軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼)|最高水準の強度と疲労寿命を有する

軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼)

軸受鋼(SUJ)とは、高い強度と耐久性を求められる転がり軸受に使用される材料である。高炭素で、クロム(Cr)が含まれているため、高炭素クロム軸受鋼が正式な名称である。転がり軸受として高速で繰返し荷重を受けるため、耐摩耗性や長期使用において耐えられるように表面層のはく離までの疲れ寿命が長いことが求められる。用途としては、転がり軸受(ベアリング)の球、円筒型のころ、リング状のレースに使われる鋼などに使われる。

概要

強固さと清浄度の高さを兼ね備えた軸受鋼は、多量の炭素とクロムを含む化学成分により高い硬度を獲得する。これによって摩耗を抑制し、回転や振動などの厳しい条件下でも安定した性能を発揮する。さらに、素材内部の微細な組織を維持することで、衝撃や連続的な負荷に対する高い疲労強度が得られる点が大きな特徴である。

転がり軸受に求められる性能

転がり軸受は、精密機器や自動車、航空宇宙分野などに使われるため、高い耐荷重、耐摩耗性、焼入性、耐食性が求められる。高炭素クロム軸受鋼鋼材は、1~2μm程度の微細で球状のクロム炭化物を基地に均一に分布されている。

化学成分と機械的性質

軸受鋼は、0.95~1.10%程度の炭素(C)に耐摩耗性を向上させるため、0.90~1.60%程度のクロム(Cr)を含む。また、少量のマンガン(Mn)やモリブデン(Mo)を添加することで、焼入れ性を向上させている。こうした合金元素は、焼入れ後の硬化と焼戻しによる微細組織の安定化に寄与し、高い硬度と弾性を両立させる。さらに、不純物として含まれる酸化物や硫化物などの介在物を極力少なくすることで、転動疲労寿命を延ばすことができる。

軸受鋼の成分

軸受鋼は、0.95~1.10%程度の炭素(C)に耐摩耗性を向上させるため、0.90~1.60%程度のクロム(Cr)を含む。また、少量のマンガン(Mn)やモリブデン(Mo)を添加することで、焼入れ性を向上させている。

規格(SUJ)

JISではSUJの記号で表され、一般的な軸受に用いられるSUJ2、マンガン(Mn)を添加して、より厚肉のものに用いられるSUJ3、モリブデン(Mo)を添加して焼入れ性を向上させたSUJ4、SUJ5などの規格がある。

軸受鋼の化学成分

種類の記号 C Si Mn P S Cr Mo
SUJ1 0.95-1.10 0.15-0.35 0.50以下 0.025以下 0.025以下 0.90-1.20
SUJ2 0.95-1.10 0.15-0.35 0.50以下 0.025以下 0.025以下 1.30-1.60
SUJ3 0.95-1.10 0.40-0.70 0.90-1.15 0.025以下 0.025以下 0.90-1.20
SUJ4 0.95-1.10 0.15-0.35 0.50以下 0.025以下 0.025以下 1.30-1.60 0.10-0.25
SUJ5 0.95-1.10 0.40-0.70 0.90-1.15 0.025以下 0.025以下 0.90-1.20 0.10-0.25

製造工程

製造工程では、電気炉で溶解した後に精錬を行い、脱酸・脱硫といった工程を徹底して不純物を低減させる。その後、連続鋳造や圧延を経て素材を板状や棒状に成形する。さらに、用途に応じて焼入れや焼戻しを行い、強靱性と硬度を最適化する。転がり疲労が生じにくい組織を得るため、高温保持と徐冷の制御も綿密に設計される。

使用分野

  • 自動車部品:エンジンやギアボックス内の軸受など
  • 産業機械:ポンプ、コンプレッサ、工作機械などの軸受部
  • 精密機器:航空機用の回転部品や医療機器など
  • 家電製品:モータやファンなどの回転機構

品質管理

品質管理では、介在物の大きさと分布の測定に加え、非破壊検査による内部欠陥の検出も重視される。小さな介在物でも繰り返し応力を受ける軸受では疲労亀裂の起点となるため、鋳造や圧延の工程で生じる微細な欠陥を最小限に抑えることが肝要となる。また、焼入れや焼戻しの温度管理を徹底することで、組織の均一性と安定性を確保し、高い信頼性を実現する。

留意点と技術発展

強度と耐摩耗性をさらに向上させるためには、真空溶解や炉外精錬などによる高い清浄度の確保が不可欠である。近年では、介在物の種類や形状を制御する技術や、新たな合金設計によって疲労寿命を飛躍的に向上させる研究が進められている。また、表面改質技術を組み合わせることによって、従来の軸受では対応が難しかった高温や腐食環境下での使用を可能にする取り組みも行われている。

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