抜きタップ
抜きタップとは、金属板などの被加工材に対して、抜き加工とタップ加工(ねじ立て)を同一工程または連続工程で行う手法で、フランジなどを分解するとき、フランジにあらかじめ、ねじ加工を行い、ボルトを用いてジャッキアップで引きはがす。大きなカバーではノックピンにせっきんさせて抜きタップを加工する。従来、穴あけとタップ加工は別工程で実施されることが多かったが、抜きタップではこれらを統合することで、工程短縮と品質安定を実現している。

工程の基本構造
抜きタップの基本工程は、まず金型によって母材に下穴を開け(抜き加工)、続けてタップユニットがその穴にねじ山を形成する流れで構成される。通常のプレス機にタップ機構を組み込んだ「タッピング金型」が使用され、1ストロークで複数の加工が完了する。ねじの寸法精度や真円度の確保には、金型設計と同期制御の精度が求められる。
【抜きタップ】
部品を分解しやすいように、タップ穴を開けておく工夫。タップにボルトをねじ込み、部品を押し出すことで分解できる。特にOリングやシールが入っている部品などの分解には必須だ。抜きタップを忘れると悲惨。組んだら最後・・・分解できないなんて場合も。気を付けよう! pic.twitter.com/VKqZ37SUgX
— しぶちょー (@sibucho_labo) March 10, 2025
使用される機器
抜きタップには専用のタップユニットやサーボモータ制御式のタッピング装置が組み込まれることが一般的である。これにより、プレス機の上死点および下死点のタイミングに応じて、タップ部が自動で上下動する。最近では、数値制御(NC)を活用した複雑な制御にも対応しており、多品種少量生産にも適応している。
利点
- 工程短縮:1ストロークで穴あけとタップを完了するため、加工時間を大幅に短縮できる。
- 省人化:従来のように人手でタップ加工を行う必要がなくなる。
- 品質向上:ねじ位置と穴位置のずれが少なく、ねじ精度が安定する。
- 省スペース:専用のねじ立て機が不要になるため、工場内のスペース効率が向上する。
欠点と課題
一方で、金型の構造が複雑化するため、初期投資が高額となる点が挙げられる。また、タップユニットの摩耗や破損が金型全体の停止につながるため、保守点検と予防保全が重要となる。特に薄板に対する加工では、材料のバリ発生やねじ山の潰れなどの不良が生じやすいため、材質に応じた設計と管理が求められる。
加工対象材料
抜きタップの主な対象は、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属板である。特に自動車部品や電子機器の筐体など、複数のねじ孔が必要な部品に用いられる。また、樹脂材料に対応した金型も存在し、軽量化と高速加工を求められる分野での利用も広がっている。
キー溝のピン抜き。
ドリルで穿孔。
タップでネジ加工。
ボルトを入れて釘抜きで引っこ抜く。
めでたしめでたし。 pic.twitter.com/NvoLL1S4cx— Pの人 (@poka_kikaiou) October 21, 2019
精度と寿命の管理
抜きタップの精度管理には、タップの送り速度、ねじ山のピッチ精度、下穴径のばらつき管理が不可欠である。タップの摩耗が進行すると、ねじのかかりが浅くなり、強度不足の原因となる。寿命管理として、一定回数でのタップ交換や潤滑状態の監視が行われる。近年はセンサーとIoTを活用した状態監視も導入されている。
ハンドルライザーが取り外しにくかったので、抜きタップ追加。加工して気が付いたけど、これもう何個かタップたてとけば色々取り付けるのに使える。(付ける予定無いけど)#tiger800 pic.twitter.com/oqVGsI5Hm6
— kovasho (@kovasho) May 20, 2016
類似技術との比較
ねじの加工には、切削によるタップ加工のほか、塑性変形を利用する転造タップ(ロールタップ)も存在する。転造タップは切りくずが出ず、高強度なねじを形成できる利点があるが、抜きタップとの併用は構造的に難しい場合が多い。加工目的や部品仕様に応じて、最適な方式を選定する必要がある
加工不良の事例
- タップの折損:潤滑不良や送り過大が原因。
- ねじ山の潰れ:材料が柔らかすぎる、または送り速度の不一致。
- 位置ずれ:抜き位置とタップ位置の同期不良。