油圧制御
油圧制御は、加圧した作動油を媒体として力と運動を高効率に伝達し、精密な速度・位置・力の制御を行う技術である。電動機やエンジンで駆動するポンプが圧力エネルギーを供給し、弁の開度や指令信号によって流量・圧力を調整してアクチュエータの挙動を決める。高い出力密度と応答性、堅牢性に優れ、工作機械、射出成形機、建設機械、プレス、航空・船舶などで広く用いられる。一方で、漏れ、発熱、汚染、騒音といった課題があり、設計段階から流体力学・制御工学・信頼性工学を横断した最適化が求められる。これらを体系的に扱うのが油圧制御である。
基本原理と特徴
油圧制御は、ポンプによる供給圧、配管・オリフィス・弁で決まる圧力損失、シリンダやモータの容積効率・機械効率から成るエネルギーチェーンで構成される。力Fはアクチュエータ有効面積Aと圧力Pの積F=PAで与えられ、速度vは流量Qと体積効率から決まる。圧縮率(バルク弾性率)と油温が動特性に影響し、蓄圧器や配管コンプライアンスが共振を生むため、適切な減衰と位相余裕の確保が要点である。
システム構成要素
代表要素は、ポンプ(ギヤ、ベーン、ピストン)、アクチュエータ(直動シリンダ、油圧モータ)、制御弁(方向、圧力、流量)、フィルタ、冷却器、蓄圧器、配管・継手である。設計では、供給圧と必要推力からボア径、行程、流量を逆算し、摩擦力や外乱も見込む。高剛性を要する場合はサーボ弁や比例弁を採用し、微小流量域のデッドバンドとヒステリシスを補償する。
制御方式(開ループ/閉ループ)
開ループは弁の電流—流量特性を前提にフィードフォワードで出力を作る。閉ループは位置・速度・圧力・力センサを用いたPID制御が基本で、必要に応じて前置補償、2自由度制御、モデル規範適応制御を併用する。大流量・低速域ではスティックスリップ対策として微小振動付与や微差圧バイアスを用いる。
弁の種類と役割
方向弁は流路切替、圧力弁(リリーフ、リモートセンシング)は圧力上限や差圧の設定、流量弁(スロットル、ニードル、比例弁)は速度設定を担う。サーボ弁はノズルフラッパやジェットパイプで微小差圧を増幅し、高帯域で線形性に優れる。設計ではオリフィス式の流量式Q=CdA√(2ΔP/ρ)と、圧縮性・配管動剛性を併せてモデル化する。
センサと計測
圧力はストレングージ式や半導体式トランスデューサ、位置はリニアエンコーダやLVDT、流量はタービン式や電磁式を用いる。回転系の角速度や加速度の評価にはエンコーダや加速度センサが有効であり、状態推定にはカルマンフィルタが有用である。ノイズ対策としてローパスや微分先行のフィルタ設計を行う。
モデリングと方程式
連続の式と運動方程式、オリフィス式、油のバルク弾性率からなる連成モデルを立てる。シリンダ室の圧力動特性は、dP/dt≈(βe/V)(Q−A·v−CtΔP)で近似でき、ここでβeは有効バルク弾性率、Vは室容積、Ctはリーク係数である。摩擦はStribeck曲線で速度依存を表し、ループ設計では非線形を考慮したゲイン設計が必要である。
動特性・安定性
配管長と油の圧縮性、アキュムレータにより共振周波数が決まる。弁の動特性(帯域、遅れ)とアクチュエータの慣性・負荷剛性の関係からゲインマージン・位相余裕を評価し、必要に応じてゼロ・ポール配置や前置位相補償を入れる。発振が懸念される場合はオリフィス径、配管径、油温管理を見直す。
設計・チューニング手順
- 要求仕様(推力、速度、位置精度、応答時間、温度範囲、騒音)を定義する。
- ポンプ/アクチュエータ容量を算出し、圧力余裕と流量余裕を設定する。
- 弁を選定し、デッドバンド補償とフィードフォワード(逆モデル)を設ける。
- PIDを整定し、非線形摩擦と飽和を考慮したアンチワインドアップを実装する。
- 温度・粘度変動を想定し、ロバスト性を確認する。
エネルギー効率と熱管理
差圧損失とスロットル損失が主な発熱源である。可変容量ポンプや負荷感応(LS)制御で必要流量のみを供給し、アイドル時の損失を低減する。熱交換器と適正粘度の維持、アイソレーション弁での待機時遮断、圧力レベルの最適化が有効である。
トラブルシューティング
- キャビテーション:吸込側のNPSH確保、配管曲がりの低減、油温管理。
- エア混入:戻り配管の浸水、シール劣化、組付け時の脱気不良を点検。
- 内部漏れ:シール摩耗、クリアランス過大、圧力過大を確認。
- スティックスリップ:低速域ゲイン調整、マイクロオシレーション付与、表面仕上げ見直し。
作動油と清浄度管理
作動油は酸化安定性、粘度指数、せん断安定性、消泡性を重視する。清浄度はISO 4406の粒子等級で管理し、バイパスフィルタやオンライン計数器を運用する。配管・継手の締結信頼性はボルト設計と締付管理に依存し、微小リークの抑制に直結する。
応用分野と設計留意点
成形機では型締力の安定化とエネルギー回生、建設機械ではマルチアクスル協調と耐環境性、プレスでは力制御と繰返し精度、航空では軽量・冗長化が要件である。配管取り回しは圧損と据付保全性の妥協設計となるため、三次元ルーティングと支持金具設計を同時に最適化する。基礎要素の理解にはポンプ、流路制御には弁、運動計測にはエンコーダが有用である。
油圧制御は高出力密度と精密制御を両立させる一方、非線形・温度依存・汚染といった実装上の制約を伴う。要求仕様を起点に、モデル化・要素選定・回路設計・制御同定・熱/清浄度管理を反復し、ライフサイクルの可用性と保全性を含めて設計することが重要である。