音響インピーダンス|音圧と流速で伝播と整合を支配

音響インピーダンス

音響インピーダンスは、音場における「音圧」と「体積速度」あるいは「粒子速度」の比として定義される複素量である。境界面や材料、管路の入口など、音のエネルギーが出入りする場所において、音の伝わりやすさ・反射されやすさを定量化する基礎指標である。周波数依存性をもち、実数部(抵抗成分)は音エネルギーの散逸、虚数部(リアクタンス成分)は蓄積(慣性・圧縮性)を表す。音響設計では、媒質の特性インピーダンスと対象物のインピーダンスの整合(マッチング)を図ることで、反射低減、吸音向上、放射効率の最適化を実現する。

定義と種類

面上の点で定義される総合の音響インピーダンスは Z = p/U(p: 音圧 [Pa], U: 体積速度 [m^3/s])であり、単位は Pa·s/m^3 である。単位体積当たりではなく面に依存しない「比音響インピーダンス」は z = p/v(v: 粒子速度 [m/s])で、単位は Pa·s/m である。無限平面波が一様媒質中を伝搬する場合の特性インピーダンスは Z0 = ρc(ρ: 密度, c: 音速)で、境界条件や材質評価の基準として用いられる。

単位と記法

音響インピーダンスは複素数 Z = R + jX(j は虚数単位)で表す。R(resistance)は粘性損失や多孔質材料による散逸を、X(reactance)は慣性(質量的)と圧縮性(ばね的)の効果を示す。比インピーダンス z は Z を面積で規格化した量に相当し、媒質固有の Z0 と比較することで整合の良否を判断できる。

物理的意味

境界の音響インピーダンスが Z0 と大きく異なると反射が増え、近接場に定在波が形成されやすい。Z が大であれば境界は「硬い」(速度が出にくい)とみなされ、Z が小であれば「柔らかい」(圧力が立ちにくい)とみなされる。理想剛壁は v = 0 で z → ∞、理想開放端は p = 0 で z → 0 である。

反射・透過と吸音率

正入射の反射係数 Γ は Γ = (ZL − Z0)/(ZL + Z0) で与えられ、反射率は |Γ|^2 である。吸音率 α は 1 − |Γ|^2 − τ(τ は透過率)で定義され、τ ≈ 0 の厚い背後壁では α ≈ 1 − |Γ|^2 となる。よって表面音響インピーダンスを Z0 に近づける整合設計が、実用的な吸音の鍵である。

要素のインピーダンス(音響等価回路)

低周波・小寸法の領域では、音場を電気回路に対応づけて扱う。直列は流れの連続(体積速度一定)、並列は圧力の共通に対応し、複数材料・構造を組み合わせた系の音響インピーダンスを回路則で合成できる。

慣性・ばね・抵抗の代表式

  • 短い直管(長さ l, 断面 S)の質量的インピーダンス:Z ≈ jωρl/S(ω は角周波数)。
  • 容積 V の空洞(コンプライアンス):Ca = V/(ρc^2)、Z ≈ 1/(jωCa)。
  • 多孔質の流れ抵抗:Z ≈ R(周波数に緩やか依存)。

これらを直並列接続すれば、ヘルムホルツ共鳴器や多層吸音材の周波数特性を素早く見積もれる。狙いの帯域で X ≈ 0 かつ R を適度に持たせることが、実効吸音の指針である。

伝送線としての管路

管路が波長と同程度以上になると、平面波伝送線モデルを用いる。長さ l の管路入口インピーダンスは Z_in = Z0 (ZL + jZ0 tan kl)/(Z0 + jZL tan kl)(k は波数)である。l = λ/4 では Z_in ≈ Z0^2/ZL と反転し、1/4 波長整合器として機能する。ダクト消音器やスピーカ・ポート設計では、この波動的音響インピーダンス制御が中心となる。

終端と放射

無限バッフルに埋め込んだ円形ピストンの放射音響インピーダンス Z_rad は周波数で変化し、低周波では反応成分が卓越、高周波では抵抗成分が増えて放射効率が向上する。エンクロージャやホーンの設計では、Z_rad と機械・電気側の整合を取ることで音圧レベルと歪の最適化が図れる。

測定法

材料表面の音響インピーダンスは、インピーダンス管(Kundt 管)を用いた 2 マイクロホン法で評価する。試験片を終端に装着し、入射・反射の干渉から伝達関数を求めて Z を算出する手法で、ISO 10534-2 に規定がある。広帯域や現場評価では、モーダル平均化やスイープ励振を併用してロバストに推定する。

校正と不確かさ

マイク間隔の校正、管の円筒性、端補正、試験片の装着状態(リーク)などが不確かさ要因である。特に高流れ抵抗材や厚物では背後空気層の影響が大きく、参照空洞を用いた事前確認が有効である。

設計への活用指針

音響インピーダンスは「整合を設計する」という視点で用いる。多孔質吸音材では流れ抵抗と厚み・背後空気層で R と X を調整し、所望帯域で Z ≈ Z0 に近づける。ダクトやマフラでは 1/4 波長整合や多腔共鳴の組合せで、狭帯域ピークを平滑化する。スピーカ系では機械・電気・放射の各インピーダンスを統合し、不要共振の Q を適度に下げることで過渡応答を整える。温度・湿度は ρ と c を変化させるため、Z0 の季節変動を設計余裕に織り込むことが望ましい。

非線形・境界層の影響

高音圧や狭小隙間では粘性・熱的境界層が支配的となり、R・X ともに理想式から乖離する。小孔群やスリットではレイノルズ数・端部補正の周波数依存を見込み、実測データでパラメータ同定する実務手法が有効である。