モノクロメーター
モノクロメーターは、広帯域光から目的の狭い波長帯だけを選択して取り出す分散型光学機器である。入射スリット、コリメータ、分散素子(回折格子またはプリズム)、集光光学系、出射スリットで構成され、出射側に単色に近い光を得る。分光光度計、蛍光分析、光検出器の分光感度評価、薄膜光学の特性測定、光源校正などに広く用いられる。英語では“monochromator”と呼ぶ。
動作原理
入射スリットで幾何学的幅を定め、コリメータで平行光化した後、分散素子で波長ごとに角度分離し、集光光学で像面に再結像、出射スリットで所望の波長帯のみを選択する。回折格子の場合の基本式は mλ = d(sinα + sinβ) であり、入射角α・回折角β・格子定数d・回折次数mの関係で波長λが決まる。出射帯域幅Δλは概ね Δλ ≈ RLD×w で表せ、RLDは逆線分散(nm/mm)、wはスリット幅(mm)である。
方式の種類
回折格子式
実用上の主流で、広い波長範囲(例: 190–2500 nm)と高効率を両立しやすい。代表光学系はCzerny-TurnerやLittrow、さらに高分解能のEchelleがある。溝本数(lines/mm)、ブレーズ波長、格子サイズが性能を左右し、分解能は概ねR ≈ mN(Nは有効照射溝数)で見積もる。高次回折による重なりはオーダーソーティングフィルタで抑制する。
プリズム式
材料の屈折率分散を利用する方式で、迷光が比較的少なく安定である。分散の線形性は低く、波長範囲は素材の透過帯に制限されるが、構造が単純で調整が容易である。
主要構成要素
- スリット:入射・出射スリット幅で帯域幅とスループットが決まる。装置の点像広がり関数と畳み込みで実効スペクトル形状(概ね台形~三角形)が定まる。
- コリメータ/集光鏡:焦点距離fや収差が分解能・透過率を支配する。反射型が一般的で、Al+MgF2や保護Agなどのコーティングを用いる。
- 分散素子:回折格子は溝本数・ブレーズ角・有効口径、プリズムは素材(石英、SFガラス等)と頂角で選択する。
- フィルタ:高次光抑制や帯域外迷光低減に用いる。切替式ホイールやスライダで実装する。
- 駆動・エンコーダ:格子回転機構(ウォームギア、サインバー)をステッピングモータで駆動し、波長精度・再現性を確保する。
性能指標と測定
- 分解能・帯域幅:R = λ/Δλ。要求分解能からスリット幅と焦点距離、格子仕様を逆算する。
- 波長精度・再現性:水銀(Hg)・ネオン(Ne)など既知の輝線、またはレーザーで校正する。熱ドリフトやバックラッシュ対策が要点である。
- スループット:エタンデュ(光束の取り込み能力)とf/#の整合が支配する。光ファイバ結合(SMA905等)では数値開口(NA)の整合に留意する。
- 迷光(stray light):深い吸収試料や強光源で問題化する。迷光はホログラフィック格子や迷光トラップで抑える。
走査・制御
波長走査は等角度刻み→等波長刻みへの換算を行い、ステップ幅とディエルタイムを設定する。ファームウェアはエンコーダ補正テーブルを保持し、温度補償と原点復帰で精度を担保する。近年はUSB/LAN制御でPCから自動測定を行う。
応用例
- 分光光度計:吸光度・透過率の波長依存性を評価する。
- 蛍光・発光分析:励起側または検出側に配置し、選択的に帯域を通す。
- 検出器評価:フォトダイオードやカメラの量子効率(QE)・感度スペクトルを校正用光源と組み合わせて測る。
- 薄膜・光学部品評価:干渉フィルタ、ARコートのスペクトル特性を高S/Nで測定する。
- 顕微分光・マイクロ分光:光ファイバやイメージング光学と組み合わせ、微小領域の分光を行う。
選定と設計の要点
- 波長範囲:UV~NIRのうち必要域を満たす格子・コーティングを選ぶ。真空UVではMgF2窓やパージが必要になる。
- 帯域幅・S/N:必要分解能に対しスループットが足りるかを検討し、スリット幅と焦点距離を決める。
- 光学結合:自由空間か光ファイバか、f/#・NA整合、像高と像面湾曲の管理が重要である。
- 環境・堅牢性:熱変位、振動、塵埃の影響を低減する筐体設計と校正手順を準備する。
関連技術との比較
モノクロメーターは一点波長を高S/Nで供給できる。一方、分光器(spectrograph)は多波長を同時記録できるがスリット関数の扱いが異なる。AOTFやLCTFは可動部なしで高速切替が可能だが開口・偏光依存がある。FT-IRは干渉計ベースで中赤外の広帯域測定に強い。
歴史と発展
プリズム分光から始まり、Rowland円による格子分光、Czerny-Turner配置の普及、ホログラフィック格子の低迷光化、Echelleによる超高分解能化と発展してきた。今日では高精度エンコーダと温度補償により、nmオーダの再現性と長期安定性を実現している。