ころがり軸受の軸の許容差
ころがり軸受の軸の許容差とは、軸受内輪を取り付ける軸の直径・形状・位置精度に対して許される偏差のことであり、嵌め合いの確実性、回転精度、寿命、騒音・発熱に直接影響する重要な設計要件である。適正な公差を選定するには、荷重の状態(回転荷重・静止荷重・不安定荷重)、荷重レベル、回転速度、温度条件、軸材質・表面粗さ、軸受内部すきま(例:C3 など)を総合的に評価する必要がある。
嵌め合いと荷重状態の考え方
嵌め合いは「内輪に対する荷重が回転するか(回転荷重)」「固定的に作用するか(静止荷重)」「方向が変動するか(不安定荷重)」で方針が変わる。一般に、回転荷重や不安定荷重では内輪が軸上で相対すべり(クリープ)を起こさないよう、軸側に締め代(インターフェレンス)を与える。一方、静止荷重で着脱頻度が高い場合は、発熱・応力集中・精度低下を避けるため、緩めの嵌め合いを許容することが多い。
- 回転荷重・不安定荷重:クリープ防止のため軸は締め代嵌め(圧入)とする。
- 静止荷重:組立性と再現性を重視し、軸はすきま嵌め〜わずかな締め代にとどめる。
- 重荷重・衝撃荷重:締め代を強める(ただし内部すきま・発熱に配慮)。
- 高温運転:熱膨張差で実効締め代が変動するため、温度条件を見込んで選定する。
公差記号(ISO 286 系)と典型的な選定指針
軸の寸法公差は「基準偏差記号(h, j, k, m, n, p など)」と「等級(5, 6, 7 など)」の組合せで表す。一般論として、等級の数字が小さいほど公差域は狭く、高精度となる。以下は代表的な方針例である(個別の機種・寸法・メーカー推奨を必ず優先する)。
- 深溝玉軸受・内輪回転・中程度荷重:j5〜k5 程度を目安。小径では j5〜k5、中〜大径では k5〜m5 を検討する。
- 重荷重・衝撃・ころ軸受(円筒・針状)など:m5〜n6 クラスで強めの締め代を与える。
- 内輪静止・静止荷重・頻繁な分解整備:h6〜h7 のすきま寄りを採用し、組立性を確保する。
- 高精度停止位置要求(低トルク・低発熱優先):h6〜j6 を基点に、締め代を抑制して回転精度と摩擦を両立させる。
- 大径・高出力・高温:m5〜n6、場合によっては p6 を検討し、熱影響を考慮して再計算する。
内部すきまと締め代の相互作用
締め代(圧入)は内輪を弾性変形させ、実効ラジアルすきまを減少させる。もともと小さい内部すきまの軸受に強い締め代を与えると、プリロード過大や発熱・異音・早期損傷を招くため、C3 など大きめの内部すきま仕様を選ぶのが定石である。実務では、想定締め代と軸受の剛性・温度上昇を見込んで、組立後すきまが許容帯に収まるように公差と仕様(C2/CN/C3 等)を同時最適化する。
表面粗さ・形状精度・軸肩の設計
軸受座の表面粗さは、締め代の再現性と疲労強度に関係する。一般に軸受座(ジャーナル)には精密仕上げが要求され、真円度・円筒度・テーパは公差等級よりも厳しめに管理する。軸肩部は直角度を確保し、フィレット半径 r は軸受のすみ肉半径 rs より小さく設計して当たりを防ぐ。面取り(C)や逃げ溝の採用により、圧入時のエッジ損傷や面当たりの偏りを抑制できる。
クリープ・フレッティング対策
嵌め代が不足すると、内輪と軸の間に微小すべりが生じ、磨耗粉によるフレッティング腐食や発熱、騒音が発生する。対策としては、(1)締め代の増加、(2)軸・内輪端面との適切な押え・止め輪設計、(3)表面硬さ・仕上げの向上、(4)予圧・荷重条件の見直し、(5)適正潤滑の確保、などがある。長期運転の設備では、据付後の微小緩みを点検し、異常振動や温度上昇を早期に検知することが望ましい。
組立・整備の留意点
圧入は内輪側から荷重をかけ、転動体や外輪にストレスを伝えないようにする。必要に応じて加熱組立を用い、過度な温度で焼戻し特性を損なわないよう管理する。分解時は引抜き工具の当て方に注意し、座屈や傷を避ける。整備後は軸径・形状精度・表面状態を再確認し、再利用時の信頼性を担保する。
設計チェックリスト(補足)
- 荷重状態(回転・静止・不安定)と荷重レベル、回転速度、目標寿命を定義したか。
- 温度条件・熱膨張差を見込んで、実効締め代と組立後すきまを評価したか。
- 公差記号(h/j/k/m/n/p)と等級(5/6/7)を寸法レンジ別に当てたか。
- 内部すきま(CN/C3 等)との整合を確認したか。
- 真円度・円筒度・直角度・振れの幾何公差を図面に明記したか。
- 表面粗さ、肩部のフィレット半径 r、逃げ形状を軸受仕様に合わせたか。
- クリープ対策(押え構造・締結・キー等)と潤滑方式を確定したか。
- 組立・整備・検査手順と合否判定基準を文書化したか。
代表的な適用例の目安
小径の単列深溝玉軸受で内輪回転・一般産業機械・中程度荷重では、軸は j5〜k5 を起点に、速度・温度で k5〜m5 へ調整する。重荷重やころ軸受では m5〜n6 を検討し、衝撃が大きい環境ではさらに強めの締め代とする。一方で、内輪静止・静止荷重・頻繁な分解整備が必要な位置では h6〜h7 の採用が実用的である。いずれも、実測チューニング(試作・温度上昇・振動・音響の確認)で最終確定するのが実務として確実である。
ころがり軸受の軸の許容差(JIS B 1566)

〔注〕
軽荷重、普通荷重および重荷重は、動等価ラジアル荷重が使用する軸受の基本動ラジアル定格荷重のそれぞれ6%以下、6%をこえ12%以下および12%を超える荷重をいう。
また、IT5およびIT7は、軸の真円度公差、円筒度公差などの値を示す。
〔備考〕
この表は、鋼製の中実軸に適用する。