MCM
MCM(Multi-Chip Module)は複数の半導体チップを一つのパッケージ上に実装し、高集積化と高速・高効率な動作を実現する先進的なパッケージング技術である。従来は個別パッケージ化されたIC同士を基板上で接続していたが、MCMでは1つの基板やセラミック基板などに複数チップを直接配置し、より短い配線で接続するため、信号伝送の遅延や消費電力を削減できる。コンパクトかつ高性能を同時に求められるスマートフォンやサーバ向けCPU、そして高性能GPUなどの領域で採用が進んでおり、半導体技術の高度化に不可欠な要素となりつつある。
概要
従来のチップ実装ではパッケージ間を基板配線でつなぐ必要があり、高速化するほど信号遅延やノイズの影響が深刻化していた。そこでMCMは複数のチップを一つのサブストレート上で近接配置し、より密接に相互接続することで、高速通信や省スペース化を容易にする。広義には2.5D実装や3Dスタック技術といった先端パッケージング手法も包含しており、特に高性能計算分野やモバイル機器など熱設計と高速化が重要視される領域で注目を集めている。
基本構造
MCMはセラミック基板や有機基板などを用いて複数チップを配置する構造を取る。電極間を高密度インターコネクトで接続するため、基板層構成の設計やビア加工など、従来以上に精密な製造技術が求められる。配線距離が短いためクロストークや配線抵抗が減少し、高速信号伝送が可能となる一方、実装面積が増えた分だけ内部構造が複雑化する点には注意が必要である。
特徴
MCMの最大の特徴は、複数チップを一体化することでデータ転送の効率を向上し、部品点数や接合数を減らせる点にある。従来のシステムオンチップ(SoC)では単一ダイ内に機能をまとめるアプローチが取られるが、プロセスノードや機能ごとに異なる最適化を行いたい場合、MCMによってそれぞれが異なるプロセスで製造されたチップをまとめ、柔軟性と歩留まりの両面でメリットを得られる。また故障や歩留まりに対するリスク分散効果も期待できることから、大規模デザインにおいても有効である。
複雑化の影響
基板上に複数チップが実装されるMCMでは、実装レイアウトが複雑化し、熱設計や電源分配に関する課題が増える。高密度実装のためにはそれぞれのチップの消費電力や発熱量を考慮し、十分な放熱構造を持たせる必要がある。さらに狭いスペースに多数のインターコネクトを通す設計では、電源供給ラインの確保やクロック供給の最適化など、システムレベルでの検討が要求される。
用途
MCMはサーバやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)など高い計算性能を追求するシーンで特に活用されている。大規模並列演算を行うGPUやAIアクセラレータなどは多数の演算コアを搭載するため、より密なチップ間接続が不可欠である。またモバイル機器やIoTデバイスなど小型化が求められる製品でも、複数の機能ブロックをまとめて配置できるため筐体スペースを削減できる利点が注目されている。
産業用やハイエンド機器
通信インフラ機器や防衛・航空分野など長期間稼働が想定されるシステムにおいても、高信頼性かつ高密度実装が求められる。そこでMCMは単一モジュール内に多機能を凝縮し、配線の接合部やはんだボールなど物理的故障の起点を減らせる手段として効果的である。ただし製造プロセスが複雑化するため、部品単価や初期投資が大きくなる場合があり、製品ライフサイクルや出荷数量とのバランスを慎重に評価する必要がある。
課題と動向
高度化が進む一方で、MCMの設計・製造には高いレベルの技術力と設備投資が求められる。実装密度が増すにつれ歩留まりの維持が難しくなり、全体の製造コストが上昇するリスクもある。さらにパッケージ技術の進歩によって2.5D積層や3D実装など多様な手法が登場しており、市場はより細分化と高機能化の方向へ進んでいる。こうした背景から、半導体メーカーやOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)各社との連携が重要になっている。
実装技術の進化
近年はシリコンインターポーザを活用した2.5D実装や、チップ同士を垂直に積層する3D実装といった技術が盛り上がっているが、MCMが培ってきた基板レベルの配線技術はこれら新技術の基盤となる。配線幅の微細化や材料技術の進歩により、さらに高密度かつ高性能なパッケージングが可能になる一方、複雑化が進むほどコスト増大や熱対策の難度が上昇する。こうしたトレードオフを見極めながら最適解を探すことが、今後の半導体業界における重要なテーマとなっている。