C言語
1970年代初頭、UNIXオペレーティングシステムの開発過程で誕生したC言語は、汎用性と効率性の高さを兼ね備えたプログラミング言語である。シンプルな文法と低レベル操作を可能にする仕組みにより、システムプログラミングからアプリケーション開発まで多岐にわたる分野で実用されてきた。メモリアドレスへの直接アクセスやポインタの活用など、ハードウェアと密接に連動したプログラムを組める点が大きな特長であり、他の言語が誕生する土台となった部分も多いといえる。
背景と歴史
1960年代、メインフレームなどの大型計算機が主流だった時代には、それぞれのハードウェアに依存したアセンブリ言語で開発が行われることが多かった。しかし、ポータビリティと高水準の表現力を両立する言語が望まれるようになり、UNIXの開発環境でその要求に応えられる言語を模索する動きが加速したのである。強い影響を受けた言語としてはB言語やBCPLなどがあり、それらの設計思想を踏襲しつつ機能を洗練させた結果としてC言語が確立された。最終的にはAT&Tベル研究所によるUNIXの普及とも相まって、大学や企業などの多様な現場において強力な開発ツールとして広がっていった。
基本的な特徴
C言語はコンパイル型でありながら、アセンブリ言語並みの効率的なコードを生成しやすい利点を持つ。基本的なデータ型としてintやchar、floatなどを用意し、ユーザが自由度の高いプログラムを記述できるように設計されている。さらにポインタの概念が導入されているため、メモリ操作や配列の管理などを手動で行うことが可能である。これは柔軟性が高い反面、メモリリークやバッファオーバーフローなどの危険も内包している。関数を単位としてプログラムを構造化できるモジュール性も特徴であり、大規模なソフトウェア開発において複数のソースファイルに分割して管理できるため、協調開発が行いやすい状況を生み出している。標準ライブラリとして入出力や文字列操作などの基本関数群が整備されていることも相まって、ハードウェア制御から高水準のアプリケーションまで幅広く対応する言語基盤を実現しているのである。
コンパイラとビルドプロセス
一般的にC言語プログラムのソースコードは、プリプロセッサによるマクロ展開やインクルードファイルの取り込みなどを経た後、コンパイラによってアセンブリコードへ変換される。その後アセンブラが機械語へと翻訳し、リンカによってライブラリや他のオブジェクトファイルと結合されることで最終的な実行ファイルが生成される仕組みである。GCCやClangなどのコンパイラは最適化オプションを豊富に備えており、コードの高速化やサイズ縮小を狙った高度な最適化が可能となっている。コンパイル時に行われる型チェックや構文解析は決して厳格すぎるわけではないが、明確にエラー箇所を特定できるレベルの警告やエラーを報告するため、大規模プロジェクトであっても堅牢性を確保しやすい特徴を持っている。
応用事例
OSカーネル、デバイスドライバ、組み込みシステムなど低レイヤの開発においては、強力なポインタ操作や直接的なメモリアクセスが必要になるためC言語が不可欠となることが多い。Linuxカーネルをはじめとして、数多くのオープンソースプロジェクトがC言語で書かれてきた経緯があるため、膨大なコード資産が存在し、学習リソースやコミュニティも充実している。さらに、プログラミング教育の初学者にとっては、コンピュータの仕組みを学ぶための基本言語という位置づけも強い。アルゴリズムとデータ構造を直感的に理解しやすい利点があるうえ、さまざまなハードウェアプラットフォームに移植可能であることも相まって、Cの知識がコンピュータサイエンスの基礎力を高める一助となっている。