溶融亜鉛浴
溶融亜鉛浴は熱間浸亜鉛(hot-dip galvanizing)工程で鋼材を浸漬する溶融金属槽であり、主成分は亜鉛(Zn)である。一般には約450℃前後(概ね445〜465℃)で運転し、鋼表面の酸化物やフラックス残渣を排しつつ、Fe-Znの拡散反応を通じて合金層(Γ, δ, ζ)および最表面のη-Zn層を形成する。これにより耐食性が大幅に向上し、屋外構造物、配管、鋼製部材の長期防食に寄与する。槽(ケトル)は耐熱鋼やセラミック系内張りを用い、加熱方式はガスバーナや誘導加熱が採用される。操業では温度・時間・浴組成・撹拌・ドロス(Fe-Zn化合物滓)の管理が核心であり、歩留まりと膜厚品質の両立が要求される。
工程における役割と反応機構
熱間浸亜鉛は前処理(脱脂→酸洗→水洗→フラックス→乾燥)に続き、溶融亜鉛浴に浸漬して合金層を成長させる。鋼と亜鉛の接触により拡散が進み、Fe-Zn中間相(Γ, δ, ζ)が基材側から段階的に生成、最外層に純亜鉛(η)が付着する。合金層成長は一般に拡散律速で、膜厚xは時間tに対し近似的にx²∝tの放物線則に従う。材料化学も影響し、鋼のSiやP含有が反応性を高める(サンデリン域)ため、浴管理や浸漬時間を調整して過成長を抑制する。
浴組成・添加元素の機能
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Al:0.1〜0.2%程度を添加し、スパングル抑制や界面制御に寄与する。Al₂O₃皮膜は上面灰(アッシュ)生成と関連するため、表層清掃とバランスが重要である。
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Ni:0.04〜0.08%程度で反応性鋼の過成長抑制に有効で、均一な膜厚を得やすい。
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Bi, Pb:流動性・排液性を改善するが、過量は脆化や環境面の懸念がある。近年は低Pbが主流である。
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Sn:表面張力低減に寄与するものの、条件次第で液体金属脆化の懸念があるため慎重な適用が求められる。
温度・時間の制御
溶融亜鉛浴は450±5℃程度の安定運転が望ましい。温度が低すぎると濡れ性・付着性が低下し、斑や未被覆を招く。高すぎれば合金層の過成長やドロス発生が増え、ケトル寿命も縮む。浸漬時間は部材質量・形状・目標膜厚に合わせて数十秒〜数分で最適化する。引き上げ角度や排液時間、撹拌・循環の有無も外観と膜厚分布に影響する。
反応層と膜厚形成
膜厚は使用環境・規格値・耐久年数設計から決める。密度ρ≈7.14g/cm³を用いると、換算上1µmは約7.1g/m²に相当する。合金層が厚いと硬く耐摩耗性は増すが、過剰な成長は脆化や剝離の要因となる。鋼のSi, P, Mn量、表面粗さ、フラックス状態、浴の清浄度などが層構成に影響するため、総合的な条件設計が必要である。
浴中不純物・ドロス管理
溶融亜鉛浴ではFeの持ち込みによりFe-Zn化合物が生成し、底部に沈殿するボトムドロス(主にFeZn₇)や上面のトップドロス/アッシュが発生する。定期的な掻き取り、スキミング、底部清掃、合金成分の補正、入出荷のFeバランス管理により歩留まりと外観を維持する。投入姿勢や治具材質の工夫、前処理からの塩類持ち込み低減も有効である。
品質欠陥と対策
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未被覆・ピンホール:前処理不足や油分残留、温度低下が原因。脱脂・酸洗・フラックスの是正で対策する。
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厚付着・粗れ:反応性鋼や高温過長時間が誘因。Ni添加や浸漬条件の最適化で抑える。
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流れ跡・たれ:引き上げ条件、排液時間不足、粘性上昇が関与。引き上げ速度や角度、浴組成を見直す。
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灰噛み・付着異物:上面灰管理やスキミング頻度の適正化で低減する。
設備・ケトルと保全
ケトルは高温亜鉛の腐食に晒されるため、材質選定と熱応力低減が要である。熱負荷の急変を避け、耐火煉瓦・断熱の健全性を点検する。燃焼制御・排熱回収により熱効率を高め、温度むらを抑制する。計測は熱電対多点監視、浴化学のスペクトル分析、ドロス量の記録化などを併用し、予防保全を実施する。
安全衛生と環境配慮
溶融亜鉛浴の作業は高温・金属蒸気・フラックス煙(NH₄Cl系)への曝露リスクがある。局所排気、捕集フード、作業区画化、耐熱PPE、火傷対策、搬送・治具の落下防止が必須である。副産物(ドロス、アッシュ、使用済みフラックス)は適正回収・再資源化を行い、酸洗廃液は中和・金属回収などで法令順守を徹底する。
設計上の留意事項
浸漬時の空気溜まりを避けるため、箱状構造には通気・排液孔を設け、重ね合わせ部や狭隘な隙間を減らす。治具は排液性を高める形状とし、引き上げ角度を一定に保つ。鋼の化学成分は規格範囲で管理し、反応性を把握したうえで浸漬条件を合わせる。
よく用いる規格・評価
一般製品はISO 1461に準拠して膜厚・外観・密着性を評価することが多い。鋼板分野ではJIS G 3302(溶融亜鉛めっき鋼板)などが参照される。製品形状や用途、求める耐久年数に応じて膜厚目標を設定し、磁気式や渦電流式の膜厚計で迅速確認、断面観察で層構成を検証する。これらを定常的なQC項目として運用することが、溶融亜鉛浴の信頼性と歩留まりの維持に直結する。