー指示に従い手順とトルク配分を調整する。

  1. ねじ部・座面・軸肩・スペーサを洗浄し、微量の潤滑油を塗布する。
  2. 座金(MB)を挿入し、ナット(KM)を手回しで軽く当てる。
  3. フックレンチで所定の位置まで回し、軸受やスペーサを軸肩へ確実に押し付ける。
  4. 座金の適切なつめをナット溝へ折り曲げ、確実に噛ませる。
  5. 回転・がたの有無を点検し、必要に応じて角度微調整を行う。

締付け管理と予圧設定

玉軸受や円すいころ軸受の予圧は、ナットの回転角・座面移動量・運転時温度上昇を総合して設定する。量産現場では、初期軽締め→回転させなじみ→規定角度増し締め→わずかに戻しの手順で安定した接触状態を作る方法が用いられる。トルクのみで管理するとねじ潤滑や表面粗さの影響を受けやすく、角度法や測定ゲージでの軸方向変位管理を併用するのがよい。

工具と安全

外周溝形には専用フックレンチ(かに目スパナ)を用いる。パンチ・ハンマで叩く方法は座面傷や偏荷重の原因となるため避ける。高硬度品では欠け防止のため工具の係合深さを確保し、過大なこじりを行わない。

設計時の留意点

安定した固定力と寿命確保のために、隣接部の幾何公差と仕上げを適切に規定する。

  • 座面直角度:軸線に対する直角度を厳守し、片当たりを防止する。
  • 面粗さ:座面・軸肩ともに適正粗さとし、微小すべり摩耗や緩みの起点を抑える。
  • ねじ精度:ねじ等級ははめあい計画と再利用性を考慮して選定する。
  • ロッキング方式:座金式・セットスクリュー式など、保全性と再調整性で選ぶ。
  • 潤滑・防錆:分解点検を見越し、適切な表面処理と防錆を選定する。

故障モードと対策

想定される不具合と予防策を整理する。

  • ゆるみ:二次拘束不足や座面傷が原因。座金噛み込み状態の確認、精密型では均等トルク配分を徹底する。
  • ねじ山損傷:過大トルク・偏荷重が主因。工具選定と座面精度の確保、潤滑の適正化で予防する。
  • かじり・焼付き:乾燥状態や粗い面で発生。微量給油と研削面の採用で抑制する。
  • 位置ずれ:熱膨張や振動による。予圧設定の見直しと二次拘束の確実化を行う。

用途例

工作機械主軸、ボールねじ支持、ギヤボックス、ポンプファン、精密回転体の支持部で用いられる。特に高回転・高剛性が求められる系では、精密ロックナットと研削仕上げ座面の組合せが有効である。関連する基礎知識としてはころがり軸受の内部すきまと予圧の関係、締結一般の力学、締付け工具の扱いが重要となる。

寸法呼びと規格の考え方

呼びは内ねじの呼び径とピッチで表し、例として「M30×1.5」のような細目ねじを採用する例が多い。寸法系列や許容差は「ISO 2982」系の整合規格が広く参照され、旧来の「DIN 981(KM)」「DIN 5406(MB)」の記号も流通している。JISでもISOと整合した規定が整備されており、互換性と取付け再現性の確保が重視される。一般にナット側は「KM30」等、座金側は「MB30」等の対応呼称を用いる。精密型では「KMT」「SK」「JIS整合形」などメーカーごとの記号体系があるが、取付け面精度とねじ精度等級を確認することが重要である。下記は寸法例を記したが、JISやISO、メーカーカタログを確認すること。

8切欠き形ロックナット 系列AN

呼び番号 G d d₁ d₂ B b h d₆ g r₁ 
(最大)
IG G₂ dp
AN44 Tr220×4 220 250 280 32 20 10 222 260 0.8 15 M8 238
AN48 Tr240×4 240 270 300 34 20 10 242 280 0.8 15 M8 258
AN52 Tr260×4 260 300 330 36 24 12 262 306 0.8 18 M10 281
AN56 Tr280×4 280 320 350 38 24 12 282 326 0.8 18 M10 301
AN60 Tr300×4 300 340 380 40 24 12 302 356 0.8 18 M10 326
AN64 Tr320×5 320 360 400 42 24 12 322.5 376 0.8 18 M10 345
AN68 Tr340×5 340 400 440 55 28 15 342.5 410 1 21 M12 372
AN72 Tr360×5 360 420 460 58 28 15 362.5 430 1 21 M12 392
AN76 Tr380×5 380 450 490 60 32 18 382.5 454 1 21 M12 414
AN76B* Tr380×5 380 440 490 60 32 18 382.5 454 1 21 M12 414
AN80 Tr400×5 400 470 520 62 32 18 402.5 484 1 27 M16 439
AN80B Tr400×5 400 460 520 62 32 18 402.5 484 1 27 M16 439
AN84 Tr420×5 420 490 540 70 32 18 422.5 504 1 27 M16 459
AN88 Tr440×5 440 510 560 70 36 20 442.5 520 1 27 M16 477
AN92 Tr460×5 460 540 580 75 36 20 462.5 540 1 27 M16 497
AN96 Tr480×5 480 560 620 75 36 20 482.5 580 1 27 M16 527
AN100 Tr500×5 500 580 630 80 40 23 502.5 584 1 27 M16 539
呼び番号 G d d₁ d₂ B b h d₆ g r₁ 
(最大)
IG G₂ dp

8切欠き形ロックナット 系列ANL

呼び番号 G d d₁ d₂ B b h d₆ g r₁ 
(最大)
IG G₂ dp
ANL44 Tr220×4 220 242 260 30 20 9 222 242 0.8 12 M6 229
ANL48 Tr240×4 240 270 290 34 20 10 242 270 0.8 15 M8 253
ANL52 Tr260×4 260 290 310 34 20 10 262 290 0.8 15 M8 273
ANL56 Tr280×4 280 310 330 38 24 10 282 310 0.8 15 M8 293
ANL60 Tr300×4 300 336 360 42 24 12 302 336 0.8 15 M8 316
ANL64 Tr320×5 320 356 380 42 24 12 322.5 356 0.8 15 M8 335
ANL68 Tr340×5 340 376 400 45 24 12 342.5 376 1 15 M8 355
ANL72 Tr360×5 360 394 420 45 28 13 362.5 394 1 15 M8 374
ANL76 Tr380×5 380 422 450 48 28 14 382.5 422 1 18 M10 398
ANL80 Tr400×5 400 442 470 52 28 14 402.5 442 1 18 M10 418
ANL84 Tr420×5 420 462 490 52 32 14 422.5 462 1 18 M10 438
ANL88 Tr440×5 440 490 520 60 32 15 442.5 490 1 21 M12 462
ANL92 Tr460×5 460 510 540 60 32 15 462.5 510 1 21 M12 482
ANL96 Tr480×5 480 530 560 60 36 15 482.5 530 1 21 M12 502
ANL100 Tr500×5 500 550 580 68 36 15 502.5 550 1 21 M12 522
呼び番号 G d d₁ d₂ B b h d₆ g r₁ 
(最大)
IG G₂ dp

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