FIB(集束イオンビーム)|高精度のナノ加工・観察技術

FIB(集束イオンビーム)

FIB(集束イオンビーム)とは、高エネルギーのイオンビームを細く絞り込み、半導体や金属などの試料表面を微細加工・観察するために用いられる装置および技術である。電子顕微鏡と組み合わせた複合装置として広く利用され、集束したイオンビームを使って試料をエッチングしたり、デポジション(堆積)を行ったりできる点が特徴となっている。微細構造の解析や回路修正だけでなく、半導体故障解析や材料研究など、多様な分野の研究開発を支える存在として欠かせない存在である。

原理

FIB(集束イオンビーム)の基本原理は、ガリウムなどのイオン源から放出されたイオンを静電レンズや電磁レンズによって集束し、非常に小さなスポットサイズで試料表面に照射する点にある。イオンが試料に衝突する際のエネルギーを利用して基板材料を除去するエッチングや、ガス導入系と組み合わせた堆積技術が可能となる。イオンビームは電子ビームに比べて質量が大きく、衝撃エネルギーが高いため、局所的に材料をくり抜くなどの微細加工を実現しやすい一方で、照射による損傷や表面変質に注意を払う必要がある。

装置構成

FIB装置は、イオン源・レンズ系・スキャン系・試料ステージ・検出器などの要素で構成されている。イオン源としてはガリウム液体金属イオン源(LMIS)が代表的であり、高輝度で安定したビームが得られるため広く採用されている。試料ステージは高精度で位置制御が可能な仕様になっており、加工や観察を実行したいポイントをピンポイントで狙える。SEM(Scanning Electron Microscope)と一体化したFIB-SEM複合装置も普及しており、イオンビーム加工と電子ビーム観察を同一ステージで効率的に行うことができる。

応用分野

半導体製造工程の故障解析や開発段階での回路修正において、FIBは欠かせないツールである。ウェーハやパッケージの一部を選択的に削り取り、内部構造を露出させて観察したり、微細な配線を補修・切断するなどの作業が可能である。さらに、材料科学分野では新素材の微細組織解析や、ナノメカニクス実験用の試料作製などにも利用されている。近年はバイオサンプルへの応用も進んでおり、細胞内部構造の三次元解析や高解像度観察のためのサンプル調整など、多岐にわたる用途がある。

メリットと留意点

FIBのメリットは、ナノメートルスケールで精密に加工や観察が行える点にある。複雑な形状を選択的に削り込むことで、従来は困難とされた局所領域の調整を実現できる。一方、イオンビーム照射による材料特性の変化や試料の汚染など、観察・加工におけるアーティファクトが生じる可能性があるため、運用時には最適なビーム条件や適切な試料前処理など、複合的な対策が求められる。とりわけ半導体デバイスのような微細構造では、イオン打ち込みのダメージが不具合を引き起こす場合もある。

今後の展開

近年の半導体プロセスの微細化や新素材の登場に伴い、FIBに求められる加工・観察能力は一段と高度化している。ガリウムイオン源以外の液体金属イオン源や、プラズマイオン源を採用する装置も登場しており、加工速度や解像度、試料へのダメージ低減などを狙った技術革新が進んでいる。さらに、自動化やAIとの融合によって複雑な三次元構造の断面観察や統合的な故障解析を効率化する取り組みも活性化している。研究開発および量産ラインの両面で、FIB技術の需要と発展は今後も続くと予想される。

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