アメリカ合衆国戦間期
アメリカ合衆国戦間期は、おおむね1918年の第1次世界大戦終結から1941年の対日参戦までの約20年余を指し、国内の繁栄と社会不安、世界恐慌とニューディール政策、孤立主義と国際関与の揺れ動きが交錯した時代である。戦争によって台頭した工業力と金融力を背景に、アメリカは世界経済と国際政治の中心的存在となったが、その一方で深刻な不況と社会矛盾にも直面した。
戦間期の時代区分と歴史的背景
第1次世界大戦後、アメリカはヨーロッパ諸国への債権国として世界最大の債権国となったが、国内世論は再びヨーロッパの紛争に巻き込まれることを嫌い、上院は国際連盟加盟を拒否した。こうした動きは「孤立主義」と呼ばれ、国際問題への参加を限定しつつも、経済面では積極的に海外市場に進出するという特徴をもっていた。また戦後直後には、ロシア革命の影響を恐れた「レッド・パージ」と呼ばれる反共キャンペーンや、移民を制限する移民法の改正が進み、国内秩序の再編が試みられた。
1920年代の繁栄と社会変容
1920年代のアメリカは、大量生産・大量消費社会が一気に拡大した時期であり、「繁栄の20年代」あるいは「狂騒の20年代」とも呼ばれる。自動車産業や電気機器産業が急成長し、分割払いの普及によって多くの家庭が耐久消費財を購入できるようになった。ラジオや映画といった大衆メディアも全国規模で広まり、全国一体の大衆文化が形成された。
- 自動車の普及による郊外化とレジャー産業の発達
- ラジオ放送や映画館を通じた情報・娯楽の共有
- 分割払い・証券投機による消費拡大とバブル化
他方で、禁酒法の施行は密造酒やギャングの横行を招き、都市犯罪の増加をもたらした。また、黒人に対する差別やクー・クラックス・クランの再興など、人種問題は深刻であり、都市部では黒人文化が開花するハーレム・ルネサンスも進行した。女性参政権の確立によって女性の社会進出が進む一方で、保守的な道徳観との対立も生じ、価値観の変化が社会全体を揺さぶった。
世界恐慌とフーヴァー政権の対応
1929年10月のウォール街株価暴落は、アメリカ経済を一転して深刻な危機へと追い込んだ。企業の倒産と銀行の連鎖破綻により失業者は急増し、農村部では穀物価格の暴落と干ばつが重なって生活が破綻した。フーヴァー政権は連邦政府の役割を限定的とみなし、自助努力と民間の協力を重視して対策を講じたが、その対応は不十分と受け止められ、テントやバラックの貧民街は大統領の名をとって「フーヴァービル」と揶揄された。
フーヴァーは復興金融公社の設立など一定の公的介入も行ったが、連邦政府が大規模に景気刺激策を実施する段階には至らなかった。その結果、世界恐慌の打撃は長期化し、1932年の選挙で彼は国民からの支持を失い、民主党のフランクリン・ローズヴェルトが大統領に選出されることとなる。
ニューディール政策と国家の再編
1933年に就任したローズヴェルトは、「ニューディール」と総称される一連の改革を通じて、連邦政府の役割を大きく拡大させた。銀行休業令と金融制度の再建、農業調整法による生産制限と価格維持、公共事業による雇用創出など、経済全体への積極的な介入が進められた。テネシー川流域開発公社に象徴される地域開発は、電力供給と雇用拡大を同時に追求する試みであった。
ニューディールの三つの「R」
ニューディール政策はしばしば「救済(Relief)・回復(Recovery)・改革(Reform)」の三つの「R」で説明される。失業者や困窮農民への直接的支援、景気回復のための投資・需要喚起、金融制度や労働関係の制度改革が組み合わされ、資本主義体制を維持しつつ社会的不安を緩和することが目指された。1935年の社会保障法は老齢年金や失業保険の制度を整え、連邦政府による福祉国家化への第一歩を示した点で重要である。
外交政策と孤立主義のゆらぎ
戦間期のアメリカ外交は、形式上は孤立主義を掲げながらも、海軍軍縮条約や戦間期の賠償・債務問題の調整など、国際秩序の安定に一定の役割を果たしていた。1920年代には戦争放棄をうたう不戦条約も提唱され、アメリカは道義的指導力を示そうとした。しかし1930年代に入ると、欧州でのファシズム政権の台頭とアジアでの日本の侵略が進み、世界情勢は急速に不安定化した。
アメリカ国内では、再び外国紛争への不介入を求める声が高まり、連邦議会は武器輸出を制限する中立法を制定した。だが、ナチス・ドイツの膨張とイギリスの苦境が深まると、ローズヴェルト政権は「武器貸与法」以前から現金払い・自国輸送を条件に武器を供給するなど、事実上の支援へと傾いていく。こうしてアメリカ合衆国戦間期の終盤には、形式的な孤立主義と実際の国際関与とのギャップが拡大し、第2次世界大戦への参戦へと連なる外交的転換が進行した。
戦間期アメリカの歴史的意義
アメリカ合衆国戦間期は、国内的には連邦政府の役割拡大と社会保障制度の萌芽を通じて、現代アメリカ国家の基盤が形づくられた時代であった。また、工業力と金融力の優位性を背景に、世界経済と国際政治におけるアメリカの地位が決定的に高まった時期でもある。他方で、人種差別や地域格差、労働紛争といった問題は解決されず、豊かさと不平等が併存する構造もまた、この時期に強く刻み込まれた。戦間期に形成された制度と経験は、第2次世界大戦後の「アメリカの世紀」と呼ばれる時代を理解するうえでも重要な手がかりとなっている。