アルカリ金属
アルカリ金属は周期表第1族に属する金属元素群で、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)からなる。外殻電子配置は一般にns1であり、1価の陽イオンを形成しやすく、低いイオン化エネルギーと高い反応性を示す。常温で軟らかく延性に富み、密度や融点は族の下方へ行くほど一般に低下する。水や酸素に対して敏感に反応し、水酸化物や酸化物、過酸化物、超酸化物など多様な化合物を与える。産業的には電池材料、苛性アルカリ、熱媒体合金、化学合成など幅広い用途を持つ。
定義と分類
アルカリ金属は水酸化物が強塩基性(アルカリ性)を示すことに由来して命名された。水素(H)は同族に位置づけられることがあるが金属の性質を示さないため、通常はアルカリ金属に含めない。族全体の化学は1価の陽イオンM+の形成に支配され、塩類は高い水溶性をもつ傾向がある。
電子構造と周期性
外殻ns1の1電子は核から遠く遮蔽効果が大きいため、イオン化エネルギーが低い。族を下がると原子半径が増大し、イオン化エネルギーはさらに低下、電気陰性度も低くなる。これにより還元力は増し、反応性は上昇する。
イオン化エネルギーと結合性の傾向
LiからCsに向かって第一イオン化エネルギーは単調に低下し、M→M+の過程が容易になる。M–X結合ではイオン結合性が卓越し、特にハロゲン化物MXは典型的なイオン結晶を形成する。一方、金属結合は比較的弱く、軟らかさや低融点の原因となる。
物理的性質
アルカリ金属は銀白色で、空気中で速やかに酸化皮膜を生じる。結晶構造は多くが体心立方(bcc)で、電気・熱伝導性は高い。密度はLiが小さく(水に浮く)、族下方で一般に増大するが、融点はLi(約180℃)からCs(約29℃)に向かって低下する傾向が顕著である。
機械的特性と加工性
モース硬度は低く、ナイフで容易に切削できる。延性に富み圧延・押出しが可能だが、表面反応性のため不活性雰囲気や油中での加工・保管が望ましい。
化学的性質
強い還元力を持ち、水、酸素、ハロゲン、硫黄などと容易に反応する。水との反応では水酸化物MOHと水素H2を発生し、族下方ほど激しい。酸素との反応生成物はLiで主に酸化物(Li2O)、Naで過酸化物(Na2O2)、K・Rb・Csで超酸化物(KO2等)に移行する傾向がある。
代表的反応
- 水との反応:2M + 2H2O → 2MOH + H2↑(族下方で発熱・発火性が増大)
- 酸素との反応:4Li + O2 → 2Li2O、2Na + O2 → Na2O2、K + O2 → KO2
- 窒素との反応:6Li + N2 → 2Li3N(Liは常温で窒化物を与える)
- 液体アンモニア中:M → M+ + e−(溶媒和電子;青色→濃青~金属光沢)
化合物と性質
水酸化物(NaOH, KOH)は強塩基であり、酸塩基反応・中和・けん化・pH調整に広く用いられる。ハロゲン化物(NaCl, KCl)は代表的電解質で、高い溶解度と結晶性をもつ。過酸化物・超酸化物は酸素源や酸化剤として機能する。炭酸塩(Na2CO3, Li2CO3)はガラス・セラミックスや医薬用途で重要である。
溶媒和電子と還元反応
液体アンモニアやエーテル系溶媒中でアルカリ金属は電子を放出し、溶媒和電子を介して有機ハロゲン化物の還元脱ハロゲンやビルケミアー還元などを引き起こす。金属ナトリウムはケテン合成、ベンジル位還元、クランメル縮合などの古典的手法でも用いられる。
産出と製造
NaとKは主に塩類鉱物(岩塩、光卤石、硝石)や海水由来の塩を原料とし、電解や置換反応で製造される。金属Naは溶融塩(NaCl–CaCl2系など)の電解によって得られる。Liは輝石・ペグマタイトや塩湖卤水から回収され、炭酸リチウムや水酸化リチウムが精製基材となる。RbとCsは鉱物ポルサイトやポリュサイトに含まれ、抽出・分離後に塩から還元される。Frは強放射性で天然存在量が極めて少なく、実用的製造は行われない。
用途・応用
電池材料・エネルギー
Liは二次電池(Li-ion)正極・負極・電解質の要素として不可欠であり、高エネルギー密度と長寿命を実現する。Na系二次電池や固体電解質を用いた次世代系も研究・実装が進む。Kイオン電池は高い電位と資源量の観点から注目される。
化学工業・材料プロセス
NaOH(苛性ソーダ)やNa2CO3(ソーダ灰)は紙パルプ、ガラス、洗浄剤、アルミナ精製(バイヤー法)などの基幹化学製品である。KOHは電解液、炭酸カリウムはガス吸収剤として重要である。超酸化物KO2は呼吸再生装置で酸素供給・二酸化炭素吸収を担う。
熱媒体・合金・その他
Na–K合金(NaK)は低融点・高熱伝導の熱媒体として原子炉・真空装置で利用された実績がある。Na蒸気ランプは黄色光の高効率光源として知られる。Liは軽量合金、潤滑剤、ガラス・セラミックスの膨張係数低減にも寄与する。
安全性と取扱い
アルカリ金属は水や湿気と激しく反応し、火災・爆発の危険がある。保存は鉱油中または不活性雰囲気下で行い、取り扱いは乾燥環境・適切な遮蔽・耐アルカリ性保護具を用いる。廃棄はアルコールなどで段階的に不活性化し、無機塩に変換してから処理する。水酸化物は強腐食性で皮膚・眼に重篤な障害を与えるため注意を要する。
分析・同定
炎色反応は有力な迅速試験で、Liは深紅、Naは黄、Kは淡紫、Rbは赤紫、Csは青紫を呈する(Naの強い黄はコバルトガラスで遮光)。原子吸光・ICP-OES/ICP-MSによる定量、XRDでの結晶相同定、イオンクロマトグラフィーでのM+定量が一般的である。
溶解・分離操作の要点
高反応性ゆえに試料の溶解は無水条件や非プロトン性溶媒が有利で、塩類は水・アルコールに可溶なものが多い。イオン交換樹脂やクラウンエーテルによりLi/Na/Kなどの分離選択性を高められる。
関連事項
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隣接族のアルカリ土類金属(第2族)は2価をとり、酸化物・水酸化物の塩基性や水との反応性に相違がある。
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Frは短寿命核種が主で化学データが限定的であり、実験的取り扱いは特殊な放射線設備を要する。
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資源面ではLi塩湖卤水・硬岩鉱床、Na・Kは海水・塩鉱床が主源で、地政学・環境影響評価が重要になる。