パシベーション|素子表面を保護して信頼性を高める工程

パシベーション

パシベーションとは、半導体素子の表面を保護するために被膜を形成し、外部環境からの酸化や汚染、電気的損傷などを防ぐ工程である。シリコンウェハ上の微細構造は極めて繊細であり、水分や粒子、化学的汚染によって容易に欠陥が生じてしまう。そこで半導体の表面やエッジ部分を不動態化し、安定度を高めるための工程としてパシベーションが欠かせない。これにより動作特性の信頼性を維持し、不良発生率を低減すると同時に、デバイスの寿命を延ばす効果が期待されるのである

意義

パシベーションの第一の意義は、外部環境にさらされた半導体表面に生じる酸化や金属不純物吸着などの劣化要因を最小化することである。微細化が進んだプロセスでは、デバイス特性を制御するゲート絶縁膜や配線層が極薄かつ高密度で形成されているため、わずかな表面欠陥や電気的リークが大きな歩留まり低下をもたらす。そこでパシベーション層を設けることで、外来イオンの侵入や微小クラックの進展を抑制し、素子内部を安定した環境に保つ。これにより長期にわたる動作信頼性が確保でき、製品としての性能保証にもつながるといえる

歴史

半導体産業が黎明期にあった1950年代、ゲルマニウムトランジスタの表面汚染が大きな課題として浮上し、メサ構造の採用や封止技術など初期の表面保護法が模索された。シリコン材料へ移行する過程では熱酸化膜を用いた不動態化技術が開発され、酸化膜の優れた絶縁性能がトランジスタ特性の向上に貢献した。その後、フォトリソグラフィ技術の進歩とともに微細化が進展し、より高信頼性を実現するためにシリコン窒化膜や複合多層膜など新たなパシベーション技術が登場した。現在では各工程の段階で表面を保護しながら微細パターンを形成する総合的なプロセス制御が行われており、パシベーションは半導体製造の根幹を支える技術に位置付けられている

方法

パシベーションの方法として代表的なのが熱酸化膜やシリコン窒化膜、あるいはシリコン酸化窒化膜などを被覆するアプローチである。熱酸化ではウェハを高温下で酸素や水蒸気と反応させ、表層部に酸化シリコン(SiO₂)を形成する。シリコン窒化膜(Si₃N₄)はプラズマCVDなどを用いて堆積し、酸化膜よりも優れた水分バリア性能や機械的強度を発揮する。また、リソグラフィ工程で開口部を設け、特定箇所をエッチングした後に再度パシベーション層を成膜する場合もある。製造工程全体を通して最適な膜厚や成膜手法を選択することで、デバイスの電気特性や信頼性を大幅に向上させることが可能となる

材料

半導体のパシベーションに使われる材料は、用途やデバイス構造によって選択が異なる。一般的にはSiO₂やSi₃N₄が主流となっているが、近年はハフニウム系やアルミナ系など高誘電率(High-k)材料を用いる研究も進んでいる。高周波デバイスでは誘電特性が特に重要視され、表面損失を最小化するための超薄膜などが検討されている。さらに、有機材料をベースとした低誘電率(Low-k)膜を導電配線間の寄生容量低減用に組み合わせるケースもある。ただし、成膜時のプロセス条件や膜中の欠陥密度、成膜後のアニール(熱処理)による特性変化など、多角的な検討が欠かせないと言える