募役法|差役を金納化し財政と農村を再編

募役法

募役法は、北宋期における差役(徭役)制度の貨幣化を推し進め、国家が徴収した役銭を原資として労務を雇い入れる仕組みである。従来の当番制による人身負担を金銭負担へと置き換え、農民の生産を中断させずに公共事業や官衙雑役を確保することを目指した政策で、王安石の新法期に推進された免役の理念を継承しつつ、運用の実務化・恒常化を図った点に特色がある。

宋代の差役と改革の背景

北宋では里甲・保甲など地域共同体を基礎に雑役が割り当てられたが、富裕層の回避や名目上の免除が横行し、中小自作農に過度の負担が集中した。貨幣経済が進展し市場賃労働が拡大する中で、労務を金で賄う方向へ制度を再設計する必要が生じ、そこで募役法が採られたのである。

制度の仕組み

募役法では、家産・資力・保馬・戸等級などを勘案して役銭(役負担の金銭代替)を徴収し、その財源で労働者を公募・雇用した。雇役は工匠の動員、倉運・輸送、堤防・運河修築、都市治安や官庁雑務など多岐に及び、期日・日給・資材手当をあらかじめ定めることで、労務の確保と予算の見通しを両立させた点に意義がある。

ねらいと期待された効果

  • 人身的徭役の削減により、農繁期の耕作中断を抑制し作付・収量の安定を図る。
  • 金納化により帳簿・予算の透明性を高め、役務の質と納期を管理可能にする。
  • 雇用の公募化で都市・農村の余剰労働力を吸収し、貨幣流通を促進する。
  • 役銭の恒常的な財源化により、河川工事や城郭修繕などの公共需要に即応する。

批判と問題点

一方で税目の細分化や基準の硬直化により、実効税率が上昇したとの批判があった。地方官が割当高を恣意的に引き上げたり、雇役の賃金相場が上昇して原資が不足したりする事例も見られた。また、農閑期の雇用拡大は一定の効果を持ったが、地域間の物価・賃金格差を調整しきれず、徴収は均等でも給付が不均等になる矛盾も露呈した。

王安石新法との関係

募役法は、従来の差役を金銭に置換するという点で、王安石が唱えた免役理念の系譜に属する。政治局面の変化に応じて名称や運用細目は調整されたが、「役を金で賄い、国家が一元的に雇役を手配する」という骨格は一貫して維持された。これにより、雑役の割当という身分的・人身的拘束を弱め、市場メカニズムを行政に取り込む方向性が確立したのである。

社会経済への影響

募役法の普及は、農業経営の通年化と兼業化を促し、農民家計の貨幣収支を拡大させた。国家側では、河川堤防・水利・道路・倉廩の維持管理が計画化され、輸送・軍需の平時コストが可視化された。長期的には、都市手工業の熟練労働を官需が下支えし、工料・賃銀の標準化が進んだことも指摘される。

他の新法との連関

募役法は単独ではなく、資金循環や市場統制の諸策と連動した。例えば、農村の資金繰りを支える青苗法、市中価格の乱高下を抑える市易法、軍政・輸送の指揮系統に関わる枢密院や常備戦力である禁軍などが制度面で接続する。いずれも、財源・人員・物流を国家が調達・再配分する枠組みを共有している。

行政運営と記録管理

実務では、戸ごとの等級査定、役銭の収納・移用、雇役契約の締結、検収・検査までが台帳で一貫管理された。配賦の基準と執行結果を逐次照合することで、負担の偏在や流用の芽を抑え、監察機関による糾弾と是正命令が機能した。これにより、財政と行政の「計数化」が進み、国家運営の可視性が高まった。

歴史的評価

募役法は、身分的な雑役を市場的な雇役に置換するという点で制度史上の転換点である。弊害や地域差は避けがたかったが、国家が財源を背景に労務市場を組織し、公共需要と民間労働を結びつけた意義は大きい。新法群の中でも社会的取引費用を引き下げ、国家と社会の接合様式を更新した政策として評価される。

用語と運用の変遷

史料上は免役・雇役・募役など表記が併存するが、いずれも差役の金納化と公的雇用の組織化を指す広義の範疇に属する。政権交代によって名称や料率、対象役務が調整されても、根本は「金銭で役をまかなう」方式であり、その実態を把握するには台帳・会計・賃銀相場の推移を合わせて検討する必要がある。