Lagrangeの未定乗数法|等式制約を乗数で解く古典最適化法

Lagrangeの未定乗数法

Lagrangeの未定乗数法は、等式制約付き最適化において、制約を満たしつつ目的関数を最小化(最大化)する解を求める古典的手法である。制約をペナルティではなく補助変数(未定乗数)で厳密に取り込み、ラグランジュ関数を構成して停留条件を解く点に特徴がある。工学設計では、強度・剛性・体積・コストなどの制約を同時に扱う場面が多く、KKT条件の基礎として解析的理解と数値解法の両面で有用である。

基本概念と導出

問題は「minimize f(x) subject to g_i(x)=0 (i=1,…,m)」と書ける。ラグランジュ関数を L(x,λ)=f(x)+Σ_i λ_i g_i(x) と定義し、停留条件 ∇_x L(x,λ)=0 および可行性 g_i(x)=0 を同時に満たす (x,λ) を求める。幾何学的には、制約面の接空間に沿った目的関数の勾配成分が消える、すなわち ∇f(x*)+Σ_i λ_i ∇g_i(x*)=0 となる点 x* が候補解である。未知数は n 次元の x と m 個の λ で合計 n+m、方程式も同数であるため、ニュートン法などでKKT連立を解けばよい。

簡単な例

例として「f(x,y)=x^2+y^2 を最小、制約 x+y=1」を考える。L=x^2+y^2+λ(x+y−1)。停留条件より 2x+λ=0、2y+λ=0 より x=y=−λ/2。制約から −λ=1、したがって λ=−1、x=y=1/2 が得られる。値は f=1/2。幾何学的には、円 f=一定 と直線 x+y=1 が接する点が最適で、∇f と ∇g が平行(線形結合)であることがラグランジュ条件に対応する。

不等式制約とKKT条件

不等式 h_j(x)≤0 を含む場合は L=f+Σ_i λ_i g_i+Σ_j μ_j h_j とし、KKT条件を満たす必要がある。(1) 駆動方程式:∇f+Σ_i λ_i ∇g_i+Σ_j μ_j ∇h_j=0、(2) 可行性:g_i=0, h_j≤0、(3) 双対実行可能性:μ_j≥0、(4) 相補性:μ_j h_j=0。加えて LICQ などの制約資格条件や、凸問題では Slater 条件が満たされると、KKT条件は必要十分となる。

2次条件と境界ヘッセ行列

候補点が極小であるためには、制約に沿った方向に対して L の 2次変分が正であることが求められる。実装的には、制約のヤコビアンの零空間上で ∇^2_{xx}L(x*,λ*) の正定性を判定するか、境界付き(bordered)ヘッセ行列を用いる。非凸問題では 1次条件のみでは鞍点を除外できないため、2次条件の確認が重要である。

数値解法と実務の流れ

  1. モデル化:目的 f と制約 g,h を明確化し、微分可能性と次元・単位を整える。
  2. 初期点:等式を満たす初期可行点、または可行化ステップを用意する。
  3. KKT連立:未知数 (x,λ,μ) に対しニュートン法や準ニュートンで解く。ラインサーチ/トラストリージョンを併用する。
  4. スケーリング:勾配・制約のスケールを合わせ、条件数を改善する。
  5. 正則化:ヘッセ近似が不定の場合はダンピングやPSD化を行う。
  6. 停止判定:KKT残差、可行性、補完性、目的値改善の基準で止める。

関連手法と位置づけ

  • ペナルティ法/拡張ラグランジュ法(Augmented Lagrangian):可行性を緩和しつつ速い収束性を得る。
  • 双対問題:ラグランジュ双対関数を最大化し、弱双対・強双対でギャップを評価する。
  • 内点法:バリア項で不等式を扱い、中心路に沿ってKKTを解く。
  • 可行方向法・射影法:制約面に射影した勾配方向で更新する。

これらは最終的にKKT条件の満足を目指す点で共通し、問題構造(凸・非凸、等式・不等式の数、疎構造)に応じて選択する。

幾何学的直観

等式制約では ∇f が制約勾配の線形結合に一致することで、目的関数の増減方向が可行集合の接空間に対し直交する。不等式では活性制約のみが勾配結合に寄与し、非活性制約の乗数は 0 となる。乗数は「影の価格(shadow price)」として、制約1単位の緩和が最適値に与える感度を表す。

実装上の注意と工学応用

  • 制約資格:LICQ が破れると解の一意性や収束が不安定になる。冗長制約は整理する。
  • 感度・単位:応力・変位・質量など物理量の単位を統一し、勾配のスケールを制御する。
  • 近似勾配:CAE 連成では差分ノイズが大きい。自動微分や連続体感度解析を検討する。
  • 設計例:強度制約 σ≤σ_allow、固有値 λ_min≥λ_req、体積・重心・干渉制約などを g,h として組み込む。

数値最適化の現場では、Lagrangeの未定乗数法を中核に、KKT連立の解法、双対ギャップの監視、拡張ラグランジュや内点法とのハイブリッドなどを状況に応じて使い分ける。適切なスケーリングと2次条件の確認、そして制約資格の管理が、堅牢で再現性の高い設計最適化につながる。