自然権
自然権とは、人間の自然な本性に根ざした権利で、すべての人間にそなわっている権利。歴史的・人為的な実定法に基づく権利と異なり、いかなる時代や場所においても普遍的な人間の権利である。近代自然法思想においては、個人の生命・自由・平等・財産の所有などの権利が自然権とされた。国家は、個人の自然権の保障を目的として樹立され、民主社会を形成する基本的原理として、人権へと発達していった。
ジョン・ロックの自然権
ジョン・ロックにおいては政府は人民の生命・自由・財産の所有といった権利を保障するために人民の合意によって権力を信託されたのであり、主権はあくまで人民にあるもの(主権在民) とされる。自然権の中でも、とりわけ所有物に対する権利(財産権・ 所有権)が争いのもとになり、人間を社会契約に向かわせる契機となるものとされた。人々は各人の財産を確実に守るために自然権(生命・自由・財産)を人民が選出した代表(政府)に信託し、そこで定められた法に従うという約束を交わす。そしてその自然権の保障ができなくなったとき、人民が抵抗権・革命権を行使して政府を倒し、新政府を樹立する。アメリカ独立革命は、イギリスが植民地議会の承認を得ることなく不当な課税を植民地に対して実施したことが大きな原因となって引きおこされた。そしてフランス革命は王が特権身分に対して課税を強行しようとしたことが契機となって勃発した。ジョン・ロックにとって市民の財産と労働の対価としての報酬を不当な課税によって家庭する略奪から守るためには、市民が選出する代表者によって政府を構成し、議会による立法によって課税を正当化することが不可欠と考えられたのである。
人は自分のほうが正しくても、普通は自分一人の力しかないから、害から自分を守ったり、犯罪者を処罰したりするのに十分な力をもっていない。こういう不都合が、自然の状態においては人々の財産に混乱をもたらすので、これを避けるためにこそ、人々は結合して社会をつくるのであり、その結果、社会全体の結合した力をもって自分たちの所有権を確保し守ることができ、またそれぞれの所有の限界を定める恒久的な規則をつくり、それによって各人が自分の所有がどのくらいかを知りうるようになるのである。人々が生来もつ権力のすべてを自分たちが入る社会へ委ね、また共同社会がそれらの人々が適当と思う人の手に立法権を委ねるのは、この目的のためである。その場合、人々は公に宣言された法によって支配を受けようという信託をしたことになるのであるが、もしそうしなければ平和も安全も所有物も、自然の状態におけると同じように不確実のままにとどまることであろう。(ジョン・ロック『統治論』)