CDMA(符号分割多元接続)|周波数を共有しながら符号で分離する技術

CDMA(符号分割多元接続)

従来の無線通信では、周波数や時分割によって複数ユーザのチャンネルを区別する方式が主流であったが、符号を用いることで同一帯域を共有しながら通信を実現する技術としてCDMA(Code Division Multiple Access)が広く知られている。これは各ユーザに割り当てられた固有の拡散符号を用いて信号を広帯域化し、受信側でその符号を用いて元のデータを復元する仕組みが特徴的である。たとえ電力の小さい信号が複数重畳していても、受信プロセスで選択的に目的の符号を抽出できるため、周波数スペクトラムの有効利用につながる利点を持つ。軍事通信や衛星通信などの特殊用途で活用が始まり、その後、第2世代から第3世代にかけての携帯電話規格でも盛んに採用されるようになった。この技術によって多数のユーザが同時に接続できる環境が整い、携帯端末の大規模普及に大きく貢献してきた歴史を持つ。

CDMAの基本原理

CDMAの最大の特徴は、ユーザごとにユニークな拡散符号を与える点にある。この符号は疑似乱数系列として生成され、データを送信する際はビット列を符号長に応じて拡散し、広帯域化された信号としてアンテナから送出する。受信側では対応する拡散符号を用いて相関処理を行い、重なり合った複数信号の中から目的のビット列を抽出する。もし符号が一致しなければ相関値は極端に低下し、ノイズ同然に扱われるため、他のユーザ信号の干渉を効果的に排除できる仕組みである。さらに電力制御技術と組み合わせることで、すべての端末が等しいレベルの受信品質を得られるよう調整し、セル内の通信品質を均一化することが可能となっている。

CDMAの利点と課題

CDMAは周波数を有効活用できるほか、周波数選択性フェージングに強いというメリットを持つ。さらに拡散による秘匿性の向上や、ソフトハンドオーバーによる通信品質の維持など、多くの利点がある。一方で、端末数が増えすぎるとセル内で相互干渉が顕在化し、通信速度や品質が低下するという課題が挙げられる。このため基地局はリンク容量を常時監視し、電力制御を厳密に行う必要がある。さらに端末間で拡散符号を重複しないように管理し、符号の設計を誤ると相関特性が悪化して誤り率が上昇するリスクがある。またハードウェア実装では拡散・逆拡散の高速化に伴い、演算回路の消費電力や実装面積への配慮が求められる点にも注意が必要である。

携帯電話規格への応用

携帯電話の第2世代ではGSMが欧州を中心に標準となった一方、北米や日本などでCDMA方式のIS-95(cdmaOne)が導入された実績がある。さらに第3世代移行期にはW-CDMAやcdma2000といった方式が国際標準の一部として採用され、音声とデータ通信が一体化したサービスを支えてきた。拡散符号の長さや拡散レートを拡張し、より多くのユーザが高速データ通信を同時利用できるようになった背景には、強力なDSP(Digital Signal Processor)やASICの発展も寄与している。加えて携帯電話端末側でも高集積化と省電力化が進み、スマートフォン時代の到来に合わせて映像ストリーミングやモバイル通信を支えるインフラとして重要な役割を担っている。

多元接続技術との比較

CDMAはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)やTDMA(Time Division Multiple Access)など他の多元接続技術と比較されることが多い。OFDMAはサブキャリアを細かく分割して複数端末に割り当てる仕組みであり、高速通信が求められるLTEやWiMAXで活躍している。TDMAは時分割で帯域を共有するため制御がシンプルである一方で、周波数利用効率や柔軟性でCDMAには及ばない面もある。ただしマルチパス環境への耐性、ユーザ数の増加に対する拡張性、基地局との協調制御など、実際の運用環境に応じて最適な方式は異なる。近年は第5世代移動通信システム(5G)や将来の6Gでも、これら複数の方式を組み合わせて効率よく運用するアプローチが模索されており、符号分割方式も引き続き活用される可能性がある。