ナイキスト線図
ナイキスト線図は、開ループ伝達関数G(jω)の周波数応答を複素平面に写像して、閉ループ安定性とロバスト性を視覚的に評価する図である。実軸(実数部)と虚軸(虚数部)からなる平面上に、ωを0から∞へ掃引した軌跡と、その共役対称(負周波数側)が描かれる。臨界点(-1, 0)の取り囲み回数で安定・不安定が判定でき、ナイキスト線図はBode線図と並ぶ周波数領域設計の中核ツールである。連続系・離散系、理論モデル・実測FRFのいずれにも用いられ、SISOからMIMOの拡張まで適用可能である。
基本概念
ナイキスト線図は、開ループL(s)=K·G(s)H(s)の点列L(jω)を複素平面に描く。ω→0の端はG(0)近傍、ω→∞では原点近傍へ収束する(相対次数が1以上の場合)。臨界点(-1,0)(ナイキスト判別の基準点)に対する包囲数が、閉ループ極の右半平面(RHP)への出入りを示す。負周波数側は共役対称であり、理想連続系では軌跡は原点を中心に対称形を成す。
制御工学,2次遅れ系について減衰係数を変化させた場合においてボード線図とナイキスト線図を描写したところこのようになりました。減衰係数が低いほど変化が急になるようですね。 pic.twitter.com/8MVUf0pNar
— イルカ@数値解析 (@arairuca) March 22, 2024
作成手順
- LTI(線形時不変)とフィードバック構成(多くは単位帰還)を確認する。
- 開ループL(s)を定義し、ωを対数刻みで広帯域に掃引してL(jω)を計算する。
- 複素平面に点(Re, Im)をプロットし、矢印で周波数増加方向を示す。必要に応じて共役側を付加する。
- 開ループのRHP極(個数P)がある場合は、ナイキスト周回路の陥没(インデント)を考慮して位相連続性を保つ。
- 臨界点(-1,0)との位置関係、交差や最短距離を注視する。
1/21のセミナーで説明するナイキスト線図の重要な3つの図。わかるかな。。。とくに左下はアンプ設計者、メカサーボ設計者、それからΔΣのADC設計者にとって重要な意味をなすの。 pic.twitter.com/IpHIvadibd
— アナログエンジニア 浜田 智 (@kiyuni194) January 10, 2025
実務上のコツ
- 周波数端(低・高)の外挿を誤らないよう、Bode線図と整合を取る。
- 数値計算では微小実部・虚部の桁落ちを回避するため倍精度を用いる。
- 実機FRFではPRBS/step/sine sweepを用い、リークやノイズをFFT処理で抑える。
- 不安定系は開ループ測定が危険なため、閉ループ同定や小振幅励振で安全側に運用する。
安定判別(ナイキストの安定判別法)
単位帰還T(s)=L(s)/(1+L(s))を考えると、閉ループのRHP極個数ZはZ = N + Pで与えられる。ここでPは開ループL(s)のRHP極個数、Nは臨界点(-1,0)の時計回り包囲数である。安定条件はZ=0、すなわち「図上での包囲数Nが-P(反時計回りを正とする定義なら適宜符号換え)」となることである。実務的には「RHP極がなければ臨界点を時計回りに包まない」ことが安定であり、交差がちょうど臨界点に一致する場合は極限安定となる。
自動制御
だいぶ問題に慣れてきたなぁーと勘違いしていたら、落とされる…💦
今度はナイキスト線図を理解していく pic.twitter.com/NWYPqIx3fp
— デンムチ (@utlpJj9zDTTCcq5) February 26, 2023
ゲイン余裕・位相余裕との関係
ナイキスト線図では、臨界点までの最短距離がロバスト安定度の指標となる。ゲイン余裕は実軸負側への交差位置から読み取り、位相余裕は臨界点方向への接近角度に対応する。Bode線図のゲイン交差周波数・位相交差周波数と相互に整合し、ループ整形(loop shaping)によるK調整や位相補償の効果を直観的に可視化できる。
形状の読み取り
低周波では定常ゲインが支配的で、図はG(0)近傍から開始する。積分器は位相を-90°ずつ回し、点列を時計回りへ引き込む。純遅延e^{-sτ}は高周波側で渦巻き状の回転を増やし、臨界点への接近を強め得る。零点・極が虚軸近傍にあると凹みや張り出しが現れ、相対次数が大きいほど高周波端は原点へ速く収束する。
不安定系・非最小位相系
開ループにRHP極がP>0個存在する場合、安定のためには臨界点の時計回り包囲がちょうどP回必要である。RHP零点(非最小位相)は位相を余分に遅らせ、図形を臨界点側へ押しやすい。ゼロ・ポール配置のわずかな変更で包囲数が変化し得るため、マージンを十分に確保した設計が望ましい。
MIMOへの拡張
多変数(MIMO)では、各ループのナイキスト線図に加え、特異値や返還差(return difference)に基づく解析が用いられる。全体の安定性は行列I+L(jω)の零点構造に依存し、μ-analysis等のロバスト制御手法と併用して評価する。ループ相互作用が強い場合は対角化や周波数帯域の分離が有効である。
離散時間系のナイキスト
離散時間ではz=e^{jωT}の単位円上の応答L(e^{jωT})を複素平面に描く。臨界点は同じく(-1,0)であり、単位円内外の極配置は連続系の左・右半平面に対応する。ZOHや計算遅れが位相を遅らせるため、サンプリング周期Tの選定と位相補償の組合せが安定度を左右する。
測定ベースの適用
実機では、励振入力からFRFを推定しナイキスト線図を得る。開ループが危険な場合は閉ループ同定(小振幅励振や二段法)で安全を確保する。低S/Nでは平均化やウィンドウ処理で推定分散を抑え、位相巻き取り(unwrap)で連続性を保持する。得られた図形はBode線図・ステップ応答と相互検証し、臨界点距離や交差位置の一貫性を確認する。
PID制御で発散してしまうステップ応答ですが、ナイキスト線図で見ると、-180度の時に明らかに-1を右に見ていて不安定であることがわかる。おもしろー。 pic.twitter.com/pAoVJNvcT9
— Takashi Mori (@kanetugu2020) October 21, 2024
設計への活用
目標マージンを設定し、補償器の零・極で図形を「押す」「引く」感覚で整形する。位相進みで臨界点から離し、位相遅れで低周波ゲインを維持しつつ高周波ゲインを抑える。遅延が大きい系では帯域欲張りを避け、交差周波数を安全側に置く。最終的にナイキスト線図、Bode線図、時間応答の三位一体で仕様適合とロバスト性を満たす設計とする。
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