IEEE1394|高性能映像・音声のリアルタイム転送を支えた規格

IEEE1394

IEEE1394は、主にデジタル映像やオーディオ機器の高速データ転送を目的とするシリアルインタフェース規格である。AppleのFireWireやソニーのi.LINKとしても知られ、ホットプラグによる着脱を可能とする柔軟性や、カメラやビデオレコーダーなど周辺機器間のリアルタイム通信が得意とされる。複数台の機器を数珠つなぎで接続できるデイジーチェーン方式や、当時の他規格と比べて高いデータレートを実現し、マルチメディア領域で大きな役割を果たしてきた。本稿ではIEEE1394の登場背景やバージョンごとの性能、物理レイヤの構造、そして近年の応用と課題について概説する。

登場と目的

1990年代半ば、パソコンやAV機器の間で大量のデジタルデータをやり取りするニーズが急速に高まっていた。従来のパラレル転送方式はケーブルの本数が多く大掛かりになりがちで、干渉やコネクタの複雑化も問題とされていた。このような背景のもと、Appleを中心に策定されたIEEE1394は、パラレル方式に代わる高速・シリアル型インタフェースとして開発されたのである。AV機器を容易に接続し、デジタル映像や音声のリアルタイム伝送を可能にすることが最大の狙いとされた。

バージョンと転送速度

IEEE1394は、初期規格のS100~S400(最大400Mbps)を皮切りに、IEEE1394aやIEEE1394bなどの改訂で転送速度を強化してきた。IEEE1394bでは800Mbps(S800)に対応し、理論上はS1600やS3200といった更なる高速化規格も策定された。これにより、ハイビジョン映像データのストリーミングや高速バックアップなど、当時のUSB規格では実現しにくかったタスクをこなすことができた。ただし、後にUSB規格もUSB2.0や3.0へ進化し、技術的な競合関係が生じた経緯がある。

物理レイヤと接続形態

IEEE1394は、シールド付きツイストペアケーブルを用いて差し込み方向を意識しない6ピンまたは4ピンコネクタを採用する。6ピンコネクタの場合、電源供給用のラインも含まれるため、バスパワーで機器を動作させることも可能とされる。また、ハブやマルチポートを必要とせずに最大63台までのデバイスをデイジーチェーンで接続できるのが大きな特徴である。バス同士が相互接続した場合でも、自動的にツリー状のネットワークを構成するメカニズムが備わっており、トポロジ管理が容易になっている。

ホットプラグとリアルタイム性

接続機器を電源オンのまま安全に着脱できるホットプラグ機能は、ユーザーの使い勝手を大きく向上させる要素であった。信号面でも仲介を行うため、コネクタ抜き差し時の電気的ショートを起こしにくく設計されている。また、強固なQoS(Quality of Service)管理を行うアイソクロナス転送モードが用意されており、一定帯域をリアルタイムに割り当てることができるため、デジタルビデオやオーディオの遅延を低減して安定したストリーミングを実現するといわれる。

競合規格との比較

IEEE1394は、高速転送とAV機器連携を強みとして普及を進めてきたが、一方でUSB規格も市場を席巻していた。USBはキーボードやマウスなどの低速機器からハードディスクまで幅広い周辺機器を統一する戦略を取り、コスト面や互換性で優位性を確立した。結果的に、市場規模においてはUSBが主流となり、IEEE1394は主にビデオカメラやオーディオ機器など特定分野で用いられる状況に至った。さらに、PCのマザーボードに標準搭載されるポート数でもUSBが圧倒的優位に立ち、IEEE1394は限られた領域でのみ存在感を維持する形になったのである。

近年の応用と課題

大容量データ転送の新たな選択肢としては、ThunderboltやUSB3.2、さらにUSB4などが登場し、高解像度映像や高速ストレージ用途で幅広く採用されている。IEEE1394はすでに規格のアップデートが停止されており、現在では過去にリリースされた機器のサポートや特定産業の装置間通信などに限られているといえる。とりわけプロ向けのデジタル映像の取り込みや、音楽スタジオでのオーディオインタフェースに利用されるケースが残存している。しかし、今後はデバイスメーカーが新技術への移行を進める可能性も高く、IEEE1394の位置付けは徐々に狭まる方向へ変化しつつある。

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