IDM(Integrated Device Manufacturer)
IDM(Integrated Device Manufacturer)とは、半導体の設計から製造、組み立て、テスト、販売までを自社内で一貫して行う企業形態のことである。外部ファウンドリを利用せず、自社の工場と設備を最大限に活用して製品を開発・生産できる点が大きな特徴とされる。エレクトロニクスの発展を支えてきた実績に加え、近年の微細化や高性能化の流れに適応するために、多様なプロセス技術や研究開発力が重要視されている。
誕生の背景
半導体産業が黎明期を迎えた当初、多くの企業は設計から製造までのプロセスを一括して行っていた。これは、研究開発力と生産力を併せ持つことで歩留まり向上や技術革新を迅速に行えるためであった。だが、プロセスの微細化や工場建設の巨額投資などリスクも大きく、企業によってはファウンドリに生産を委託し、自社は設計に集中する形態へシフトする動きが現れた。それでもなお、自社に工場を持ち、技術を垂直統合するIDMのビジネスモデルは、高付加価値製品を安定して供給する戦略として現在も一定の地位を維持している。
【IDMとは?】
IDMとは、Integrated Device Manufacturerの頭文字を取ったもの。
「垂直統合型デバイスメーカー」を意味します✍️
半導体の設計から前工程製造、後工程製造、販売までを一貫して担う半導体メーカーを指します。
↓続く pic.twitter.com/6wC4pOx5cc
— 【公式】大分デバイステクノロジー株式会社 (@ODT_PR) September 30, 2024
ビジネスモデルの特徴
IDMのビジネスモデルは、製造ラインの運営と研究開発に巨額の資本が必要な点が特徴的である。生産量の確保や設備の稼働率向上が極めて重要であり、需要予測や顧客ニーズに応じて柔軟にラインを切り替える運用能力も求められる。一方、製品の品質や信頼性に対して直接コントロールを及ぼしやすいため、長期的に築き上げたブランド力や特殊用途製品などで差別化を図ることが可能である。シリコンの微細化のみならず、材料面やパッケージング技術の先端開発も社内で行うことで、高度なIP(Intellectual Property)の蓄積を自社だけの強みとして保有できる。
????BYDやテスラの垂直統合型に対する日本メーカーの今後の開発スピードの遅さが良いものづくりとどう経営に影響を与えるか見ていきたい
半導体製造まで行うBYDの内製化力
「8 in 1」電動アクスルを分解 | 日経クロステック(xTECH) https://t.co/Ka4w2z3geN pic.twitter.com/LSUdDExQdT
— 井上雅史|ものづくり✕ビジネス???? (@masashi_i) September 7, 2023
ファブレスモデルとの違い
半導体産業ではファブレス(設計専門企業)とファウンドリ(製造専門企業)に分業するモデルも一般的である。これに対し、IDMはその両方の機能を持つため、初期投資や維持コストは大きくなるものの、製品差別化や利益率の最適化が可能となる。また、製造プロセスに関するノウハウや技術資産の蓄積が強みとなる。
ファウンドリとの違い
半導体業界には自社で製造設備を持たず、外部の工場に生産を委託するファブレス企業や、他社設計のチップを専業で生産するファウンドリ企業が存在する。ファウンドリは大規模生産を得意とし、受託型ビジネスモデルで多様な顧客を抱えるが、設計や製品企画は基本的に顧客側が担う。一方、IDMは自社設計の半導体を自社製造ラインで作り、直接市場に販売する形態をとる。これにより、一貫した製品戦略やブランド価値の確立が可能だが、設備投資や開発費の負担が大きいというリスクを伴う。
半導体需要とIDM戦略
近年のIoT、AI、自動運転の普及に伴い、エッジデバイスや高性能プロセッサの需要が高まっている。これにより、独自技術による差別化を図るIDMの競争力が再評価されている。特に車載分野では品質や供給の安定性が重視されるため、IDMの強みが活かされやすい。
長らく半導体メーカーは垂直統合型(開発から製造まで一社で行う。かつてはTI、今はIntelやSamsung)が主流だった。今はオワコンになり、垂直統合型(開発は開発、製造は製造で会社を分ける)が業界の主流だ。双方の覇者は言わずと知れたNVIDIAとTSMCである。(続
— 新川裕也|トナリズムグループCEO (@tonarism2018) January 2, 2025
代表的な企業と製品
世界的に名が知られるIDM企業としては、IntelやSamsung、Micronなどが挙げられる。マイクロプロセッサやメモリ、イメージセンサー、ロジックICなど、それぞれが得意とする分野でグローバルに展開し、高性能製品の安定供給に貢献している。これらの企業は自社の技術ロードマップを独自に策定し、微細化プロセスや3D構造など先端技術を素早く導入することで、差別化を狙う傾向が強い。同時に、自動車向け半導体やモバイル向けチップなど、成長市場を視野に入れたポートフォリオの最適化にも力を入れている。
自分の経験から言うと、
半導体メーカーで、
垂直統合型で、
本体の総合電機から切られて、
ナントカ連合が経営する、
そんな企業の社員に待つのは茨の道しか思い付かない。今のうちに転職の備えをしとくべき。もうしてるか。 https://t.co/slESOztIR4— シュレディンガーの肉球 (@QUANTUM_GO_BEER) May 17, 2018
メリットと課題
IDM形態の大きなメリットは、開発から量産までを社内で完結できるため、情報漏洩リスクが低く、品質管理が細部にわたって可能な点である。製造ラインのカスタマイズや工程変更が柔軟に行えるため、最新テクノロジーを素早く試作・検証できる強みもある。一方で、世界的な半導体需要の変動や素材価格の変化が経営に直結しやすく、大規模な投資リスクを伴うことが課題となる。また、ファウンドリサービスを提供する企業との競争や、設備稼働率を高めるための外注対応など、ビジネスモデルを一部ハイブリッド化する事例も増えている。
地政学的要因とIDM
米中対立や台湾海峡の緊張など、地政学リスクが高まる中、IDMは供給網の自立性を確保する手段として注目されている。製造を国内で完結できる体制は、国家安全保障や経済安全保障の観点からも戦略的に重要視されている。
今後の展望
最先端プロセスの開発費用が天文学的に膨れ上がるなか、IDM企業は競合他社との提携や研究機関との共同開発を活用しながら微細化を推進している。同時に、後工程(OSAT)や先端封止技術を内製化する動きもあり、システムレベルでの差別化を図る方向に進むケースが多い。加えて、自動車向けやAIアクセラレータなど、信頼性や演算性能を重視する需要が急増している分野への対応が重要課題となる。ファウンドリとの補完関係を模索しつつも、自社工場を核にした技術革新とプロセス最適化が、将来にわたる成長戦略のカギを握ることは変わらないとみられている。