長期譲渡所得|5年以上保有した不動産売却で税率が軽減される

長期譲渡所得

長期譲渡所得とは、不動産や株式などの資産を一定期間以上保有した後に譲渡(売却)することで得られる所得区分を指す。所得税においては保有期間が重要となり、不動産の場合には譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで課税方法が異なる。長期保有していた資産を売却した際には、短期譲渡所得よりも低い税率が適用され、譲渡所得税の負担が軽減される仕組みになっている。資産形成や相続対策の観点からは、長期譲渡所得の制度を理解して計画的に譲渡を行うことが大きな節税メリットにつながる場合がある。(本記述は、現在の制度と異なる可能性があることに注意すること)

概要と特徴

長期譲渡所得は、短期譲渡所得に比べて税率が低く設定されている点が大きな特徴である。不動産を例にとると、5年を超えて所有した後に譲渡した場合は、長期譲渡所得として課税され、所得税および住民税の合算実効税率が低減する。逆に所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、同じ所得額でも高い税率が適用される。なお、株式や投資信託などの金融商品の場合は、短期・長期の区別をせずに一律の譲渡所得税率が適用されるケースが多いが、不動産に関してはこの違いが明確であり、譲渡の時期を計画的にコントロールすることで税負担を大きく変えることが可能である。

保有期間の判定

長期譲渡所得に該当するかどうかは、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで判断される。例えば2018年7月に不動産を取得し、2023年8月に譲渡するケースでは、2023年1月1日時点で4年5カ月程度しか経っていないため、2023年内に売却したとしても短期譲渡所得に分類されてしまう。一方、2024年1月1日時点で5年6カ月ほど経過するので、その年以降に譲渡すれば長期譲渡所得扱いとなり、税負担が軽減される。したがって譲渡時期の検討は、譲渡益の大きさに加えて保有期間の判定も重要な要素となる。

税率と計算方法

長期譲渡所得の税率は、課税される所得額に対して通常の所得税・住民税とは別枠で課される分離課税方式がとられる。具体的には、

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%
  • 復興特別所得税:所得税額の2.1%

以上を合わせた実効税率は20.315%程度となる。
一方で短期譲渡所得の場合は、

  • 所得税:30%
  • 住民税:9%
  • 復興特別所得税:所得税額の2.1%

という形となり、実効税率は39.63%程度に上昇する。
譲渡所得の算出方法は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得」が基本であるが、マイホーム売却時の特例や特別控除の適用がある場合は、必要に応じて計算過程が変動するため注意が必要である。

マイホーム売却の特例

居住用財産(いわゆるマイホーム)を売却した場合、長期譲渡所得においては3,000万円の特別控除や10年超所有の場合の軽減税率など、さまざまな優遇措置が用意されている。これは国民の住居環境を守る政策の一環として、マイホームを手放す際の税負担を軽減しようとする趣旨に基づくものである。適用要件や細かい規定(買い替え特例や居住実態など)を満たしていれば、大幅に税額を抑えられる場合があるため、実務では対象の物件がこれら特例の条件を満たすかどうか入念にチェックすることが重要である。

相続・贈与による取得の場合

相続や贈与によって物件を取得した場合、前所有者(被相続人・贈与者)が保有していた期間も通算して所有期間を計算できる。例えば親が20年間所有していた不動産を相続し、すぐに売却した場合でも長期譲渡所得として扱われる可能性がある。ただし、贈与などを行うことで節税スキームとして過度に利用されることを防ぐため、親子間の譲渡や一定の特別関係にある当事者間での譲渡については、特例から除外されるケースもある。そのため、相続や贈与を前提とした資産承継プランでは、税法上の細かい要件を十分に把握する必要がある。

注意点と実務ポイント

長期譲渡所得の適用を受けるかどうかで税負担が大きく変わるため、譲渡時期の見極めは資産形成において極めて重要である。ただし、市場の相場や売買交渉のタイミング、あるいは必要資金の確保状況など総合的な判断が必要な場合も多い。また、マイホーム特例や買い替え特例など要件を満たせば適用される優遇制度が数多く存在するため、事前に税理士や不動産の専門家と相談しながら最適な譲渡スキームを構築することが推奨される。こうした計画的な対応によって、将来のライフプランや相続対策をより有利に進められる可能性が高まるのである。

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