MOST|車内マルチメディアを高速かつ高品質に伝送する規格

MOST

MOST(Media Oriented Systems Transport)は、自動車内のマルチメディアデータを高品質かつ高速に伝送することを目的とした車載ネットワーク規格である。主にオーディオや映像といったエンターテインメント系の情報を扱うため、高帯域幅と低遅延が求められる分野で採用されてきた。従来のCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)ではカバーしにくかった大容量のデータ転送を、光ファイバーやUTP(Unshielded Twisted Pair)などを用いた効率的な物理レイヤーで実現している点が特徴的である

背景と誕生

MOSTの開発背景としては、自動車の高級化や差別化を図るためのインフォテインメント機能の高度化が挙げられる。オーディオシステムやリアシート用のディスプレイ、ナビゲーションなどの機能が増えるにつれ、既存の車載ネットワークではデータ量や品質をまかないきれなくなった。そこで業界各社が協力して大容量のメディアデータをスムーズに扱える規格としてMOSTを策定し、各メーカーに広く普及させる取り組みが進められた経緯がある。

アーキテクチャの特徴

MOSTはリング状やスター状などのトポロジで構成され、一定の通信サイクルをもつフレームベースのデータ転送方式を採用している。このフレームの中には同期チャネルと非同期チャネルが共存し、音声や映像などリアルタイム性が必要なデータは同期チャネル、データ通信や制御信号などは非同期チャネルで転送される仕組みになっている。これにより、一つの物理回線上で複数の種類のデータを同時かつ安定してやり取りできる。

物理レイヤー

MOSTで活用される物理レイヤーは、初期には光ファイバーが主流であったが、近年ではコストや整備性を考慮してUTPや同軸ケーブルが使われる場合もある。光ファイバーはノイズに強く、車両内部の電磁環境の悪影響を受けにくいメリットがある一方、扱いが難しくコストも高めである。対してUTPケーブルは汎用性や整備性に優れ、総合的なコスト削減を実現しやすいといわれている。

主な利用領域

車内エンターテインメントシステム全般でMOSTが利用されており、具体的にはプレミアムオーディオやDVD再生、リアシートエンターテインメント、デジタルTVチューナーなど、多彩なデバイス間の連携が行われている。運転席と後部座席間で映像信号を配信する場合や、複数のスピーカーをサラウンド制御する場合など、低遅延と高品質を両立させる必要があるシーンで特に力を発揮している。

同期と制御

MOSTネットワークでは、システム制御を行うネットワークマスターがフレーム生成やタイミング調整を行い、各ノードが連動してスムーズに通信を行えるようにしている。タイムスロットを厳格に管理し、同期チャネルでは途切れのないストリーミングを可能にしている一方、非同期チャネルではコマンドや制御データの通信を行う。この2種類のチャネルを使い分ける仕組みにより、エンターテインメント機能の高品質化と安定運用が同時に実現できる。

ネットワーク管理と拡張性

MOSTでは、ネットワーク上の各ノードが自動的に検出され、ユニークなアドレスが割り振られる仕組みが整備されている。これにより新たなノードを追加した場合でも、フレームスロットを適切に再構成することでスムーズに拡張できる。最新バージョンではネットワーク速度の向上やプロトコル上のセキュリティ強化なども図られており、今後もデジタル化が進む車両に対応していく余地が大きいと考えられている。

利点と課題

MOSTはリアルタイム性と高い音質・画質を両立できるため、車内体験を大きく向上させるメリットがある。一方で、導入に際しては専用のトランシーバーやケーブル構造、ソフトウェアプロトコルへの対応が必要となり、従来のネットワークと比べてコスト面のインパクトが大きいという課題も存在する。さらに、将来的には車内Ethernetや他の通信規格との競合や併用も増えるため、システム設計時に慎重な選定が求められる。

競合技術との関係

車載ネットワークの分野では、音声や映像といったエンターテインメント領域はMOSTが主導的役割を担ってきたが、近年では高帯域かつ汎用性のあるEthernetが台頭してきている。さらにCANやFlexRayなどの制御系と組み合わせて複数のネットワークを並行運用する例も多く、今後は車両全体の電子システム最適化に向けて、これらの技術がどのように共存・住み分けを果たしていくかが焦点となるであろう。

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