手付流し|解除時の手付金放棄または倍返しによる解約

手付流し

手付流しとは、不動産売買などの契約において、買主が支払った手付金を放棄する、または売主が手付金を倍返しすることで契約を解除する方法である。特に不動産取引では、契約を早期に打ち切る際の手段として活用されることが多い。法的には民法や宅地建物取引業法などのルールに基づき、手付金の返還条件や解除に伴う手続きが定められているため、買主と売主の双方にとって重要な意味を持つ制度である。

概要

不動産取引では大きな金額が動くため、契約締結時に買主が支払う手付金の扱いが非常に重要となる。一般的な売買契約における手付金は、買主の購入意志を示す証拠金としての意味合いを持つが、手付流しはそれを放棄もしくは倍返しすることで契約そのものを解除できる制度である。買主は手付金を諦めることによって、また売主は手付金の倍額を買主へ返還することによって一方的に契約をやめることができる。ただし、この解除方法は無条件に行えるわけではなく、双方が合意した契約条件や法令上の要件を満たす必要がある。

手付金と違約金の違い

不動産取引では手付金と並んで「違約金」という概念もよく登場する。違約金は、契約に違反した当事者が支払うペナルティであり、解除とは関係なく契約の不履行によって生じる損害を補填する目的を持つ。一方、手付流しで用いる手付金は、最初から契約解除のための手段として取り決められている点に特徴がある。仮に買主が都合により契約を解除したい場合は手付金を放棄し、売主が解除を望む場合はその倍額を返金することで、契約不適合や損害賠償の議論を発生させずに早期に終了させることができる。

法律上の位置付け

手付流しは、民法や不動産関連の法令において、売買契約の担保的な役割を担う制度として認められている。民法では解約手付の性質が規定されており、買主側は手付金を放棄して、売主側は買主から受領した手付金を倍返しすることで解約可能とされている。ただし、解除の行使はあくまで契約内容に反しない範囲で行われるべきであり、売主がすでに契約を履行し始めているなど、状況によっては手付流しが認められないケースもある。また、宅地建物取引業法では、売主が宅建業者である場合に手付金の額や受領方法について一定の制限が設けられているため、契約を結ぶ段階で正確な知識を持っておくことが望ましい。

解約手付と証約手付

手付金には大きく「解約手付」と「証約手付」がある。解約手付は手付流しのように契約を解除する権利を留保する意味合いが強いが、証約手付は契約の成立を確認するために支払われる性質があり、原則として解除権は付与されない。もっとも、不動産売買の現場では解約手付が多く利用されるため、実務において手付流しが用いられることが一般的である。

手付流しが行使される場面

買主にとって手付流しを行使する具体的なケースとしては、住宅ローン審査が通らなかった場合や、急に資金計画の変更を余儀なくされた場合などが考えられる。また、売主側が行使する場合としては、より高額で購入したいという別の買主が現れたときや、売主の個人的事情で早期に契約を白紙撤回したいときなどが挙げられる。ただし、こうした行為が契約書や法律の趣旨に反しないかを十分に検証しなければならない。もし不当に手付流しを行使したと判断されると、違約金や損害賠償の請求を受けるリスクがあるため注意が必要である。

注意点

一方的な解約が可能とはいえ、手付流しは決して万能な制度ではない。契約が完全に履行に近い状態になっている場合などは、法律上の解約権そのものが制限されるケースがある。また、売主が宅地建物取引業者である場合、手付金の上限は売買価格の2割以内といった規定も存在する。さらに、手付金をめぐるトラブルを避けるためには、契約締結前に仲介業者や専門家の説明をしっかり理解し、契約書の内容を十分確認しておくことが不可欠である。

実務上のポイント

実務では、契約締結後から引き渡しまでの期間において、万一の事態に備えて手付流しができるよう、契約書に解約手付としての条項を定めることが多い。特に買主がローン特約を利用する場合、融資審査が通らないときは契約を解除する権利を確保するための手付金返還特約が設けられる場合もある。こうした条項を踏まえ、買主はスムーズに融資の仮審査を行い、資金計画を明確にしておくことが求められる。売主側としても、手付流しが行使されるリスクを考慮したうえで、販売価格や売却時期などの条件を慎重に設定する必要がある。

契約書作成の重要性

不動産取引のように金額が大きく、利害関係者が多い契約では、当事者間の合意内容を明確にするための契約書作成が極めて重要である。特に手付流しに関する条項は、解約手付の金額や解除期限、解除時の条件などを明確に記載しておくべきである。契約締結後に認識の相違が発覚すると、手付金の扱いをめぐって法的トラブルに発展する可能性が高まるため、専門家のサポートを受けながら細部に注意して作成することが望ましい。

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