戦略兵器削減条約(START)
戦略兵器削減条約(Strategic Arms Reduction Treaty、略称START条約)は、冷戦終結後のアメリカ・ソ連(後のアメリカ・ロシア)間で初めて戦略核兵器の削減を実現した条約である。1982年から始まった交渉の結果、1991年に第一次条約(START I)が署名され、1994年に発効した。続く1993年には第二次条約(START II)が署名されたが、発効には至らなかった。これらの条約は戦略核弾頭の大幅な削減を目的とし、国際安全保障に大きな影響を与えた。戦略兵器削減条約は、戦略兵器制限交渉(SALT)から引き継がれた核軍縮の重要な枠組みである。
背景
戦略兵器削減条約(START)は、冷戦期に増大した米ソ両国の戦略核戦力を削減するための取り組みとして始まった。1982年から交渉が開始され、1991年に第一次戦略兵器削減条約(START I)が署名された。この条約は、両国の核弾頭の数を大幅に減らし、核軍縮の進展を図るものであった。
START I
1991年7月にアメリカとソ連が署名した第一次戦略兵器削減条約(START I)は、戦略核兵器の大幅な削減を目的とした初の条約である。条約の内容には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、および重爆撃機の運搬手段の数をそれぞれ1600基(機)に制限し、総核弾頭数を6000発以下にすることが含まれていた。また、ソ連が保有していた重ICBM(SS-18)の上限を154基とする規定も設けられた。1994年に条約は発効し、2001年までに条約の義務が履行された。
START II
1993年1月に署名された第二次戦略兵器削減条約(START II)は、START Iを大幅に上回る削減目標を掲げていた。具体的には、2003年までに戦略核弾頭数を3000~3500発以下に削減し、SLBMに装着される核弾頭数を1700~1750発以下にすること、さらに多弾頭ICBM(特にSS-18)を全廃することが規定された。しかし、条約は発効しなかった。2002年、アメリカがABM条約から脱退したことを受けて、ロシアはSTART IIの義務を果たさないことを宣言した。
モスクワ条約
2002年5月、米ロ両国は新たな戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)に署名し、2003年に発効した。この条約は、2012年までに双方の戦略核弾頭数を1700~2200発に削減することを定めていた。モスクワ条約の発効により、START IIは事実上無効化された。
新START条約
2009年、オバマ米大統領はプラハでの演説において、核兵器廃絶を目指すアメリカの「道義的責任」を強調し、ロシアとの新たな削減交渉を開始した。2010年4月、プラハでオバマ大統領とメドベージェフ・ロシア大統領は、新たな戦略兵器削減条約(新START)に署名した。この条約は、7年以内に両国の核弾頭数をそれぞれ1550発以下に制限することを規定している。2011年に条約は発効し、現在も核軍縮の重要な枠組みとして機能している。
影響と評価
戦略兵器削減条約は、冷戦後の国際安全保障環境において、核軍縮の重要な一歩となった。特に、戦略核兵器の大幅な削減は、核戦争のリスクを減少させ、国際的な安定を促進した。また、START Iと新START条約は、米ロ間の信頼構築に寄与し、他の核保有国にも核軍縮の重要性を示すモデルケースとなった。現在も新START条約は有効であるが、2026年に期限が切れるため、今後の交渉が注目されている。両国の関係や国際情勢によっては、さらなる削減や新たな条約の締結が期待される一方で、核兵器の近代化や新たな軍拡競争の懸念も存在する。国際社会は、引き続き核軍縮に向けた努力を続ける必要がある。