耐熱鋼 (SUH材)
耐熱鋼(SUH材)は、高熱に耐える鋼で、炭素鋼に比べて高温度の空気やガスの中でも酸化や腐食がなく、強度や硬さの低下が限定的な素材である。耐熱鋼の種類は大きくフェライト系耐熱鋼・オーステナイト系耐熱鋼がある。耐熱性を増加させるためにニッケル(Ni)、耐酸化性を改善するためにクロム(Cr)、ケイ素(Si)、高温時での強さ、硬さを高めるためにタングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)などを加えている。一般的には400℃程度に耐え、さらに600℃~1000℃まで耐える。また耐熱鋼のほか、耐熱用の素材として、そのほか、超合金、セラミックスなどが用いられる。
耐熱鋼の用途
耐熱鋼の用途は、耐熱を必要とする部品、自動車エンジンのバルブ、排気管、船舶用蒸気タービン、ガスタービンのブレード、ジェットエンジン、加熱炉部品など多種多様に使われている。
化学成分と添加元素
主成分は鉄であるが、耐熱性を高めるためにクロム(Cr)やニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)などが添加される。クロムは酸化皮膜を形成して耐酸化性を強化し、ニッケルは高温下でも結晶構造を安定化させる。モリブデンやバナジウムはクリープ耐性や高温強度を向上させるために不可欠な元素である。
炭素鋼でほとんどの用途を満たすことはできますが、さらに耐熱性、耐食性、強度、硬度などが必要な場合、#合金鋼 の使用が検討されることになります。
この合金鋼という区分は、炭素鋼の #5元素 にさらに何らかの #合金元素 を添加したもののことを意味します。 pic.twitter.com/qzPWZ7PHUw
— 菅原 健史 (@Takeshi19730815) November 4, 2020
耐酸化
熱に耐えるため、高温でも酸化しない耐酸化性がある。耐酸化は高温時に銅が酸化して耐食性を著しく劣化させる。
どうやらSUH(耐熱鋼)のようで、
SUS材に比べて若干錆びやすいようです…— Panther (@reinuc__) September 7, 2021
クリープ
クリープとは、材料に一定な荷重を負荷し続けると、時間の経過とともに変形が進んで破壊される現象である。耐熱鋼は高温時でもクリープを抑え、クリープ強さ(クリープの時間と応力とのびの関係)が必要である。耐熱鋼の使用として、絶対温度で表示した融点の3割を超すと問題となるため注意しなければならない。
耐熱鋼内部でどのような炭化物がなぜ安定か、原子レベルで解明 〜クリープ特性向上を目指した新しい耐熱鋼設計指針の構築を目指して〜 | NIMS https://t.co/Scj8qydfeP pic.twitter.com/eJBRwNiOOD
— matiere* (@matiere) May 17, 2018
加工と溶接性
耐熱鋼は一般の鋼材に比べて加工や溶接が難しいとされる。特にオーステナイト系やマルテンサイト系では、溶接熱影響部での組織変化や硬化が発生しやすく、予熱や後熱処理が必要となる。加工時には工具の摩耗や発熱に注意を要し、切削条件の最適化が求められる。
Stainless Steel Canteenは1942年に制式採用、1942~1945年に製造されたステンレス水筒。M1942 Black Enamelが容易に錆びる問題から本種が開発採用された。耐熱性のステンレス鋼は溶接が難しい為に有鉛ハンダによる鑞接した。この有鉛ハンダが健康問題の懸念された結果、戦後は製造中止となった。 pic.twitter.com/FFUNfsuHA1
— 塹壕炊飯 (@pnf_403) September 9, 2021
基本的な分類
耐熱鋼は主にフェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系の3種類に分類される。フェライト系はクロムを主成分とし、酸化に強い。一方、オーステナイト系は高温強度に優れ、マルテンサイト系は熱処理により高強度を実現する。それぞれの系統は、使用環境や必要とされる特性によって選択される。
フェライト系耐熱鋼
フェライト系耐熱鋼は、低クロム系耐熱鋼と高クロム耐熱鋼がある。低クロム系耐熱鋼はクロム量が少なく、1.25~3%がある。4~9%クロム量(Cr)になると耐食性が優れて耐熱性もある。そのため、熱交換器、化学装置の機器類にある。高クロム耐熱鋼は、クロム量(Cr)が10%を超えて、炭化物を利用した耐熱強度部材に利用する。耐熱鋼は高温で使用するため、焼入れで硬さを確保して強度を増し、耐熱性を併せ持つことはありません。
笠田教授のTEM写真ネガのストックからマニアックな組織写真です。先日照会した低放射化フェライト系耐熱鋼中に形成した「ヘリウムを含む空洞(キャビティ)」の自己組織化したメソスコピックなネットワーク構造です。黒い縁のある白いコントラストが多数見えると思います。#今日の組織 pic.twitter.com/LTD3DeibBj
— 笠田研究室@金研 (@KasadaLab_IMR) August 6, 2021
フェライト系(SUH)
- SUH446
オーステナイト系耐熱鋼
オーステナイト系耐熱鋼は、18-8鋼がベースにし、さらにニッケル(Ni)とクロム(Cr)量を増加した鋼である。1000°Cを超える耐熱性を有し、高温強さ、耐食性も優れている。溶接性や加工性に優れている。
析出強化型オーステナイト系耐熱鋼のインバー効果導入による線膨張係数の低減 https://t.co/XKvyO8F2kU
発想とその成果に笑う pic.twitter.com/lBpjt1KqX9— 鹿部 等 (@c_curve1870) November 24, 2017
オーステナイト系鋼(SUH)
- SUH31
- SUH35
- SUH36
- SUH37
- SUH38
- SUH309
- SUH310
- SUH330
- SUH660
- SUH661
マルテンサイト系耐熱鋼
マルテンサイト系耐熱鋼は、焼入れ・焼戻し処理により高強度を発現する耐熱鋼の一種であり、主に鉄にクロムを添加した構成を持つ。一般的には9〜12%のクロムを含み、強度と耐酸化性のバランスに優れている。特徴としては、高温下でも引張強度とクリープ強度が高く、蒸気配管やタービンローターなどの過酷な条件で用いられる点が挙げられる。ただし、溶接時に硬化しやすく割れを起こしやすいため、適切な熱処理管理や施工技術が必要である。
核融合炉用に開発された9Cr系耐熱鋼の金相写真です。研磨後にナイタールでエッチングして光学顕微鏡で撮影。焼戻しマルテンサイトの階層的かつ緻密な組織が強度特性の向上のみならず中性子照射下での優れた耐性をもたらします。低放射化元素を厳選した組成となっていることも特徴です。#今日の組織 pic.twitter.com/AUL27ERGuE
— 笠田研究室@金研 (@KasadaLab_IMR) August 4, 2021
マルテンサイト系耐熱鋼
マルテンサイト系耐熱鋼(SUH)
- SUH1
- SUH3
- SUH4
- SUH11
- SUH600
- SUH616
おおよその耐熱温度
| 25Cr-20Ni鋼 | 約1100℃ |
|---|---|
| 22Cr-12Ni鋼 | 約1100℃ |
| 18Cr-8Ni鋼 | 約900℃ |
| 28Cr鋼 | 約1100℃ |
| 18Cr鋼 | 約900℃ |
| 13Cr鋼 | 約700℃ |
| 5Cr-0.5Mo鋼 | 約650℃ |
| 2.25Cr-Mo鋼 | 約600℃ |
| 0.5Mo鋼 | 約550℃ |