ウイグル|東西文明交流の十字路たる地域圏

ウイグル

ウイグルは、中央アジアのタリム盆地を歴史的基盤とするテュルク系の人々である。古代・中世においてはオルホン川流域にウイグル可汗国(回鶻)を建て、唐との軍事・婚姻関係やシルクロード交易を通じて広域に影響した。回鶻崩壊後は高昌(亀茲周辺)などのオアシス都市に移住して仏教・マニ教文化を開花させ、のちにイスラーム化を進めた。言語はテュルク語派に属し、古ウイグル文字・アラビア文字など多様な表記を用いた。近現代では新疆を主な居住地域とするが、歴史上のウイグル(回鶻)と近現代の民族としてのウイグルを区別する必要がある。

名称と語源

ウイグル(Uyghur)の語源は、古テュルク語の語幹に由来するとされ、結合・協力・覚醒などを示す語義を与える説がある。中国史料では「回鶻」「畏兀児」などの表記が見られ、時代や地域により音写・意味が揺れる。中世モンゴル帝国期には古ウイグル文字文化が行政に重用され、名称も文献の中で広く定着した。20世紀以降、中央ユーラシアの民族分類が再編されるなかで、現代民族名としてのウイグルが公的呼称となった。

起源とウイグル可汗国(回鶻)の成立

8世紀半ば、第二突厥可汗国の後継勢力としてウイグルはオルホン川流域で可汗国を樹立した。744年頃の成立後、強固な騎馬軍事力と交易利得を背景に、唐帝国との同盟や朝貢関係を発展させた。安史の乱では唐側を支援して長安・洛陽の回復に寄与し、政治・経済面で優位を得た。やがて内紛と外圧が重なり、840年にイェニセイ・キルギスの攻撃で回鶻は崩壊する。

回鶻から高昌ウイグルへ――移住とオアシス国家

可汗国崩壊後、多くのウイグルは甘粛・吐魯番方面へ移住し、高昌ウイグル(高昌回鶻)と総称されるオアシス政権群を形成した。そこでは仏教・マニ教・景教の文献が多言語で生産され、農耕・灌漑・都市行政が整備された。古ウイグル文字による公文書・契約書は、高度な法慣行と商業活動の広がりを示し、シルクロード交通の安定に資した。

言語と文字

ウイグル語はテュルク語派に属し、歴史的には古テュルク語段階から多様な方言を派生させた。表記体系は、碑文学に見える突厥系のルーン体文字から、ソグド系に淵源を持つ古ウイグル文字(縦書き)へと展開し、のちにアラビア文字も受容した。現代ではアラビア文字系表記が主流で、学術・教育目的でラテン系転写も併用される。文字文化の転換は、宗教・政治・商業ネットワークの変化と密接に結びつく。

宗教と文化

ウイグル社会は宗教的多元性を特徴とし、都市オアシスを舞台に信仰と文字文化が共進化した。マニ教受容は可汗国期の政治権威と結びつき、移住後は仏教寺院ネットワークが写本・絵画・彫像の制作を促した。後世にはイスラームが広がり、チュルク語文学・商業倫理・学術伝統が再編された。文化の層位は厚く、言語・法・美術・音楽が相互に影響し合う。

  • ウイグル可汗国期:マニ教・騎馬軍事・国際交易の結節
  • 高昌期:仏教芸術・契約文書・灌漑農耕の成熟
  • イスラーム化後:学知・法慣行・都市商業の再構築

唐との関係と周辺テュルク世界

ウイグルは唐と互恵的関係を築き、軍事援助と交易利権の交換、皇室婚姻による政治的連結を行った。唐側の視点からは、北方草原勢力バランスの中で回鶻の軍事力を活用する構図であり、草原側からは中国内地市場・絹・金銭経済へのアクセスが大きな魅力であった。周辺の東突厥西突厥との抗争・継承関係は、草原世界の覇権交代を語るうえで不可欠である。唐と周辺の総体像は唐と隣接諸国を参照できる。

シルクロード経済と都市社会

タリム盆地のオアシス都市は、ソグド系商人や漢地商人、インド系巡礼者など多様な人々が交差する場であった。キャラバンは絹・香料・紙・ガラス・馬具などを運び、税や市場規制によって都市財政が賄われた。唐期の葬送美術に見える唐三彩は、国際交易が宮廷文化や都市消費へ波及した一例であり、草原・オアシス・農耕地帯の結節点としてウイグル社会を理解する手掛かりとなる。

碑文・文字資料と史料学

草原世界の政治史は碑文資料によって立体化される。オルホン川流域の記念碑は、可汗の事績・軍事・徳目を列挙し、草原の規範世界を提示する。文字史・碑文学の視点からは、突厥文字オルホン碑文の分析が、可汗国期の政治言説・統治理念・族内序列の復元に資する。古ウイグル文字文書は契約・裁判・寺院経営の具体像を示し、都市社会史の基礎史料となる。

近世・近代への連続と断絶

モンゴル帝国期には古ウイグル書記が行政文化として重用され、テュルク・モンゴル世界の統治術に影響した。のちにチャガタイ語圏が確立し、文学・法・商業語の基盤が広がるなかで、現代ウイグル語はカルルク系の言語環境を継承・発展させた。清代以降の政権交替・辺境統治は住民構成や都市ネットワークに変化を与え、今日の民族・地域認識の前提を形成した。

用語上の注意

史学上、「回鶻」「高昌ウイグル」「現代ウイグル」は必ずしも同義ではない。政治体としての可汗国、オアシス政権群、現代の民族集団は時代・地域・言語・宗教が異なる層をなす。連続性と断絶を併せ見て、史料の時代性・地理的文脈・文字表記の差異を丁寧に読み解くことが求められる。