高調波電流|THD増加で効率低下と誤動作多発

高調波電流

高調波電流とは、交流電源の基本波(例えば50 Hzや60 Hz)の正弦波から外れ、2倍、3倍、5倍といった整数倍周波数成分を含む電流である。非線形負荷(整流器、スイッチング電源、インバータ、LEDドライバなど)が電圧—電流の比例関係を崩すことで波形が歪み、フーリエ分解により基本波と複数の高調波に分離できる。高調波電流は配電系統で銅損や鉄損を増やし、トランスやケーブルの発熱、力率低下、保護機器の誤動作、コンデンサとの共振、3次(3k次)による中性線過電流などを引き起こす。設計者は発生源・伝播経路・受け側感受性を系統的に把握し、測定・評価・抑制を一体で考える必要がある。

発生メカニズム

高調波電流の主因は非線形なV–I特性である。ダイオード整流は入力電圧がしきい値を超えた瞬間だけ電流を吸い込み、短い区間に尖った波形を作る。スイッチング電源はチョッパ動作により周期的な電流パルスを生み、モータ駆動のPWM整流(AFE)や可変速ドライブ(VFD)も同様である。磁気飽和したリアクトルやアーク炉のような負荷も波形の非対称や平坦化を招く。結果として、5次・7次などの奇数高調波が目立ち、3次群は三相の相間で位相が揃うため中性線に重畳しやすい。

定量評価と規格

高調波電流の総合指標にはTHD(Total Harmonic Distortion)が用いられ、THD(I)=√(ΣIn>12)/I1で定義される。機器単体の高調波限度は「IEC 61000-3-2」に規定があり、機器カテゴリー(A/B/C/D)ごとに各次数の上限が定まる。系統側の受入れ指針としては「IEEE 519」が広く参照され、PCC(Point of Common Coupling)での電流/電圧高調波の許容値が示される。実測ではIEC 61000-4-7の測定手順に準拠し、FFT分析で各次数成分を抽出し、観測窓や同期条件を整えることが重要である。

影響とリスク

高調波電流が増すと、(1)導体のI2R損失やトランスの追加損が増えて温度上昇余裕が縮む、(2)3次・9次などのトリプルンが中性線に加算され中性線の過熱・焼損を招く、(3)力率改善用コンデンサと系統インピーダンスで並列共振が起こり特定次数が増幅される、(4)遮断器・RCDの誤動作や測定誤差、(5)誘導機の負相序(5次など)によるトルクリップル・振動・騒音、(6)通信線や制御系への伝導/放射ノイズ干渉などの問題が生じる。設備側は余裕設計と事前の共振回避が要点となる。

解析手法

周波数領域では高調波電流を電流源として各次数ごとに配電網のインピーダンスで分配計算を行い、PCCやバスごとの電圧歪みを予測する。三相系では対称座標法で正相・逆相・零相へ分解し、零相は中性線へ流れる傾向を評価する。時間領域ではSPICE等で整流回路・PWM・磁気特性を含めた非線形解析を行い、サンプリング周波数・モデル精度・寄生成分(ESL/ESR)を適切に設定する。実機合わせ込みには、周波数掃引インピーダンス測定により系統の共振点を把握する手順が有効である。

抑制手法

高調波電流低減には多層的な手当てが必要である。受動対策としてはラインリアクトルやDCリンクチョーク、5次・7次に同調したトラップフィルタ、広帯域のLCLフィルタ、デチューン(例えば5.67%リアクトル)によるコンデンサ保護がある。供給側では12パルス/18パルス整流や位相シフトトランス、ジグザグ変圧器でトリプルンを還流させる。能動対策ではPFC(Active PFC)やAFE整流器で入力電流を正弦波化し、スイッチングのスプレッドスペクトラムでピークスペクトルを分散する。機器選定段階でK-factorトランスや高耐量ケーブルを採用し、熱設計と保護協調を見直すことも要点である。

三相系における特徴

三相4線式では高調波電流の3次群が相間で同相となり中性線に集中するため、中性線の導体断面を大きく取る設計や、三相負荷の相間バランス是正、ジグザグ接続での零相抑制が実務上有効である。5次は逆相序で回転磁界に逆らうため誘導機のトルク脈動の原因となり、7次は正相序で速度脈動と結合する。これらの性質を踏まえ、どの次数を狙って除去するかをフィルタ設計で定める。

計測と試験

パワーアナライザで高調波電流を測る際は、基本波と厳密同期したサンプリング、アンチエイリアス、ウィンドウ関数の選択が精度を左右する。クランプセンサは帯域と位相特性が重要で、特に数kHzまでのフラットな振幅応答が望ましい。PCCでの長時間統計(需要時の5/15/30 min平均)を取得し、負荷運転点による変動を把握する。設備更新前後で同一条件の再測定を行い、周波数別の改善量を定量化することが検証の基本となる。

設計上の留意点

配電設計では高調波電流を前提としたケーブル容量・中性線サイズ・トランス容量・遮断器の熱—磁気特性を見直す。力率改善コンデンサはデチューンリアクトルを組み、共振周波数を主要高調波から十分離す。UPSや非常用発電機と併用する場合は内部インピーダンス上昇で電圧歪みが悪化しやすいため、AFEやフィルタの適用を優先する。盤内レイアウトでは高dI/dt経路の最短化とグラウンド分離、EMC観点のループ最小化が併せて効果を持つ。