ノミスマ|高純度と通用性で知られる金貨

ノミスマ

ノミスマは、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)が用いた高純度の金貨であり、古代ローマ金貨ソリドゥス(solidus)の後継として帝国財政と地中海交易を支えた基軸貨幣である。名称はギリシア語のνόμισμαに由来し、本来は「貨幣一般」を意味したが、中世には帝国標準の金貨を指す用法が定着した。税の納入、官僚への俸給、外交贈答など国家の実務に深く組み込まれ、対外的にも高い信認を獲得した結果、ラテン語圏では「ベザント(bezant)」として流通名で呼ばれ、イスラーム世界や西欧世界の貨幣経済にも間接的な影響を与えた。ノミスマは純度と重量が長期にわたり維持されたことで「金本位的な安定」を体現し、帝都コンスタンティノープルの経済的優位を象徴する存在であった。

起源と語源

ノミスマの語源であるνόμισμαは「慣例・法に基づくもの」を含意し、正統政府が定めた正貨というニュアンスを帯びる。ローマ帝政末からコンスタンティヌス1世期のsolidusが制度的前段であり、ビザンツではギリシア語化した貨幣用語とともに、solidusがノミスマと呼称されるようになった。語の広がりは、貨幣=国家権威という観念の普及とも符合する。

重量・額面・制度

ノミスマは原則としてローマ・リーブラの1/72で約4.5g前後の重量が基準とされた。補助額面として半ノミスマ(semissis/「ヘミ・ノミスマ」)や3分の1ノミスマ(tremissis/「トレミシオン」)が鋳造され、大規模決済から日常的支払まで階層的に対応した。鋳造は宮廷直轄の造幣所に集中し、刻印と伝統が金の品質を保証したため、遠隔地でも受容が容易であった。

純度と信認のメカニズム

長期にわたって金品位が高水準で維持されたことがノミスマの信認を支えた。税制・会計単位・官給の統一は裁定取引を抑制し、国内金流の安定をもたらした。帝国は混入や私鋳を厳罰で臨み、さらに宗教的図像と皇帝権威を打刻することで、神聖と正統の印章を貨幣価値に重ね合わせたのである。

ヒスタメノンとテタルテロン

10世紀後半、皇帝政府はノミスマを「ヒスタメノン(histamenon)」と「テタルテロン(tetarteron)」に分岐させた。ヒスタメノンは従来規格に近い基準金貨、テタルテロンは重量をわずかに軽くした新金貨で、財政・流通の柔軟化を狙ったと解される。外観上の厚みや径の差異が識別に用いられ、細かな決済需要にも応えうる複線的体系が形成された。

11世紀の危機と1092年改革

軍事費膨張と財政逼迫により、11世紀には品位低下が進行した。アレクシオス1世は1092年の改革でノミスマ体系を再編し、新たに「ヒュペルピュロン(hyperpyron)」金貨を導入して品位・規格を再定義した。以後、金貨の名称は変わっても、公権が保証する「正貨」というノミスマ本来の理念は継承され、帝国経済の再建に一定の効果を及ぼした。

流通圏と国際影響

ノミスマはバルカンから小アジア、シリア・エーゲ海域に広く流通し、商人ギルドや国際商業路の標準決済に重用された。西欧では「bezant」として高額取引や贖罪金の計算単位となり、イスラームの金ディナールとの競合・並存は、地中海世界の二大金貨圏を形成した。中継都市や十字軍国家に残る貨幣出土は、その広範な受容を物語る。

図像・銘文・象徴性

ノミスマの意匠は、皇帝胸像や立像、十字、キリストや聖母像を配し、周縁にギリシア語銘文を刻むのが通例であった。これは統治の正統性を宗教的秩序に結び付ける政治神学の表現であり、貨幣が「可視のイデオロギー」として機能したことを示す。図像の変化は治世・政策・神学潮流の指標にもなる。

史料と考古学的証拠

財政文書、法令、年代記に加え、宝庫や都市遺構からのコイン・ホーズがノミスマ研究の基盤である。出土地点・混入率・摩耗度の分析は、交易路や価格体系、品位変動の実像を復元する手掛かりとなる。記録史料と自然科学的分析を横断する通貨史の方法が成果を上げている。

関連語・用語整理

  • solidus:ローマ起源の金貨でノミスマの前段。
  • histamenon/tetarteron:10世紀後半の二重規格ノミスマ
  • hyperpyron:1092年改革で導入された新金貨。
  • bezant:西欧でのノミスマ流通名。