FeRAM
FeRAMは強誘電体を利用する不揮発性メモリの一種である。DRAMやフラッシュメモリと比較して書き込みサイクルが多く、電力消費も低減できる点が大きな特徴である。強誘電体の性質を活かすことで、データを電源断後も保持できるうえ、書き込み動作の速度や耐久性に優れるといった利点があり、産業機器や医療分野など幅広い用途での応用が期待されている。本稿ではその背景と仕組み、具体的な特性と課題を通じて、FeRAMの全体像を概観する。
背景
従来のメモリ市場では、主にDRAMが高速メモリとして、多数の読み書きを行う用途で用いられてきた。一方で不揮発性を重視する領域ではフラッシュメモリが発展しており、携帯機器やSSDなどで活躍している。しかしDRAMは電源断でデータが消失するという特性を持ち、フラッシュメモリは書き込み速度や書き換え回数に制限がある。このような背景から、不揮発性かつ高速、さらに高い書き換え耐久性を併せ持つ新しいメモリ技術が模索されてきた。その中で強誘電体のメモリ特性に注目が集まり、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)が誕生するに至った。
仕組み
FeRAMは強誘電体を利用してデータを保持する。強誘電体とは、外部電場によって分極の方向を反転できる物質のことであり、電場を取り去っても分極状態を維持する特性を持つ。メモリセル構造ではキャパシタ部分に強誘電体を用い、分極状態の向きで「0」または「1」を表現する。従来のDRAMと似た回路設計を採用できるが、強誘電体が持つ分極特性のおかげで電源がなくても情報を保持し続けることが可能となる。
特性
FeRAMの大きな特性は、高速書き込みと高い書き換え耐久性である。書き込み操作を行う際、DRAMのようにキャパシタへ電荷を蓄積するのではなく、強誘電体の分極を反転させる形でデータを書き込むため、比較的低電圧で高速動作が実現しやすい。さらに、フラッシュメモリに比べて書き込みサイクル限界が圧倒的に大きい点も大きな利点となる。また、動作時の消費電力が少なく、スタンバイ時の電力消費もほとんどないため、省エネルギー化を重視する用途に好適である。
応用分野
FeRAMは、産業用機器や組み込みシステムなど、頻繁にデータの書き換えが必要とされる領域で注目を集めている。例えばコンピュータシステムのログやセンサーデータの保存など、多くの書き込みサイクルを要するアプリケーションには最適といえる。医療分野では、堅牢性が求められる計測装置やペースメーカーなどでも検討が進み、信頼性と低消費電力が同時に求められる場面で有効性を発揮している。さらに一部の車載システムでも、予期しない電源断でもデータ消失を防ぐ必要があるため、高耐久性を備えるFeRAMが有利になる場面がある。
課題
FeRAMの普及にあたっては、製造技術およびコスト面のハードルが指摘されることが多い。強誘電体材料として一般的に用いられるPZT(Pb(Zr,Ti)O3)は鉛を含むため、環境規制の強化による制限や処理工程が問題になる可能性がある。さらに強誘電体を半導体プロセスに適合させるために高度な製造ラインや専用設備が必要となり、大量生産を行う際のコスト競争力が課題として浮上する。近年はより鉛含有量を低減できる素材や、新しい結晶構造を探る研究も進められているが、量産フェーズでの安定品質と歩留まりをどのように確保するかが市場拡大の鍵となる。
展望
メモリ技術の進化が情報社会を支えている中で、低電力かつ高書き込み耐久性を両立するFeRAMへの期待は高まる一方である。次世代メモリ技術としてReRAMやMRAMなども並行して研究・実用化が進んでおり、それぞれの特長を活かしつつ市場での住み分けが進む可能性がある。より大容量で高集積なFeRAMを実現できれば、IoTデバイスやAIアクセラレータなど新領域での需要を取り込み、DRAMやフラッシュメモリに次ぐ主要メモリの一角を担うシナリオも現実味を帯びてきたと言える。