通謀虚偽表示|当事者が偽装した無効の法律行為

通謀虚偽表示

通謀虚偽表示」は、契約当事者が互いに示し合わせて真の意思とは異なる内容の法律行為を表すことである。民法上は意思表示に関する基本的な規定の一つと位置づけられ、当事者間の合意が当初から虚偽であるにもかかわらず、外形上は有効な法律行為が成立しているように見せかける点が特徴とされる。たとえば財産移転や契約内容を偽装し、債権者を欺く目的などでなされる場合が典型例である。もっとも、この表示は当事者間では無効とみなされるが、いったん外部に表示される以上、第三者との利害関係が絡むことが少なくない。そこで法律上は当事者の保護と第三者の保護のバランスをどのようにとるかが重要となる。

民法94条との関係

日本の民法第94条は、虚偽表示に関する規定として有名である。ここでいう通謀虚偽表示は、当事者が内心では実際の売買や贈与を行うつもりがなく、あくまで外見的にのみ行為の成立を装う点に特徴がある。法文上、この場合の行為は当事者間では当然に無効とされるが、虚偽表示を信頼して取引に入った第三者をいかに保護するかについても併せて定められている。最終的には「善意の第三者」がどのような地位を得られるかが争点となる。

典型的な事例

通謀虚偽表示の典型例としては、財産を差し押さえられないようにするため、親族などに名義を移転するケースが挙げられる。実際には財産の所有権を移転する意思がないにもかかわらず、売買契約書や移転登記などの手続きを行うことで表面上のみ移転させる行為がこれに当たる。また離婚に伴う財産分与や贈与契約を装い、財産を逃がす場面も同様の構図とされる。いずれの場合でも、外形的には本当の契約にしか見えないため、第三者に誤解を与えやすいといえる。

第三者との関係

通謀虚偽表示が行われると、当事者間では法律行為自体がはじめから無効とされる。しかし、同94条2項に基づき、善意の第三者は虚偽表示の存在を知らなかった場合に限り、その取引の効果を有効に主張できる可能性が生じる。たとえば、虚偽の売買契約を真実のものと信頼して新たに物件を取得した第三者は、後から「そもそも当事者同士が示し合わせて作った虚偽の契約だった」と主張されても、保護される余地がある。結果として、この条文は当事者の意思ではなく、第三者の利益保護を優先する場面を設けている。

目的と法的評価

通謀虚偽表示は、当事者が共謀し、外形的に有効な行為を作り出していることから、法律上は社会的信用を害し、公序良俗に反する可能性があると指摘される。特に債権者を欺く目的で行われる場合などは、強い非難を受ける対象となる。一方で、一度外形が成立した契約は第三者に対して何らかの影響を及ぼし得るため、虚偽表示を絶対的に無効としてしまうと、結果的に第三者の信頼を損ねることにもつながる。このように当事者間の自由と第三者保護の調整が問題となる。

虚偽表示の区別

通謀虚偽表示と他の虚偽表示は区別されることがある。たとえば「心裡留保」では、表意者がひとりで内心の意思と異なる表示を行うのに対し、通謀の場合は相手方もそれを承知している点が大きく異なる。また、「錯誤」は当事者が本来意図していない表示を誤って行うケースであるが、ここでも相手方との合意の有無や認識の程度が重要な分岐点となる。通謀の場合は、双方が共通の目的をもって現実とは異なる表示を行うため、より強い意図性が見て取れる。

詐欺や強迫との違い

詐欺や強迫の場合は、一方当事者が他方をだます、もしくは強制して意思表示をさせるため、被害者となる側は自らの真意で契約したわけではない。これに対して、通謀虚偽表示では両当事者が協力し合って外見上の行為を作り出しているため、被害者という構図は基本的に存在しない点が決定的に異なる。詐欺や強迫が発生した場合、被害にあった当事者には取消権が認められるが、通謀の場合は「無効」となることで法的効果を定めている。

裁判例の動向

日本の最高裁判所や下級審においても、通謀虚偽表示に関する判決は多数存在する。その多くは当事者同士が意図的に偽装した事実関係の認定や、第三者が善意であるか悪意であるかをめぐる争点に焦点が当てられている。債権者の詐害行為取消権との絡みや、不動産登記における名義の有効性などが大きな争点となることも多い。裁判実務では、当事者の行為の動機や真意を慎重に確認しつつ、外形的な取引の信用保護との調和を図る姿勢が見受けられる。

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