古典主義(文学)
古典主義(文学)は、17〜18世紀のフランスを中心に展開した文学思潮であり、古代ギリシア・ローマの作品を規範とし、理性・秩序・均衡を重視する表現を追求した運動である。王権が集中した絶対王政期の宮廷や都市の教養層が主要な担い手となり、悲劇・喜劇・抒情詩など多くのジャンルで後世の模範とみなされる作品を生み出した。
歴史的背景
フランスでは宗教戦争を経て王権が強化され、17世紀にはルイ14世のもとでヴェルサイユ宮殿が整備される。そこで形成された華やかな宮廷文化は、王の権威を称揚しつつ洗練された言語生活と結びつき、文学に厳格な品位と形式を求める風潮を強めた。同時期の視覚芸術では、動きと感情表現を強調するバロック美術がヨーロッパ各地で隆盛し、文学にも壮大さや劇的効果を志向する傾向を与えたが、古代作品を模範とする節度ある様式への志向が特にフランスで体系化され、「古典主義」と呼ばれる規範意識が固まっていったのである。
文学理論と表現の特徴
古典主義(文学)は、芸術を理性によって統御される秩序ある模倣とみなし、作者の感情よりも普遍的な人間像・道徳的教訓の提示に価値を置く傾向をもつ。文学理論家ボワローは詩学において、古代の詩人や劇作家を模範とすること、規則と均衡を尊重することを説き、この思想が多くの作家に共有された。
劇作の規則
悲劇・喜劇を中心とする劇作では、「時間・場所・筋の三一致」と呼ばれる規則が重んじられた。すなわち、物語はおおむね1日以内の出来事とし、舞台となる場所をむやみに移動させず、筋を一本に絞ることで、観客の注意と感情を集中させようとしたのである。また、王族や貴族など社会的地位の高い人物を悲劇の主人公に配し、言語も高雅な散文や韻文で統一することが求められた。こうした規則は、劇場が宮廷および都市の上層市民の教養空間であったことと密接に結びついている。
言語とスタイル
古典主義(文学)における理想的なスタイルは、簡潔で明晰な表現であり、比喩や修辞も過度な装飾ではなく、論理的な構成を支える手段とみなされた。人物の情念は激しく描かれることもあったが、それは節度と均衡の枠の中に置かれ、道徳的判断と結びつけられる。感情の爆発よりも、葛藤を理性的に理解させる構造が重視された点に特徴がある。
代表的作家と作品
フランス古典主義を代表する劇作家として、悲劇のコルネイユとラシーヌ、喜劇のモリエールが知られる。コルネイユの悲劇は名誉や義務をめぐる葛藤を描き、ラシーヌは情念に翻弄される人物を簡潔な言語で表現した。モリエールは宮廷や都市社会の偽善・見栄・無知を喜劇的に風刺しながらも、社会秩序を保つ節度や理性を擁護する立場をとった。同時代のヨーロッパ宮廷では、絵画の分野でルーベンス、ベラスケス、ファン=ダイクらが活躍しており、視覚芸術と文学の双方で宮廷社会の価値観が表象された点も重要である。
影響と意義
古典主義(文学)で確立された「明晰で秩序ある言語」「普遍的な人間像」「道徳的教訓」といった理想は、18世紀の啓蒙思想期にも受け継がれ、多くの国で教育・批評の基準として機能した。「古典」という語はのちに、経済思想の分野でアダム=スミスらの古典派経済学や、その主著『諸国民の富』などにも用いられるが、これは古典古代の模倣というより、後世から見て規範的とみなされる学説を指す語法である。文学における古典主義もまた、長く「模範」として読まれ続ける作品群を形成し、その語のイメージを形づくった点で、近代ヨーロッパ文化に大きな影響を与えたのである。