タージ=マハル
タージ=マハルは、北インドのヤムナー川沿いに位置する、17世紀に建設された壮麗な廟建築である。ムガル帝国第5代皇帝シャー=ジャハーンが、亡き皇妃ムムターズ=マハルのために建立した霊廟であり、その完璧な左右対称性と白大理石の輝きから「愛の記念碑」とも呼ばれる。現在では観光名所であると同時に、人類共通の文化遺産として評価されており、ユネスコの世界遺産にも登録されている。
歴史的背景と建立の目的
17世紀前半、ムガル帝国は政治的・経済的に最盛期を迎えていた。その頂点に立った皇帝シャー=ジャハーンは、寵愛した皇妃ムムターズ=マハルを遠征先で失い、その深い悲しみから彼女のための霊廟建設を命じたと伝えられる。皇妃の死後まもない1630年代から工事が始まり、長年にわたる建設ののち、霊廟を中心とする庭園やモスク、門楼などを含む壮大なコンプレックスが整えられた。タージ=マハルは、個人的な愛情の表現であると同時に、帝国の富と権力、信仰心を示す象徴的な建造物であったと理解されている。
建築様式と全体構成
タージ=マハルの建築は、ペルシア系の伝統とインドの建築技法が融合したものであり、イスラーム建築の粋を集めた作品とされる。霊廟は高い基壇の上に建ち、大きな玉ねぎ形ドームと四隅のミナレット(尖塔)によってシルエットが形作られている。四分割された庭園(チャハルバーグ)と長い水路は、天国の庭を地上に再現するというイスラームの楽園観を反映している。敷地全体は厳格な左右対称で統一され、正門をくぐると視線の先に白い霊廟が正面に現れるよう設計されており、訪れた者に強い印象を与える。
白大理石と精緻な装飾
タージ=マハルの外装には白大理石が用いられ、その表面には色とりどりの宝石や半貴石をはめ込む象嵌技法が施されている。壁面やアーチには草花文様や幾何学模様が連続し、遠目にはシンプルに見えながら、近づくほどに細密な意匠が現れる仕組みである。また、アーチの縁や扉周りには、コーランの章句が美しいカリグラフィーで刻まれており、建物全体が聖なる言葉に包まれている。白大理石は光の条件によって色合いを変え、朝焼けや夕暮れ、月夜には淡いピンクや金色、青みがかった白など、さまざまな表情を見せることから、時間とともに姿を変える建築として語られてきた。
宗教的意味と象徴性
タージ=マハルはイスラーム教徒の皇帝による廟であるため、内部空間や庭園構成にはイスラーム教の世界観が色濃く反映されている。霊廟はこの世と来世を結ぶ場として位置づけられ、中央部に皇妃と皇帝の象徴的な棺が置かれ、その下層に実際の墓室が設けられている。庭園は、川や水路によって区切られた緑地が楽園の川を暗示し、花々や樹木は永遠の生命を象徴する。こうした構成により、タージ=マハルは単なる記念碑ではなく、信仰と愛情、権威が一体となった空間として理解されてきたのである。
評価と保護の取り組み
タージ=マハルは早くから各地の旅行者や美術愛好家から賞賛され、植民地期以降も保存と修復が続けられてきた。20世紀に入ると、その普遍的な価値が国際的に認められ、ユネスコの世界遺産に登録されている。一方で、周辺地域の大気汚染や観光客の増加は建物の保存に影響を与えており、排ガス規制や周辺工場の制限、大理石の洗浄といった対策が講じられている。今日、タージ=マハルはムガル帝国史やイスラーム建築研究にとって重要な素材であるとともに、愛と死、信仰と権力をめぐる象徴的な建造物として世界中の人々を引きつけ続けている。